学園編㉕
スイランを説得するついでに、家電が俺から離れても動くようになったことを伝えた。
「なるほど、それは興味深いですね」
スイランは、目を細めて手で口を覆った。まるで名探偵のような仕草だ。
「なんで急にそうなったんだろうな」
「電力も魔力と同様にレベルアップするのかもしれません」
「レベルアップ？ 強くなったってことか？」
「はい。魔力と同じように、鍛錬の積み重ねで成長する可能性があると思います」
“レベルアップ”──なんとテンションの上がる言葉だろう。だが……。
「でもさ、レベルアップに心当たりがないんだよな……」
ステータス画面が出てくるわけでもなし。いまいち実感が湧かない。
「レベルアップといっても、身体的・精神的な努力の蓄積が重要です。持って生まれた魔力は人それぞれですが、訓練すれば誰でもある程度は伸びます。ただし、一般的にはピークは二十歳前後だと言われています」
「なるほど、どうりでおっさんは俺だけなんだな」
「ええ、電次郎さんは特殊です。もちろん例外もあります。たとえばエルフ族は、ピークが個体によってまったく異なるそうですよ」
「じゃあ、俺はエルフ寄りってことか？」
「どうでしょうね……でも、電次郎さんは日々鍛錬しています。それが成果として現れてきたのかもしれません」
自分でも気づかないうちに、少しずつ成長していたのかもしれない。地道な努力も、馬鹿にできないもんだな。
「ってことは、もっと頑張れば電力の届く範囲も広がるってことか？」
「可能性は高いですね。僕も負けていられません」
静かな闘志を灯したスイランの目が、まっすぐにこちらを見据えていた。
こうして、スイランとの会話の中で自然と競技大会への参加が決まった。前回大会での悔しさが、心の底にくすぶっていたらしい。
好きな家電をプレゼントしてやるって、交換条件も出したけど、部屋にIHコンロや電子レンジなんかの調理家電をいつでも使用できる状態にしていてくれれば、それでいいって返ってきた。
最近よく感じるのはスイランがとても家庭的ってことだ。しかも作る料理はどれも美味いときてる。彼と結婚する女子は最高だろうな。
次はトレスだ。口は悪いが情に厚いあいつには、最新型のVRヘッドセットを贈ることにした。
「マジすかアニキっ、便利さマックスじゃないっすか！」
ヘッドセットを手にした瞬間、目を輝かせたトレスが即決で参加を表明してくれた。
「これ、修行とかにも使えるやつっすよね？ やるっきゃないっすわ！」
よし、これで六人。あと一人でフルメンバーだ。
だが、ここからが難関だった。 他のクラスメイトは誰も目を合わせようとせず、教室全体が妙に静まり返っていた。
参加人数が揃わなければ、そのクラスは棄権扱いになる。戦う前から敗北確定なんて、そんなバカな話があるか。
途方に暮れていたそのとき——
「あの、俺も参加してみたいんですけど」
不意に聞こえた声に、俺たちは振り返った。
「君は……確か」
姫様の転校騒ぎで影が薄れてしまっていたけど、翌日にもう一人、うちのクラスに入ってきた男子生徒が居た。
名前は、ジュダくん。
褐色の肌に、紫の大きな瞳が特徴的なイケメン男子だ。背もスラリと高いし、カールした銀髪からは良い匂いが漂っている。
非常に悔しいが、すでにクラスの女子達の間では注目の的だ。
「ジュダくん、だったな」
「はい。まだ右も左も分かりませんが……力試し、してみたくて」
やる気のある新人、歓迎だ。
「ありがたい。ジュダくん、よろしく頼むよ」
こうして、ついにZクラスの出場メンバーが七人そろった。
次は、各競技に合わせた役割分担と作戦会議だ。
