焦りと影と
恋っていいですね。
「結局お前彼女とどこまでいったの?」
文化祭の打ち上げ。突如として始まったその話は男子全員の興味を惹いた。さっきまで部活やら先生の愚痴やらを話していた者も、当然俺もその話に耳を傾ける他なかった。
皆からの視線を集めるのその青年は、少し恥ずかしそうにしながら、少し考え、その口を開いた。
「実は…夏休み中にヤりました。」
その言葉を聞いた男達はそれはもう盛り上がった。その盛り上がりは、答えた青年に更に質問攻めをして一つまた一つ答えるたびに大きくなり、店の人に注意される程になった。
その青年は、恥ずかしそうに笑う。
俺はその笑顔が憧れになった。
俺は初恋以来、恋というものをした事は無かった。初恋も小学生の時だし、価値観も大きく変わってしまった。
思い出せば、初恋はあまりにも不思議であった。彼女…初恋の人に俺は自然に、そう当に自然に目を奪われていたのだ。彼女の横顔、彼女の体、彼女の瞳、彼女の動き。当に彼女の一挙手一投足に恋をしていた。
だが、彼女に想いを伝えることなく、親の仕事の都合で引っ越しを余儀なくされた。それ以来恋というものを実感することは無かった。
打ち上げ中、様々な奴が次々とカミングアウトしていった。一人は彼女がいる事を、一人は二股していることを、一人は別れた事を、一人はケンカ中ということを。
俺に話が回ってきた時、何も話すことが無く適当に流した。
打ち上げが終わり、各々が帰路につく中、自転車を走らせ、十時手前の星空を見ながら恋心について考えていた。
「俺は遅れている?」「やっぱり皆彼女いるよな…」「あいつの彼女可愛いよな」「もっと話しかけたほうがいいよな」「恥ずかしいな」「ズルいよな」
家に帰り、風呂に入る。いつもは心地よいお風呂だが今日は心がズキズキと痛み、頭の中は煩悩のみだった。
打ち上げ中に丁度隣にいた彼女持ちの友達に聞いた事があった。
「恋が分からなくなった。」
「…じゃあさ、クラスであの子可愛いな〜とか、あの子魅力的だな〜て感じる子いないの?」
「それは…いるな。」
「いるの?じゃあさ、それをあの子と話したいな、あの子に近づきたいなって思うんだよ。それか自然に恋になる。」
「そういうものなのかな?」
「まぁ恋なんて人それぞれなんだし自由だよ。」
「そういうものなのか…」
ベッドに横になり今日一日の疲れを落とすように寝ようとする。だが、頭は「恋」を見つけようと暴走していた。
当然「待ち人」が急に現れることはないことは理解している。だが、皆が彼女を持っているということの焦りが俺を刺激する。
「遅れている」と言う事実が心臓を打ち、脳を刺し、喉を焼く。
「俺は今、恋をしているのか?」それはNOだ。
「誰かを可愛いと思っている?」それはYESだ。
「その子と過ごす未来を想像できる?」NOだ。
「その子とHしたい?」YESだ。
「それは恋か?」NOだ。
クソッタレの考えだ。
今日この短い夜に悩んだとしても、答えは出ないだろうが、俺は考えるのを止めることは出来なかった。
寝不足気味の中、学校へと向かいいつも通りだが先週とはどこか違う授業を受けた。




