第2話『無能力お兄ちゃん、最強騎士団長を超え反逆する』
クレーディーは、ベッドの中で過去の出来事を思い出していた。
「ルナが頑張るから、俺も頑張れてる。まあ、近所の料理店で働いてるだけだけどな」
「お兄ちゃんはすごいよ。わたしなんかよりよっぽどできることが多い」
「やめてくれ。そんなこと言われたって悲しいだけだ。騎士団長の方が給料も多いだろ……」
クレーディーは悲しそうな顔をしている。
「ルナがいないことで死ぬ命があったら申し訳ないだろ。おれは勉強しかできなかったし店で働いて金を稼ぐしかなかったんだ………」
「優しいお兄ちゃんが好きだよ」
「強くなかったら誰も守れない。おれの代わりにルナがみんなを守らなくてどうする」
今日はクレーディーは休みなため、布団に潜っている2人と1匹。クレーディーは視線を逸らした。
「じゃあ……大好き」
ルチェリールタはクレーディーの頭を撫でた。クレーディーはルチェリールタに視線を合わせないまま、眠りについた。
「チビィ、寝よっか」
「おう。寝るか」
「ぎゅーしていい?」
「いいけどルナ、苦しくしないでくれよ?」
ルチェリールタはチビィのすべすべな体をぎゅっと抱きしめ、眠りについた。
夜空に星が輝いている。
夜の魔法王国ヌノには色んな人がいる。早くに眠りにつく者、遅くまで起きて店を営む者、勉強をする者、友と談笑する者や恋人といけない一夜を過ごす者───そして、天体観測をする者。
「………?」
開いた平原で、男が望遠鏡を覗いていた。
「なんだこれ?」
望遠鏡で見る映像に違和感を感じた。何か複数の物体が空に浮かんでいるようだ。
翌日、朝。
「ふわぁ……あれ、いつもお兄ちゃんの方が先に起きてごはん作ってくれるのに……」
「あれ、クレーディーはまだ寝てるのか?」
ルチェリールタが起きると、クレーディーはまだベッドで寝たままだった。とても静かに眠っているクレーディー。
「っ、まさか!?」
ルチェリールタは険しい顔をし、クレーディーの胸に耳をあてた。
「おいどうしたんだよルナ……まさかクレーディー、死んだのか?」
「そんなわけないでしょ!!…………………っはぁ、良かった。生きてる」
安心し、壁にへたり込むルチェリールタ。
「でも珍しいな、クレーディーがこんな時間まで起きないなんて。今日は2人とも休みだろ?」
「うん」
時計は午前9時を指し示していた。
「起きてこないなお兄ちゃん。疲れてるのかな…………しょうがない、シリアル食べるか」
起きてこないと判断し、買っていたフルーツシリアルを食べることにした。忙しい時に簡単に食べられる食事として、フルーツシリアルを用意していた。
白くまるい皿にフルーツシリアルと牛乳を入れ、木のスプーンですくって口に運ぶ。
しばらくして、クレーディーが起きてきた。
「遅いよお兄ちゃん!もうシリアル食べちゃったからね?あ、でも朝ごはん作ってくれるなら作ってほしいなっ」
「お兄ちゃん…………」
ルチェリールタの言葉の『お兄ちゃん』の部分に反応し、復唱するクレーディー。
「…………?」
ルチェリールタは、そんなクレーディーの様子に違和感を感じた。なぜならいつもそう呼んでるので、復唱する理由がないと考えたから。
「よおクレーディー、朝ごはんはまだ作ってくれないのか?」
チビィが、クレーディーの肩にぺたんと触手を置いた。
「お前、魔族か…………」
ゆっくりとチビィの方を向き、呟くクレーディー。
クレーディーが、手のひらをすっとチビィに向けた。
ピリッ──
ルチェリールタは、大きな魔素のエネルギーを感じた。何が起ころうとしていたのかを咄嗟に気づき、
「危ない!!」
魔法を発動し、チビィを庇った。
ドグァァァァン──!
「ぎゃぁっ!!」
突然の大爆発と、ルチェリールタの叫び声。家には大きな穴が開き、煙が立ち昇っていく。
瓦礫の下から、ルチェリールタがチビィを抱いて這い出た。
「ルナ!何があったんだ!?」
チビィは何が起こったのかわからないといった様子。
「いっっっった…………!はぁ、はぁ……防御魔法を発動して、わたしとチビィを守った……いや、そんなことより」
ルチェリールタは、強力な魔素反応の出どころ──クレーディーの方を見つめた。
煙が立ち昇る家の中から姿を現したクレーディー。
「お兄ちゃん……なんでお兄ちゃんが魔法を使ってるの?」
「ま、まさか。クレーディーがボクとルナを攻撃したっていうのか?ていうかあいつ、なんで魔法を使えるんだよ?クレーディーは魔素が無かったはずだろ!?」
「そうだよ!でも今は……わたしより強い?」
驚いた様子のルチェリールタとチビィ。
「え、なんだ?」
「あれルチェリールタ様だよな?」
「何してんだ?」
爆音を聞きつけた民衆が、徐々にルチェリールタたちのいる場所へ近づいてくる。
「来るな!早くあの男から逃げろ!!」
ルチェリールタがクレーディーを指さし、男勝りともとれる大声で民衆に呼びかけた。民衆は一瞬戸惑ったものの、その指示を聞きルチェリールタたちから遠ざかっていく。
「なんでクレーディーがボクたちを狙うんだよ……」
「わたしたちじゃない。あれはチビィを狙ってる」
ルチェリールタは、クレーディーがチビィを狙っていることを肌で感じとっていた。
「まさかこの俺の魔法を防ぐとはな。なぜ魔族を庇う……魔族は人間の敵だろ。どけ」
その声は確かにクレーディーのものだったが、普段とは違いドスが効いていた。
「何してるのお兄ちゃん!チビィを攻撃するなんて!ていうかその魔法の力は何?今まで隠してたの!?」
クレーディーを問い詰めるように叫ぶルチェリールタ。
「魔族は殲滅するべき存在だ。お前が騎士だとしても、魔族に与するのなら、ここで排除する……」
「お兄ちゃん…………」
ルチェリールタにジリジリと近づくクレーディー。
ルチェリールタが、どちらかの死を覚悟したその時。
ウゥゥゥゥ──カーンカーンカーン!!
突如、けたたましいサイレンの音が国じゅうに鳴り響いた。
「な、このサイレンは……危険度マックスの緊急事態!?いったい何が…………」
ルチェリールタの頭を駆け巡る疑問符。しかし、その答えはすぐにわかった。
雲をかきわけ、空から多数の円盤──未確認飛行物体が姿を現した。その数は1000を優に超えており、それらを引き連れている、まるでそれらのボスかのような巨大な円盤がでかでかと空に佇んでいた。
ピキュ──
1000を超える円盤が一斉に光り、魔素弾が地上に向かって放たれた。
ボボウッ!ボンッ!ドッガァァァァン!!
雨あられのように地上に降り注ぐ魔素弾。
「くっ!!」
ルチェリールタはとっさにできるだけ広くバリア魔法を展開し、周囲を守った。魔素弾の砲撃が止み、バリアを消す。
その様子を見ていたクレーディーは、どこかに飛び去ってしまった。
「飛行魔法……!お兄ちゃんも飛行魔法を使え……いや、あれはお兄ちゃんなの?」
「何が起こってるんだよおい…………あ、ルナ!あれ見てみろ!!」
チビィが指し示した先の、空の円盤たち。そこから、青紫の体躯をした様々な形の化け物がぞろぞろと姿を現し、地上に向かってゆっくりと降りてきた。
「な、あれは……あの姿は!」
ルチェリールタは、化け物の姿形に心当たりがあった。
「ゲドン族……!」
「ルナ!なんだっけそれ!?」
「エカイッシュの伝記に出てくるやつ!ていうか今はそんなことどうでもいい!」
エカイッシュの伝記は文字オンリーで文字でしかその特徴が示されていないはずだが、何度も伝記を読んだルチェリールタには、伝記上の化け物とゲドン族の特徴が合致していると瞬時に気づいた。
ルチェリールタはキッと集中し、
(騎士団のみんな聞こえる!?近くにいる騎士は戦闘態勢、手当たり次第化け物を迎撃していって!!)
通信魔法を発動。
「チビィ行くよ!!」
「お、おう!」
そしてルチェリールタはチビィを抱え、飛ぶための飛行魔法と、チビィが高速移動で圧死しないための防御魔法を発動して超高速で王城に向かった。