学園編⑰(スイラン視点)
電次郎さんが、退学になるかもしれない──。
僕のせいで……。
心臓が締めつけられるような衝撃が走った。
……もう、黙っているわけにはいかない。
そう思った瞬間。僕は、教室の中央で立ち上がった。
「みんなに話があります。……VRヘッドセットに細工をしたのは、僕です」
一瞬、空気が凍ったように静まり返った。 だが、次の瞬間──
「スイラン、優しいな」「電次郎をかばってるのか」「でも、そういうの逆効果だぞ?」
誰も、信じてくれなかった。
「違う、本当に僕が……!」
けれど、どんなに声を上げても、空回りするだけだった。
放課後、薄暗い自室で僕は一人机に突っ伏していた。
「なんで……なんで、誰も信じてくれない」
そのとき、ふと背後から声がした。
「スイラン、どうした。具合でも悪いのか?」
顔を上げると、そこに電次郎さんがいた。 いつもの、少し間の抜けた笑顔。きっと今日もこんな遅くまで、実演販売をやっていたんだろう……。
「……電次郎さん……なんで僕を責めないんですか? 知ってるんですよね?」
そう口にした瞬間、声が震えて涙がこぼれそうになった。
「お前は自分が正しいと思ったことをやったんだろ? 俺にそれを責める理由なんてないよ」
「でも……」
「お前の気が晴れたんなら、その行動は正しかった……だけど、もしも何か、心のどっかでひっかかってるもんがあるなら、それは間違ってたってことだ。それを次に活かしてくれ、俺にはそれだけで十分だ」
「でも、それじゃあ電次郎さんは? 僕が罰を受ければ電次郎さんの疑いは晴れて、またみんなが電次郎さんを……」
「もう気にすんなよスイラン。これは俺の問題だ。どんなに時間がかかっても、俺は信頼を取り戻してみせる。だから、お前まで苦しまなくていい」
そんなふうに笑って、誰も責めず、全部背負おうとする──。
「んじゃ、俺はもう寝るよ。お前も余計なことを考える暇があったら勉強すんだぞ」
電次郎さんは、倒れるようにベッドに入った。
この人は、どこまでも他人を思いやる──それなのに、僕は──
僕の言葉は誰にも届かない──
その夜、僕は決めた。
翌朝、教室に入るなり、僕はトレスの机の前に立った。
「トレス。僕と……決闘してほしい」
教室がざわめきに包まれた。
トレスは怪訝な顔をして、椅子を傾けたまま言った。
「……は? なんで俺と?」
「君を越えなければならないんだ。そうじゃないと、電次郎さんに顔向けできない。それに、僕は君が許せなかった……ずっと、ずっと」
トレスの目がわずかに見開かれる。
「……マジなのか?」
僕は、電次郎さんの魔道具に細工した幻覚魔法の内容を話した。
これは、幻覚を見たトレスと僕しか知らない情報だった。
沈黙のあと、トレスはゆっくりと立ち上がった。
「……分かった。受けてやるよ。報いを受けろ、スイラン」




