転生編④
「へぇ、この世界って……思ったより“テンプレ”なんだな」
エルナとの会話練習もずいぶん板についてきたある日、俺はぽつりとそう漏らした。
聞けば、ここは『ボルトリア王国』という中規模の王国で、いま俺が暮らしている村はその北部、山間の外れにある『コイルの村』という場所らしい。
生活は農業と狩猟が中心で、貨幣は銅貨・銀貨・金貨の三種類。
流通もあるにはあるが、街まではかなり遠いらしく、村人のほとんどは自給自足に近い生活をしている。
「ここの人たち、優しいよな。……ま、最初は警戒もされてたけど」
「うん。でも、電のおじちゃん、道具いっぱい直してくれたし、みんな感謝してるよ」
エルナは笑顔で言うが、俺の方はむしろ村の人たちに助けられてばっかだ。
炊事は不慣れな俺に代わって世話してくれるし、動けなかった頃は、交代で見舞いにまで来てくれた。
「ほんと、ありがてぇよな……」
エルナと話していると、この世界のことが少しずつわかってきた。
たとえば──この世界には、魔法がある。
火、水、風、雷、光、闇、召喚の七系統。
ただし、誰でも使えるわけじゃない。
例えば、回復魔法は“神官”と呼ばれる神に仕える者しか使えない。神を信じる心が魔法の源になるんだと。
攻撃系の魔法も、属性ごとに魔力の質が違うから、基本的には一系統しか扱えない。
「へぇ……ってことは、俺の“雷っぽい電気”と、“レンジ召喚”って、けっこう珍しいどころじゃないのか?」
「うん。雷魔法を使える人はとても少ないし、召喚魔法なんて、村では見たことないよ」
──やっぱり、俺の能力は、この世界でもちょっとイレギュラーらしい。
どうやら家電は、俺が実際に使ったことのある物なら、この世界に持ってこれるっぽい。
試しにドライヤーやシェーバーなんかを召喚してみたら、見事に成功した。
しかも、戻すことも可能だ。収納する感覚で、“しまう”ことができる。
出し入れ自由の家電なんて、某猫型ロボットもびっくりだ。
ただし──電力の供給は俺がやらないとダメらしい。
電池やバッテリーが入っていても、この世界の空気というか、何かが干渉しているのか、まったく動かなかった。
便利なんだか不便なんだか、よくわからん魔法だ。
あんまり派手に出し入れすると、村の人たちに不審がられるし、今は控えておくことにした。
召喚魔法っていうより、俺の場合は“家電限定の物品召喚”だが……。
召喚できるのは、自分が構造をちゃんと理解してる家電だけ。適当に形を思い浮かべてもダメらしい。
もちろん壊れたら電力を送っても、ただのゴミと化す。でも、魔力さえ残っていれば、また同じものを呼び出すことはできる。
つまり、“魔力=電力供給”。魔法と電気が、俺の中でつながってるらしい。
「それ、すごい能力だよ。電のおじちゃん、ほんとに特別なんだね!」
「やめろって……そういうの、照れるだろ……」
顔を赤らめながら頭をかく俺に、エルナはくすっと笑った。
魔法だけじゃない。この世界には“魔物”もいる。
ゴブリンみたいな小型のやつから、空を飛ぶドラゴンまで。
魔物が多く出る地域では、冒険者や傭兵が雇われて村を守っているらしい。
「魔王ってのも、ほんとにいるのか?」
「いるよ。すっごく遠い場所だけど、そこから魔物があふれてるって」
魔王の名前を出すと、エルナの表情が少し曇った。
「……コイルの村はまだ平和だけど、近くの村は何度か魔物に襲われたことがあるんだって。だから、外に出るときは、気をつけてね」
「そっか……気をつける」
──俺がゴブリン3匹にボコられたことは、もう忘れてくれ。
でも、俺の“電力供給”と“家電召喚”が役に立つなら──
いや、役に立たせたい。
なんだかんだ言って、ここの人たちが、俺を受け入れてくれたんだ。
その恩返し、少しずつでもしていかねぇとな。