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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 長月 鳥


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学園編⑮

 「やめろぉぉぉぉぉっ!」

 教室に響き渡る絶叫。  

 VRヘッドセットを放り投げたトレスの顔は汗まみれで、目の焦点も合っていない。 何かに怯えるように、フラフラと歩いたかと思ったら、そのまま倒れこみ、気を失ってしまった。

 それに女子生徒の悲鳴が続き、周りにいた男子生徒数名がトレスを抱き起こし、医務室へと運んで行った。


 「危険な魔道具だ」  「いや、あれは魔道具じゃない。もっと得体の知れない……」

 ──危険な魔道具……俺の家電で?

 嘘だ。俺はVRヘッドセットに触れていない。家電は俺からの電力供給が無いと動かないハズ……。

 VRは確かにリアルな映像を体験できるが、そんな気を失うほどのコンテンツはなかった。じゃあ、なんで……。

 一瞬、スイランの顔が頭に浮かんだ──いや、人のせいにしてどうする。

 何が原因かなんて今はどうでもいい。俺は急いでトレスが運ばれていく後を追った。


 ♦-/-/-//-/-/--/-/-/--/♦


 保健室のベッドで横になったトレスは、しばらくうなされていたけど、徐々に落ち着き、顔色もよくなってきた。

 医務室の先生が言うには、一時的な精神攻撃の可能性が高いとのことだった。

 ──精神攻撃? 精神的ストレスがかかったってことか。じゃあやっぱり俺の出した家電で……。


 教室に戻った俺は、自分の席に腰を下ろし頭を抱えた。

 ──トレスに申し訳ないことをしてしまった。

 リアルなVR映像、とくに落下やホラー演出はときに過度なストレスを与えてしまう。

 VR技術が進んでいる現実世界でも、使い方には十分に注意が必要なことを知っていたのに……。


 そのときだった。

 「電次郎、元気ないのにゃ」

 顔を上げると、ライミが覗き込んでいた。

 「なんか、トレスの件で責任感じてるみたいだけど……」

 「……そりゃそうだろ。俺が貸した家電だ。俺のせいで……」

 「電次郎の魔道具は、誰かを笑顔にするためのものだとわたしは知っているにゃ」

 ライミの言葉に、胸が締めつけられた。  そんなふうに信じてくれる存在がいるだけで、少しだけ心が救われた気がした。


 「状況から判断するに、あなたは無実です」

 ライミの後ろで、小さくそう言ったのはステラだった。


 「トレスが錯乱した直後、投げ捨てられたVRヘッドセットには、微かに魔法痕が残っていました」

 「魔法痕?」

 「トラップ系の魔法が発動した際に残る魔法の跡だと思ってください。あれはおそらく幻覚魔法の痕跡……別の誰かがあの魔道具に仕込んだのでしょう」

 「幻覚魔法を俺の家電に? 一体何のために?」

 「わかりません。ですが私としては、あなたの魔道具に悪い噂が流れることは避けねばなりません」

 ステラは淡々と話し続けた。 この子、こんなに積極的に話せるんだ。

 「もうすでにあなたの魔道具の悪い噂が広まりつつあります。全面的に協力いたしますので、今に至るまでの状況を事細かに話してください」

 「わたしも手伝うにゃ」

 ステラとライミは、真剣な顔だった。

 この二人、こんなに仲良かったっけ? と、疑問は残ったけど、その嬉しい申し出を断る理由なんてない。俺はVRヘッドセットを召喚し、スイランに貸したことも話した。


 「犯人はスイランですね」

 「そうだにゃ」

 二人はすぐにそう結論付けた。

 「そうか……それはやっぱり、トレスがスイランをイジメていたっていうことが原因なのか?」

 登校初日の雰囲気からして、そんな感じはしていたけど、トレスが俺をアニキって呼ぶようになってからは、部屋でのスイランの雰囲気も変わっていたし、気にならなくなっていた。

 だけど、ステラとライミから聞いたイジメの陰湿さに、考えを改めなければならないとも感じた。

 

 「なあ、二人とも、スイランが犯人だとしても誰にも言わないでくれないか?」

 俺の提案に、不思議な顔をする二人。

 「私は言いましたよね? あなたの魔道具の評価が落ちるのは、ご主人様……いえ、ライオネット先生が困るんです。疑いを晴らすためにはスイランに素直に謝ってもらうことが最善です」

 ステラの言うことは、なにも間違っちゃいない、だけど……。


 「にゃーは電次郎がそう言うって分かってたにゃ」

 ライミの言葉に一瞬泣きそうになった。


 「ライミさん? “にゃ”が増えてないですか? 自分のこともにゃーって言っちゃってますよ」

 「そうかにゃ?」

 「とにかく、早く手を打たないと」

 「電次郎もスイランも困らない解決策を三人で考えるにゃ」

 「……では、私たちで“納得”のいく結末を探りましょう」

 ありがとう二人とも。


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