学園編㉜
──大会三日目。
シールドクラッシャーの集合場所。
「エネッタさんが来ていない……?」
スイランの報告に、みんなが耳を傾ける。
「え、まさか寝坊?」 トレスが冗談めかして言ったが、誰も笑わなかった。
「そんなはずありません。エネッタ嬢は前日から入念に準備されていました」 ステラが、いつもの記録帳を閉じながらぴしゃりと言い切る。
「ちょっと気になるけど、姫様には護衛の二人も付いてるからな……」
自分でそう言っておいてなんだが、違和感を感じた。
「そういや最近、あの護衛の二人も見ない気がする……」
「あの、いつもピリピリしてた女騎士と、無口な兄ちゃんなら、競技大会前に国に帰したって言ってましたよ」 トレスが思い出すように言った。
「『もう護衛は要りません』と、強く仰ってましたね」 ステラが静かに補足した。
「はぁ……あいつ、そういうとこあるんだよな」 俺は思わず頭をかく。 王族としての気位が高いというより、無理をしてでも『普通の学生』として過ごそうと努力してたのは知ってるけど、ボディーガードを帰すのはマズいんじゃないか……なんか嫌な予感がしてきた。
「とりあえず、寮には戻ってないにゃ」 ライミが小走りで戻ってきて、息を整えて報告した。
どこに行ったんだろう……何も言わずにどこかに行くような子でもないハズだけど……。
「学園側に報告しておこうか」
胸騒ぎがした俺はそう提案し、みんな賛同してくれた。
試合前、ソワソワしている生徒たちが大勢居るなかに姫様を呼び出すアナウンスが流れる。これでトイレにでも行ってたってことだったら姫様激怒どころじゃ済まないだろうが……まぁちゃんと謝れば分かってくれる……それよりも何かトラブルに巻き込まれているかもしれない可能性の方を消さなきゃな。
「Zクラスの参加メンバーは登録をしてください」
受付の女性がこっちを見て声を張る。
──今日のシールドクラッシャー、出場予定だったのはステラと俺だ。
「……どうしますか?」 ステラが不安げに声をかけてくる。
どうしますかって聞くってことは、ステラもその考えが頭に浮かんでるってことだよな……。
初日全勝。二日目のライミの善戦。
Zクラスの評価が上がってきているのは、みんな理解しているハズ。
ここで登録を拒否して不戦敗なんてことになったら……前半戦の頑張りが水の泡になる可能性もある。それに加えて四日目、五日目がボロ負けなんてことになったら目も当てられないだろうな……でも。
「俺は姫様を探しに行く。メンバーを入れ替えて登録してくれないか?」
別に俺が出なくても良い。攻撃が得意なトレスも居るし、ライミだってリベンジしたいだろう。
「にゃーも探しにいく」 ライミが受付に背を向けた。
「もちろん僕も行きます」 即座にスイランも応える。
「エネッタちゃんが居ないと、勝ってもカッコつけられないじゃん」 トレスも。
「正直、私は自信がなかったので……助かります」 ステラも。
「俺はどっちでも」 ジェダくんにはすまないが、一人じゃ出られないもんな。
「みんな、本当にいいのか?」
俺の不安交じりな声に「エネッタが居ないのに勝っても意味ない」と、声を揃えて応えてくれた。
俺はその足で受付に向かい、出場を辞退することを告げた。
姫様……無事で居てくれよ。




