学園編㊻
「轟電次郎……あの男、一体どこまで規格外なんだ」
魔導ゴーレムを起動したライオネットは、建物の影に潜みながら、眉をわずかに顰めた。
エネッタの誘拐。
ステラへの心理工作。
そして、魔王軍との密約……。
どれもこれも、彼女が己の探求を果たすために用意した“手段”にすぎなかった。
すべては、電次郎の電力──魔力に属さない異質な力を解明するため。
この世界の理を逸脱し、干渉も支配もできず、それでいて魔法すら貫く力。
あれは魔法の終着点ではない。“分岐点”だ。
ライオネットの鼓動は速度を増していた。
「アレを解明するのは……私だけ」
声は熱を帯びていた。淡々とした口調の奥に、確かな情熱が宿る。
電次郎が目立ち続ければ、学会は動く、それどころか国家までも。
それでは手に入らない。研究に支障が出る。干渉が増える。監視がつく。
ならば、いっそ学園ごと沈めてしまえばいい。
多少の犠牲は些細なこと、命は研究の燃料なのだから……。
救うことも、奪うことも、彼女にとってはどちらも同じ“操作”でしかなかった。
現に、ステラはその証明だった。
ただの孤児だった少女に魔法の基礎を教え、学園の席を与え、知識を与えた。
“生きる意味”を与えたと言ってもいい。
だがそれは、慈善でも母性でもない。
彼女が欲しかったのは、自分の理論に従順で、精密に動く観察体のひとつだった。
「ステラ……絆されたとはいえ、電次郎の力を引き出してくれたのは僥倖ね、もう少しだけ部品として動いてもらおうかしら」
その声に込められたのは、静かな執着だった。
ステラの才能を、知識を、心を、彼女は何よりも理解していた。
たとえそれが、本人の自由意志によって離れていこうと──
「電次郎……お前を研究できるのなら、私は喜んで全てを壊そう」
それは、呪いのような愛の言葉だった。
そして、空にぽっかりと空いた穴から、何かが舞い降りてくるのを視認する。
十本の異形の腕を広げ、空を裂いて現れた男。
「あれは確か、魔王軍の一人……バンボルト。インスーラの奴、出し抜かれたか? まぁいいわ。あの男なら、この場を掻き乱してくれるはず」
混乱は好機。秩序は障害。
この学園が混乱に陥れば、王国は統制を失い、電次郎は立場を見失う。
「孤立した者は、逃げ場を失い、導かれる……私のもとに」
彼を救う“優しい教師”として。
彼を試す“試験官”として。
彼を解体する“研究者”として。
全ては、知のために。
秩序も倫理も、命すらも、研究の前では塵にすぎない。
「戦争に加担しようが、命を奪おうが、知を得られるなら私は厭わない」
彼女の瞳に映るのは、ただ一人、電気をまとう異邦人。
「私の研究こそが、この世界の進化だ」
そう呟くと、ライオネットは静かに闇に紛れた。
影の中に溶け、誰の目にも映らぬまま、その口元には嗜虐的な笑みが浮かんでいた。
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