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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 長月 鳥


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魔王編㉕

 「シービー‼ 大丈夫か? なぁ、返事しろよ……シービー!」

 俺は彼女を抱え、必死に揺さぶった。けれど腕はだらりと垂れ、人形のように反応がない。


 「嘘だろっ……おい、誰か、早く回復魔法をしろ! まだ間に合うはずだ!」

 声を張り上げた瞬間、ルクスがすでに詠唱を始めていた。淡い光がシービーを包み込む。だが――。


 「……だめだ。マナが反応しない……すまない……」


 その声に心臓を掴まれたみたいに息が止まる。

 すぐそばでドルガスの笑い声が轟いた。


 「無駄じゃ、無駄じゃよ。そやつの体からはマナが完全に消え失せた。もはや生命……いや、物質としての意味すら持たん」


 「何言ってやがる……!」

 俺は涙で視界が滲むのも構わず、ドルガスを睨みつけた。


 「冗談じゃねぇぞ……ルクスよぉ、頼むからもっと真剣にやってくれ!」

 「……っ、ダメだ。力を注いでも、吸い込まれるように消える……」

 「止めるな! 頼むから続けてくれ! シービーが……シービーが動かねぇんだよ!」


 必死に叫ぶ俺を、ドルガスが嘲笑う。

 「滑稽じゃなぁ。たかがクローンじゃろうが。代わりはいくらでも造れる。そうじゃな、今度はもっと幼い個体でも造ってもらえばいい。そなた、そういうのは好きじゃろ?」


 ぶっ飛ばしてやりたい。

 胸の奥が焼けるみたいに熱くなって、拳を握り締めた。だけど、前が涙で霞んで見えない。

 シービー……さっきまであんなに元気に憎まれ口を叩いてたのに……なんでだよ。


 「魔王様! この力があれば、我らを阻むものは何もありません! 世界を手に入れましょうぞ! 平和な世を望むのは、それからでも遅くはない!」

 ドルガスの声がやけに遠く聞こえる。だが俺にはどうでもよかった。


 考えろ、どうすれば助けられる?

 回復魔法は効かない。呼吸も心臓も止まってる。……けど、まだ温かい。間に合うはずだ。


 ──なにか、俺にできることはないか。

 俺にしかできないことは……。


 ……あった。あるじゃねぇか。


 「AED……!」


 反射的に叫び、空間からケースを取り出した。

 鮮やかなオレンジ色の機械。街の電気屋として防災訓練で何度も扱った、命を救うための道具。


 「な、なんだその異界の器具は!?」

 周囲の幹部どもがざわめく。

 けど、そんな声は耳に入らなかった。


 俺はシービーの服を乱暴に脱がせ、小さな胸に電極パッドを貼り付ける。

 ためらいはなかった。時間が命を分ける。


 「やめろ! 貴様、我が眷属を弄ぶ気か!」

 ルクスの怒りの声が飛ぶ。

 無理もない。AEDの電流でシービーの体がびくんと震えたからだ。

 人工呼吸だって、この世界の奴らには「死者を弄んでる」ようにしか見えねぇだろう。


 「黙ってろ! 俺は助けるんだ……シービーを、必ず助けてみせる!」


 幹部たちの罵声が飛び交う。

 「狂気だ!」「死者を汚すな!」

 「くだらぬ悪あがき……」

 でも、聞こえない。俺は誰の言葉も聞かない。


 「ショックを与えます、離れてください」

 機械の音声が響き、次の瞬間、火花のような閃光が弾けた。


 「っ……!」

 シービーの体が跳ね上がる。その瞬間、俺の腕を通じてビリッと痺れるような衝撃が走った。

 ……なんだ、これ……?

 火花が散ったはずなのに、ほんの一瞬だけシービーの体から淡い光が漏れた気がした。

 マナじゃない。もっと鋭く、粒子みたいに細かい……光。


 ざわめきが広がる。

 「な、何だ今のは……!?」

 「マナではない……異質の……」

 幹部どもが一斉に顔を見合わせる。


 「続ける……!」

 俺は歯を食いしばり、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。汗が滝のように流れる。手が震える。

 けど、止めない。止めるわけにはいかない。


 ──頼む、シービー。帰ってきてくれ。

 お前の憎まれ口を、もう一度聞かせてくれ。


 再びAEDの声が響く。

 「ショックを与えます──」

 俺は全身で覆いかぶさるようにしてシービーを守りながら、心の底から叫んだ。


 「生きろぉぉぉぉぉぉぉ‼」


 轟音。

 稲妻のような光が走り、シービーの胸から青白い閃光が弾け飛んだ。


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