神々
そうか。神は人に距離を開けられすぎて、暇なんだ。もっと交流を取りたいのかもしれない。そんな風に考えた。
「神さまは人をどんな風に見ているのですか?」
と俺は尋ねた。
「欲求ばかりする。困った時だけ来る。礼をしない」
と神は言った。
「人間の事は嫌いですか?」
と俺は尋ねた。
「いや。別に嫌いではないが、好きでも無い。しかし面白い人間は好きだ」
と神は言った。
「神に好かれれると何かいいことでもあるのですか?」
と俺は尋ねた。
「そうだな。その本人が何も願わずとも加護は厚めにする。これは私だけではなく。どんな神でもそうだ。神は長命。そしてこの世界は退屈だ。退屈を打ち砕くような奴には、がんばってもらわないと刺激が足りぬ。だから必然的に神は面白きものに力をやる」
と神は言った。
「じゃあ。人間はとにかく楽しく生きたほうが色々良いってことですか?」
と俺は尋ねた。
「そういう事だな。お前の人生なんか。なかなか面白かったぞ」
と神は言った。
俺は神の基準がわからなかった。
「高卒で就職氷河期で万年フリーターで、貧乏ボロアパート住まいで、世間的には負け組ですが、こんな俺でも面白いですか?」
俺は尋ねた。
「あぁ面白い。こういう男が逆転するとか、そういう成り上がり系のコンテンツは神々にも人気だ。でもな。逆に逆転しなくてもいいのだよ。ずっと日陰にいてもいい。でもな。最後に子猫を救うとか、それで自分の人生価値あったなとかそういうのでも良い」
と神は言った。
「なんか。沢山の人を救ったとかのほうがすごそうな気がしますけど」
俺は言った。
「私たちは神だぞ。人を救うなんて日常茶飯事の事だ。特に珍しいことではない。蜘蛛の糸という小説がある。あれなんぞは。大罪人だが蜘蛛を1匹救ったことで、地獄に蜘蛛の糸を垂らされるという作品だ。
あぁいう非日常が面白いのだ」
と神は言った。
「では。沢山の人を救った人は、それほど面白くないと?」
と俺は尋ねた。
「いや。面白いよ。実に面白い。というか、沢山の人を救う人というのは、性質からして限りなく神に近い存在だ。彼岸に近いというか。こういう存在は特殊な存在なんだよ」
と神は言った。
神に限りなく近い存在。
そういうのが存在するのだ。
俺はその事が少し気になった。
「俺。沢山の人は救えないけど、あのアルバイトの子は救いたい。ポイントでアルバイトの子の弟の病気を完治させたいのです」
と俺は言った。
「実に面白い。君が人を救いたいとは。それこそが面白い。がんばりたまえ」
と神は言った。
その顔は少し暖かなものにも見えたが、やはり目の奥は氷のように冷たく感じた。
……
それからいくつかのバトルに勝ち残り、ポイントは1100ポイントを突破した。
しかし少しは余裕を見ておかないと、立て続けに負ける可能性もある。
あと1勝すれば、アルバイトの子の弟の病気を完治させるのにポイントを使おう。
そんな事を考えていると。
ふたたび闘技場に俺は移動していた。
ふと見上げると、スクリーンに、お題と書かれた文字が出ていた。
「今回はお題に対して口頭で答えよ。
そして、
制限時間は5分」
『①我々はあらゆる恵を与えてきた。
しかし、なぜ地上にはあんなにたくさんの苦しみがある?』
いきなり、ハードな問いだな。
そうだ。
たしかにあらゆる恵はある。
でもたくさんの苦しみがある。
なぜだ。
なぜだ。
そうだ。
俺は答える。
「自己演出上の地獄。自己演出上の苦しみ
そんなものは腐るほど、あった。
かまって欲しいから、苦しさを盛る。
そしてそれを真実と錯覚し、苦しむ。
自分の吐いた息の臭さに耐えきれず、本当の地獄に向かっていく。
そんな奴が腐るほどいた。
苦しさや辛さを自己の存在証明にする。
それも一つの生き方だろうが、苦しみが自己の存在証明になればなるほど、苦しさの牢獄に閉じ込められる」
俺はSNSの事を思い出していた。
自分で苦しみを作り出す奴が、
そこにはたくさん存在した。
『②偉大な導師と呼ばれた男はこう言った。
全ては空である。
つまり全ては幻想だと。
ただそこで衝突が起こった。
幻想ならなぜ消えない』
これも難しい。これは多分、色即是空。般若心境のことだな。
空ならば、なぜ消えない。
これはとても難しい問いだ。
どう答える。
そうか。
答えはひとつとは限らない。
よしこれで行こう。
「答えはいくつかある。
一つは苦しさを自己存在証明にしようという心があるからだ。
君にはこういう経験がないか?
私生活のトラブルにイライラしていて、つい関係のないニュースに怒って書き込みをしたとかいう経験が……。
つい関係のない店の従業員に文句を言ったとか、そういう経験はないか?
こういう風に怒りは増幅される。
そしてSNSサイトやネット掲示板が出るまで、こういう怒りがあっても可視化されずに、流れて消えた。
しかし今はログという形で一瞬の怒りがそのまま未来に残り続けていく。
せっかく神々が恵を与えているのに、人間達が一瞬の苦しみを固定化させて、世界に撒き散らしている」
と俺は答えた。
「それでは皆様方評価してください」
とアナウンスが流れる。
(ぴこんぴこんぴこん)
「合計318ポイント。318ポイントが加算されました」
とアナウンスが流れた。
俺は神の方を見る。
と神はガッツポーズをしていた。
そして、ふたたびさっきの部屋に戻った。
「ありがとうございます。これであの子の弟の病気が治せます」
と俺は言った。
「礼は良いから。早く状況を見なさい」
と神は言った。
俺はアルバイトの女の子の現在の状況を再び覗く。
病室で弟の手を握り、はげましている。
モニターには、
(残りの寿命は本日未明まで)
と書かれてあった。
すぐにポイントを使います。
と俺は言った。




