バトルへの参戦
では、習うより慣れろだ。まずはバトルに参加してみよう。
神はそういうと、ふたたび闘技場に俺は移動していた。
ふと見上げると、スクリーンに、お題と書かれた文字が出ていた。
「受験生の心の開放をせよ。
受験に縁起の良い食べ物や縁起の悪い食べ物があります。
たとえば日本では勝負に勝つということでトンカツが人気ですね。
今回は受験生に縁起が悪いとされる。
ワカメスープ、茶漬けや粥、落花生を逆に縁起がいいものとして論理展開してください。
ちなみに
A ワカメスープ⇒ワカメはぬるぬるして掴むと滑るところから。
B 茶漬けや粥⇒固まった米を崩すことから。
C 落花生⇒花が落ちて実がなるというところから。
題材は早押し形式で先に取ったものから優先権があります。
出場者はカウントダウン後、希望のボタンを押してください。
そして確定したら、手元の端末に論理展開した文を書いてください」
と書いてあった。
そしてそれが3分ほど表示されたあと、カウントダウンがスタートする。
目の前にはABCのボタンがある。
3.2.1.0
(ピポンピポンピポン)
俺はCに決まった。
他の人がABを選んだようだ。
「それではご記入ください」
とアナウンスが流れる。
俺は考えた。
落花生は、花が落ちて実がなるというところから縁起が悪いとされる。
これは知っている。居酒屋でバイトしている時は、落花生という言い方はせず、ピーナッツという言い方をした。受験中の子供の親御さんがいないとも限らないからだ。
あとは落花生は南京豆ともいう。
そこら辺を使えばいいと論理展開すればいいのか?
いいや。それでは落花生という言葉に囚われた人達は解放できない。
逆に、こう考えてみればどうだろう。受験生に花はいらないものだと。
実際、高校受験の時には、部活も恋愛もストップする。つまり花は捨てる。
そして土に入り、家にこもって勉強をする。そして実をつける。
そういう落花生の本質をとらえれば、決して縁起の悪いものではない。
むしろ余計な執着が落ちて、受験に集中でき実がなる。
つまり合格するという縁起のいいものとも言える。
俺はその事を手元の端末にまとめた。
「落花生は花を落とすことで沢山の実をつける。
受験生も花(部活や恋愛)を落とし土(家)にこもることで、実をつける。
これは受験生が執着を落とし、目的に集中させるために縁起のよい食べ物だ」
(ぴこんぴこんぴこん)
モニターに一斉に答えが提示された。
「ワカメスープ:まずワカメ自身がすべるわけではない。ワカメの周りがヌメヌメしてすべりやすくなるだけだ。ワカメを取り入れる事で、人はワカメと同化する。周囲がすべるわけだから、縁起がいいと言える」
「茶漬けや粥:米を崩すことから縁起が悪いとされるが。これは上位のライバルを崩し、ライバルを一気に飲みこむという形とも捉えれるから、非常に強い形であるともいえる。つまり逆に縁起がいいものだ」
「落花生:落花生は花を落とすことで沢山の実をつける。
受験生も花(部活や恋愛)を落とし土(家)にこもることで、実をつける。
これは受験生が執着を落とし、目的に集中させるために縁起のよい食べ物だ」
会場から、どよめきが起きた。
「では得票をお願いします」
(ぴこんぴこんぴこん)
「Aが30%、Bが30%、Cが40%でCの勝利です」
とアナウンスが流れた。
なにかよくわからないが、これで勝ったのか?
俺は神の方を見る。
「まずは初戦勝利おめでとう」
と神は言った。
そして、ふたたびさっきの部屋に戻った。
「あれでバトルは終了なのですか?」
俺は尋ねた。
「そうだよ」
と神は言った。
「これからどうすれば?」
俺は尋ねた。
「君はこの部屋と闘技場を行ったり来たりだから、バトルがない時は、ここでノンビリしているといいだろう。この端末で世界の全てにアクセスできるからね。退屈はしないはずだ。
あぁそうそう。君がいない世界も、例えば、あのバイトの子なんかも見れるよ。どうする?」
と神は言った。
俺は躊躇した。
「ショックを受けるかもしれませんね」
と俺は言った。
「ははははは。それも面白いね。じゃあ見よう」
と神は画面にあの喫茶店を映した。
「ちょっとやめてくださいよ。まじでメンタル持たないかもしれない」
と俺は言った。
「だいじょうぶだよ。執筆器官をインプラントしたから、感情は薄まっているよ」
と神は言った。
執筆器官という言葉はひっかかったが、たしかに感情は薄まっている気がする。
俺は映像を見始めた。
―――――
「あの。朝のお客さんいただろう。ほら君が髪留め褒めてくれたって人。あの人、遠いところに行くんだって」
とマスターは言った。
「えっ」
と女の子は、持っていたトレーを落とす。
「すいません。驚いちゃって……」
と女の子は言った。
それを見た神は言った。
「ずいぶん動揺しているようだね」
動揺?なぜ動揺する。
「それで、どこに行かれたんですか?」
と女の子は言った。
「それが遠い所としか、あとは戻ってこれないと思うと」
とマスターは言った。
「……そ、そうなんですか」
と女の子は言った。
「それで、そのお客さんから君に渡してほしいものがあるって、頼まれてて」
とマスターはカウンターの引き出しから、俺のプレゼントを手渡す。
女の子は震える手で、俺のプレゼントを受け取り、ギュっと抱きしめた。
「手紙が入ってるらしいから、見てみたら。休憩入っていいよ」
とマスターは言った。
女の子は会釈をし、店から出ていく。
映像は女の子を追いかけ、公園についた。
女の子は、手紙を読み、顔をくしゃくしゃにして、涙を流した。
なんで、泣いているの?
俺にはわからなかった。
「……好きだって言ってたらよかった」
女の子のかすかな声が聞こえた。
女の子は数十分間そこで肩を揺らしていた。
そして箱から髪留めを取り出し、鏡を見て、頭につけた。




