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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 長月 鳥


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王国編①

 翌日、日も登らないうちに俺はコイルの村を後にした。「ちょっと出掛けて来るだけだから、見送りはいらねぇよ」って念を押したけど、朝早くから大勢が見送りに来てくれて、ちょっとほろってきたね。とくにエルナの笑顔は最後まで見ていられなかった。


 ずっと昔、電気屋を頼ってくれていた町のみんなの顔が浮かんだ。

 雨の日も雪の日も、工具箱片手に駆け回っていた頃。壊れた炊飯器に困ってたおばちゃんや、ゲーム機を直して目を輝かせてくれた子どもたち──懐かしい笑顔が胸にこみ上げる。


 ……あの頃と、似てるな。

 誰かの役に立てるって、やっぱり嬉しいもんだ。

 良い世界だな、ここは。


 「おいおっさん、ちゃんとバランス取ってろよ。落ちたら置いてくからな」

 俺は、フリッツの馬に乗せてもらったが、


 「ちょ、もうちょい優しく頼むわ……ケツが、ケツが割れそう……!」

 乗馬なんて人生初。想像以上の揺れと硬さに尻は早々に悲鳴を上げ、異世界の壮大な景色を楽しむどころじゃなかった。


 「なんで、こんなおっさんに抱きつかれなきゃなんないんだよ」

 「なんか言った?」

 悪口を言われた気がしたけど、蹄と風を切る音でなんにも聞こえない。


 これ、目的地までどんくらいあるんだろう……俺の尻、耐えられっかな。


 騎士団っつうのは狂人の集まりなのか? 飯も食わずに日が昇ってから沈むまでノンストップで走り続けやがった。途中で尻が痛い、腹が減ったと叫んでも聞く耳持たずで、膀胱も破裂寸前だったけど、なんとか乗り切った。


 そして、ついに見えてきた王都──その規模に、痛む尻も膀胱の限界も忘れて見入ってしまった。


 城下町に入った瞬間、目の前に広がった光景に圧倒された。

 石畳の通りには色とりどりの屋台が並び、人々の活気ある声が響いてくる。香ばしい焼き菓子の匂いに、フルーツを売る少女の声、道端で大道芸を披露する魔法使いまでいる。


 「なんだこれ、テーマパークじゃん……トイレはどこですか?」 

 無事にトイレを済ませ、大通りを抜けると、坂の上に見えるのは巨大な城。

 白亜の壁にそびえる塔、旗にはカッコイイ剣と盾の紋章がはためいている。

 その麓には、騎士団の詰所と訓練場。

 鎧を着込んだ騎士たちが、槍や剣を交え、魔法を使った実戦訓練をしている。城下町とはまるで空気が違う、張り詰めた雰囲気だ。


 フリッツは「これから、つまんねぇ訓練だ。あーあ、副団長と外回りの方が楽だったなぁ」って言って別れた。これから訓練? 尊敬するわ、あんだけ強いのも頷けるな、人は見かけで判断しちゃいけねぇ。


 クレアに連れられて、城の奥、静まり返った一角に着いた。  石造りの階段を昇り、重々しい扉の前に立たされる。  見上げれば、扉の中央にはエルナから教えてもらった魔法の七系統っぽい紋様が刻まれていた。  厳かな空気に思わず背筋が伸びる。「ここが……大魔導士の部屋?」


 「失礼します」

 クレアはノックしてそう言うと、重そうな扉をゆっくりと開けた。ギィギィと音を立てる扉……建付けが悪いな、後で直してあげよう。


 クレアは部屋に入るとスタスタと、奥にいる人物へと歩み寄り──慣れたように、その小柄な身体をひょいと抱き上げてこっちに戻ってきた。

 子供? その子はロココ調の黒いドレスを着ていて、金髪ツインテール。八重歯が覗く口元と声色は明らかに小学生に見える。


 「これぇい、わらわを子供扱いするでないーっ! やめんかクレアぁっ!」

 「申し訳ありません、報告したいことがあるので宜しいでしょうか?」

 「そういうことは抱き上げる前に言うもんじゃ、いいから下せ」

 「分かりました」

 抱き上げられた状態でバタバタと抗議する子供。思わず見とれてしまうほど滑らかな連携で、クレアはその子供を床に下ろした。


 「こちらの御方が、大魔導士ミーシア・クロウデッド・フォン・ゼンマ・イクロ・ウェーブ・カイロテス・ヴォンハッティヌス様だ」

 クレアが恭しく紹介する。


 「このちっちゃな子が? 嘘でしょ?」名前長いし、覚えられねぇよ。

 「無礼者、ミカちゃん……んっんっ、ミカ様はこう見えて齢120を越えておられる」

 今確かに“ちゃん”ってつけたな、後で怒られるやつじゃないの? 見た目が可愛いからちゃん付けしたくなるのは分かるが。ってかほんとに120歳かよ、耳がちょっと尖がっているからエルフとかそういう種族なのかな?


 「そ、それは悪いことを言ってしまった。すまねぇ、で? 名前は略してミカサマでいいのか?」

 「そうだ、わかればよろしい。絶対にミカちゃんなどと馴れ馴れしく呼ぶことのないようにな」

 クレアは慣れた手つきでミカ様の頭をぽんぽんと撫でた。


 「おい、クレアよぉ……なに気軽に撫でておるんじゃ。わらわは神聖なる魔導士じゃぞ!」

 「はっ……申し訳ありません。つい無意識のうちに」

 どうやら、うっかり無意識だったらしい、って俺は一体なにを見せられているんだ?


 「まぁええわい、それよりもクレア、お前が連れてきたこの男……ワシの結界を貫通させる魔力を放出させとった奴はこいつじゃな」

 「はい、ミカちゃんの言った通りでした。それと付近に見たこともない魔道具らしきものも落ちていたのですが、それもこの電次郎の仕業です」

 「……人前でミカちゃんって言うなといっとろうが」

 ははぁん、この人達、実はめっちゃ仲良いな、別に隠さなくてもいいのに。

 なんだか、和んできた。緊張してたのがバカみたいだ。


 「魔道具使いと、雷系統の魔法使い……いや、雷に似ているが、少し毛色が違うようじゃな……お主、一体全体どこから来た」

 「ミカちゃん様、魔道具使いというよりも、この男、召喚魔法の使い手です」

 「……」

 たぶんミカ様は、ちゃん付けにイライラしているんだと思うよクレアさん。


 「召喚魔法と雷っぽい魔法か、二系統を使い分けるとは……魔王軍の手下か?」

 「いいえ、ゴブリンに襲われていました。それに、結構弱いです」

 弱くてすみませんね。


 「ふむ、気になることだらけじゃが、まずはその漏れっぱなしの魔力をどうにかせぇ。この王都の場所まで魔王軍に知られてしまう」

 「では、魔力制御訓練を?」

 「うむ」


 クレアとミカ様は顔を見合わせた後に俺の方へ目をやった。

 その目が、なんだか楽しそうで、なんだかすごく嫌な予感がした。


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