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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 長月 鳥


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魔王編⑨

 「お前って実は良い奴なんだな、正直言って魔王軍って悪い奴らばっかだと思ってたよ」

 シービーの話を聞けば聞くほど、魔王領の実態が見えてくる。

 その中には、ルクスという魔王の“理想”と、“現実”の乖離も含まれていた。

 もしかしたら、俺に出来ることがあるかもしれない……シービーの素直さはそう思わせる魅力がある。

 

 「はぁ? なに気持ちわりぃこと言ってんのおっさん。あたいは魔族だぞ、他の種族から恐れられる存在だ。なめんな」

 強がっているが顔が赤い。褒められて嬉しいんだな、可愛い奴だ。


 「しかし、そんな恐れられる存在のお前が、なんでこんなツインテールにフリフリのメイド服なんて着てんだ? 全然怖くないぞ」

 「しょうがねぇだろ、インスーラの奴が、おっさんはこういう幼女趣味だから、お前が適任だって言ってよー」

 「はぁ? 誰がロリコンだよ」

 インスーラ……あのインテリメガネめ、初対面から気に入らない奴だと思っていたけど、そんな濡れ衣まで着せて来るとは、許せん。


 「ロリコン? なんのことか分かんねぇけど、おっさんは、おっさんのくせに若い学生に混じって学園に通ってたんだろ? キモイを通り越して関心するわ」

 「いや、いや、それにはちゃんと理由があってだな……」

 「はぁーやだやだ、この髪型だってボサボサの癖毛を隠すためなんだかんな、興奮したらぶっとばすぞ」

 ダメだ。何を言っても逆効果になりそうだ……けど、癖毛か。


 「癖毛が気になるなら、イイの持ってんだけど」

 「……イイのって何だよ、またカデンってやつか?」

 食いついた。やっぱり癖毛を相当気にしているんだな。


 「じゃじゃーん、ヘヤアイロン~」

 俺は得意気に最新型のヘアアイロンを取り出した。

 若い女子向けの売れ筋商品、必需品ってやつだ。


 「へああいろん? それでなにすんだ?」

 電気ケトルの時と同じ反応、やはりこいつちょろい……いや、上客だな。


 「ちょっと、髪ゴム解くぞ」

 俺は、シービーの髪にヘアアイロンをあてて、癖毛を直した。ついでに前髪をちょっとカール気味にしてやった。年中短髪な俺だが、美容家電の取扱いには自信がある。


 「ふぁ~」

 シービーは、感動のあまり、目を輝かせ子供のような表情を見せた。

 「どうだ? 凄いだろ?」

 「おっさん……神か?」

 「ヘアアイロンだけにな」

 「……」

 おやじギャグは通用しないか──

 けど、よっぽど気に入ったのか、鼻歌交じりでストレートになった髪を靡かせてながら、魔王城のことを色々教えてくれた。

 訓練施設や研究所、魔王軍の序列、経費などなど──


 「……って、お前、俺にこんなことペラペラ話して大丈夫なのか?」

 紅茶をすすぎながら、俺はふと思って口にした。

 シービーは、ピタッと動きを止めた。


 「……あ」

 額から、ドッと汗が噴き出す。

 目線は泳ぎ、背中はカッチカチ、明らかに挙動不審だ。


 「おい、大丈夫か? 急に具合悪く──」

 「き、聞かなかったことにしてくれないか? いまの話、ぜんぶ、ぜんっぶっ!!」

 シービーは顔を引きつらせながら、俺の服をワシッとつかんできた。


 「い、命令違反……バレたら魔導炉の清掃係に回される……いや最悪、角折られて研究棟送りに……!」

 「うわぁ、想像以上にブラックだな魔王城」

 「頼む……おっさん、オレが生き延びるためだ……!」

 必死な顔で訴えてくるその姿は、普段の勝ち気で尊大なシービーとは別人のようだった。

 ……まぁ、ここで騒いでも仕方ない。


 「わかった、俺の胸の中にしまっとくよ。安心しろ」

 「……マジで?」

 「マジで」

 ようやくシービーは肩の力を抜き、ソファにへなへなと座り込んだ。



 数分後、ようやく落ち着いたらしく、彼女は少し咳払いをしてから口を開いた。

 「じゃあ……予定通り、研究所に向かうぞ。そろそろ研究者共も集まってる時間だし」

 「予定……あったのか?」

 「当然だろ、あたいは助手兼案内係でもあるんだよ」

 立ち上がったシービーは、ぱんっと手を叩いてから胸を張る。

 いつもの調子に戻ったらしい。さっきの汗だくビビり顔とは大違いだ。



 研究所とやらの扉を開くと、やや騒がしい空気と共に、多種多様な人影が視界に飛び込んでくる。

 研究者たちは、種族も見た目もバラバラだった。


 獣人族の若い男が煙管をくゆらせながら魔導図面を描いている横で、魚人族の女性がブツブツと呪文理論をぶつけている。


 エルフの学者が古代文字を並べた書物を広げている隣では、ドワーフの筋肉ゴリラがドリル付きの謎装置を磨いていた。 


 そして、全員に共通しているのは──

 それぞれに一人ずつ、専属のメイドがついていたこと。


 それもただのメイドじゃない。

 男の研究者には、美女や美少女が。

 女の研究者には、イケメン騎士風や落ち着いた執事風のイケオジが。


 「……マジか……なんで他の奴らには美男美女で、俺には、こんなチンチクリン……って痛ぇ」

 シービーが足を思いっ切り踏んづけた。


 「てめぇの趣味だろうが」

 「だから、違うって」


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