学園編⑳
姫様の転校初日。
Zクラスの教室は、そりゃもうソワソワしていた。
教壇の前に立つ姫様は、白銀の髪をふわりと揺らしながら優雅に微笑む。 制服姿であるにもかかわらず、まるで貴族の舞踏会にでも出席しているかのような存在感。 その姿に、生徒たちは目を見張り、ざわめきが止まらなかった。
「……お姫様って本当に存在するのにゃ」
俺の前に座るライミがそっと振り向き、きらきらした目でエネッタを見つめていた。
「ふふ、ええ。今日から正式にあなたたちの“同級生”ですわ」
エネッタは微笑みながら、まるで当然のように一番後ろの窓際の席に腰を下ろしている。
目立たないようにしたいからって希望したらしいけど、かえってそれが他の生徒たちに緊張を与えている気がする。
「うわぁ……髪、サラサラ……いい匂いがするにゃ……」
自習中だったのをいいことに、ライミは机を離れ、エネッタにそっと近づいてくんくんと匂いを嗅ぎ始める。
「ちょっ、おいライミ、嗅ぐなって!」
俺は慌てて止めに入るが、エネッタは意に介さず、ふんわりとした笑みで受け流した。
「当然ですわ。わたくしの日課は薔薇の蒸留風呂ですもの」
「すごいにゃ~今度そのお風呂に一緒に入りたいにゃ」
「おいおい、初対面で一緒に風呂はないだろ」
「……」
姫様もビックリした表情してるじゃないか。
「……やはりここに来て正解ですわね。こんな面白い方がいらっしゃるなんて。今晩早速お風呂の手配をいたします。楽しみにお待ちしておりますわ」
「やったにゃー」
って、いいのかよ……いかん、いかん、想像しただけで罪悪感がハンパない。
気まずさで目を逸らすと、ステラがこそこそと手帳を取り出してメモを取っている。俺が初めて来たときも、そうだったな。
よく見ると、メモりながらぶつぶつと小声で何かしゃべっている。
「……王族型生物、特殊な影響力あり。周囲の精神状態に乱れが生じる。要観察……」
姫様も観察対象になっちゃったか。
まぁ、下々の者たちとは育ちが違うっつうか、なんかオーラを感じるもんな。
「ちょっと、そこの地味なあなた。今、何を書いておりましたの?」
俺が変にステラを気にしたせいか、姫様がステラに興味を示した。
「っ……別に。観察記録です」
「あなた、趣味が悪いですわね。地味なのに」
「……バグ認定ですね」
静かに火花が散り、空気がピリつく。ステラのメガネがきらりと光った。
確かに、あんま良い趣味じゃないけど、ストレートに言っちゃダメだろ。
「みなさん、自習とはいえ、今は授業中ですよ」
一番前の席のスイランが振り返って言った。
トレスとの決闘の後、スイランは少し変わったな。色々と自分の意見を言えるようになった。
「それと電次郎さん。制服に糸くず付いてますよ」
そして、世話焼きも強くなった気がする。ルームメイトとしては、ちょっとこそばゆいというかなんというか。まぁ良いことなんだが。
「電次郎様? その方はお付きの方ですか?」
気遣ってくれるスイランに、エネッタは不思議そうに言った。
「友達だよ。学校に付き人連れて来るのなんて姫様くらいだ」
「そうなんですの? それは不公平ですわね。護衛には帰ってもらおうかしら」
「それはそれで心配だから止めて下さい」
姫様になにかあったら怒られるだけじゃすまなそうだしな。
「アニキ、お姫様と知り合いなんて、やっぱマジすげぇすっね」
トレスは相変わらずの軽い感じだが、スイランとの決闘を経て、誰とでも分け隔てなく接するようになった。
やっぱ若いっていいな。
「初めましてエネッタちゃん。俺、トレスって言います。良かったら放課後お茶でもしませんか?」
って、初対面で姫様を“ちゃん”付けはマズいだろって、ナンパもダメ。
「ちゃん……考えておきます」
姫様は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてトレスに返した。
まんざらでもないのか? それとも“ちゃん”付けされるのが初めてだった?
まさか……恋の予感? 青春だねぇ。
俺も学校を去らなくて良くなったし、有意義な学園ライフを堪能しようかな。




