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魔王編②

 静まり返った研究塔の一室。

 魔導機器の並ぶ壁際には、ステラが立っていた。

 彼女の視線の先には、白衣を翻し、背を向けるライオネットの姿。


「先生。……どうして、ゴーレムを暴れさせたんですか?」

 静かな声に、ライオネットは眉ひとつ動かさなかった。

 ステラは歩を進め、続ける。


「……やっぱり、電次郎さんに関連しているのですか?」

 その背中に、ようやく反応があった。ライオネットはゆっくりと振り向き、目を細めて言った。


「不甲斐ない助手に任せていては心許ないのでな」

「わたしの……せいなんですか? 生徒たちが怪我をしたのも、電次郎さんが攫われたのも……全部わたしのせい……ちがう……違います。わたしは電次郎さんを……」

 ひどく取り乱すステラに、ライオネットは振り向き、睨むように言った。


「観察対象に対しての情が、どれほど危険なものか、あれほど説いたというのに……それとも、お前もあの男の力に魅入られたか? だとすれば話が早いのだがな。男(道具)の使い方を教える頃合いか?」

 ライオネットは揶揄う様に笑った。


 道具……この人は、自分以外の者を道具としかみていないのだろうか……。

 ステラは俯き、ポケットの中のボイスレコーダーを握りしめた。


 おばあちゃんへ掛ける優しい言葉。

 子供たちに向ける、期待の心。

 未来ある青年を導く、確かな言葉。


 その全てを電次郎は”あとで消さないと”、そう言った。

 それは、きっと彼のほんの些細な声なのだろう……だから振り返らない。

 だから、きっと、本当の彼の言葉なのだ。


 ステラは前を向き、はっきりと自分の言葉を声に出した。

 「先生は、間違っています。人は道具じゃない。自分の研究のために誰かを傷付けるのは止めて下さい」

 

 その声に、ライオネットの目が一瞬だけ細くなった。

「呆れるわね。あなた、誰のおかげでここに居られると思っているの? 私が間違っているということは、自分自身を否定しているということを理解している?」

 

 「それでも、わたしは……」

 ステラは、再び前髪で顔を隠した。


 「人が進化するためには、犠牲が必要なのよ、ステラ。

 誰もやらないなら、私がやる。ただそれだけのこと。

 ──あなたも、いつか分かる時が来るわ」

 ライオネットもまた背を向け、会話を切った。


 その瞬間、研究室の扉が開き、数人の騎士と神官らしき者が慌ただしく歩み入った。


 「ライオネット教諭、あなたを複数の規律違反、及び誘拐未遂、実験体への過剰干渉により拘束します。同行願います」

 ライオネットの眉がひくりと動いた。

 神官の腕章に、見覚えがある。あれは査問委員会……生徒、教師問わず、この学園都市の法を管理する機関の者。


 「……ステラ、お前……」

 その目が、睨むようにステラを捉える。だがステラは、静かに首を振った。


 「わ……わたしじゃありません」

 査問委員会の後ろから、二人の生徒が顔を出した。

 トレスとスイランだった。


 「悪いな、ステラ。通報したのは俺たちだ」

 トレスは悔しそうに口を結ぶ。

 「電次郎さんとエネッタちゃんへの仕打ちを、見逃すわけにはいかないんだ」

 スイランもライオネットを睨む。

 「これで電次郎さんが帰ってくるわけじゃないけど……学校の“膿”は排除できる。今はそれで、充分だ」

 スイランの淡々とした言葉に、ステラの顔が歪んだ。


 「膿……先生を、そんなふうに……」

 「ふん、小賢しい真似を」

 ライオネットは最後に吐き捨てるように言い、白衣の裾を翻して連行されていく。


 その背中を、ステラは震える唇を噛みながら見つめていた。

 そして、最後に叫んだ。

 「先生……! わたし、先生の優しさを……信じています。罪を償って、帰ってくるのを待っていますから……!」


 ライオネットは一度も振り返らなかった。


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