『いくら石碑』のさらなる謎
「いくら石碑」の周囲には、奇妙な現象が頻発しているという報告が相次いでいる。ある地元住民の証言によれば、石碑に手を触れた者は、その夜必ず鮭の夢を見るという。夢の中では、自分が鮭となり、川を遡上しながらも「いくら、いくら…」と念仏のように唱え続ける姿が映し出されるのだという。
この夢を見た者の中には、翌朝、無意識のうちに冷蔵庫の中にあったイクラの瓶を抱えて眠っていた者もおり、場合によっては鮭の切り身にまで手を伸ばし、意味もなく頬擦りしていたという事例も報告されている。この奇妙な夢と石碑との関連性については、未だ科学的解明は進んでいないが、一部の研究者は「いくら石碑が持つ未知の磁場が人間の潜在意識に影響を及ぼしている可能性」を指摘している。
さらに近年、国際的な関心も高まり、海外からも調査団が派遣されることとなった。イタリアの古代文字学者ルチアーノ・コスタ教授は、碑文に刻まれた「奉納いくら百貫」の文字の筆跡が、実は紀元前のフェニキア文字の一部と酷似していると発表した。これにより「いくら石碑は太古の航海民族が残した暗号文ではないか」という新説が浮上したが、これが海胡とどう繋がるのかについては、いまだ議論が分かれている。
一方で、地元の伝承に詳しい老漁師・木村与作氏は次のような見解を示している。
「そりゃな、いくら石碑はただの供物じゃねえんだ。あれは“鮭神”さまへの貢ぎ物を記したもんでな。昔は海から上がってくる鮭の中に、たまに金色に輝くものがいて、それが“いくらの王”って呼ばれてたんだ。それを捕まえたもんが村の長になる決まりでな。だけど、欲を出した人間が王を殺めちまって、それから村は呪われちまった。石碑はその罪を鎮めるためのもんさ。」
この証言に基づき、近年では「いくら石碑は封印の役割を持つ」という説も有力視されつつある。碑の周囲には謎の幾何学的な模様が描かれており、夜になると微かに発光するとの目撃例もある。これらの模様が一種の結界を形成しており、かつて村を襲った“いくらの王”の怨念を封じ込めているのではないかと推測する声もある。
いくら石碑は、ただの石碑にあらず。そこには、時空を超えた海と川の神秘、そして人の欲望と畏怖が絡み合った、言葉では語り尽くせぬ物語が眠っているのかもしれない。