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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 長月 鳥


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学園編③(ライミ視点)

 なぜだ。なぜ、オレの攻撃が当たらない。


 素早さなら自信があった。獣人族の中でも、牙獣種の中でも、オレは速さを誇っていた。  だが、こいつ──轟電次郎は、そのすべてをかわす。


 目線も、重心も、まったく揺るがない。


 まるで──全部読まれているみたいだ。


 ……やはり、こいつも雷属性の使い手か?

 神経を伝達する体の組織に雷魔法を流し、反応速度を十倍、いや数十倍にまで高める技。  牙獣種に伝わる奥義、それを使っているとでもいうのか?


 「……しかも、速さだけじゃない。軸がぶれない。動きに迷いがない……」

 オレの知っている誰よりも、早い。

 なのに、あいつは──


 「なんだよ、強いっていうから心配したけど。サンダルのが強かったな」

 ──あっけらかんと、そう言った。


 サンダル? まさか、狂戦士サンダルフォンのことを言っているのか?

 いや、ありえない……サンダルフォンは、獣人族の中でも伝説に語られる戦士。  何十人を相手に無傷で勝利したという逸話すらある。

 そのサンダルと渡り合った? はったりにもほどがある。


 「スタンブレードを使うのも気が引けるしなぁ……」

 オレの攻撃を軽く避けながら、あいつはそんなことをブツブツ呟いていた。

 ……なめてるのか?


 「トレス!」

 おじさんは演習場の端で見物していたクラスメイトを呼んだ。

 「この試合……負けたら、どうなるんだ?」

 「試合を拒否した場合と同じで評価が下がるっす」

 「そうか……」

 おっさんは、そう言うと思いつめた顔をした──

 本気、本気を出す気か?

 今まで回避に専念していた力を攻撃に回したら──

 

 脳裏に、敗北の気配を感じてしまった──

 

 ふざけるな、オレは負けない。負けられない。

 くそっ、まただ、また涙が溢れる。

 嫌だ。

 負けたくない。

 泣きたくない。

 

 「俺の負けだ。これで試合は終わりでいいな?」

 「は?」

 聞き違いでなければ、おっさんが負けを認めた。

 なぜ?


 「お前、なんでそんなに戦いたかったのに、そんなに悲しそうなんだ? いや、俺も争いなんて嫌いだし、できればどんな相手にも笑っていてほしいって思うんだけどさ。サンダルと戦ったときはちょっと楽しかったぜ。あいつも笑ってたしな」

 「何が言いたい」

 「嫌なら無理して戦わない方法もあるんじゃないか?」

 「意味が分からない……戦わずして得られる物があるというのか?」

 「バカだなお前、あるに決まってるだろ」

 「バカ……」

 「ああ、すまん。でも強い弱いだけで物事を判断するのは良くないと思うぞ」

 新入生、しかもおじさんに、オレの……いや、

 わたしの全てを否定された気がした。


 「なぜだ……評価を落としてまで、なぜ負けを選んだ」

 「悪いな、みんなはこの学校で勉強して、評価されて偉くなりたいんだろうけど……俺は違うんだ。別の目的があってここに居る。だから評価なんて気にしないし、争いも嫌いだって言ったろ? 女の子を傷付けるなんてもってのほかだしな」

 別の目的? 己を磨く以外に、ここに居る理由があるというのか?


 「じゃあ、教室に戻ろうぜ。もう色々あって疲れちったよ。ウン十年ぶりに教室で居眠りでもしてみっかな」

 そう言って、おじさんは背中を向けた。

 無防備な背中……だけど、大きく見える……。



 「ライミの奴、また泣いてるよ」

 「あいつ、勝っても負けても涙を流すよな」

 「目の病気なんじゃないの?」

 「ほら、動物って本能であんまり瞬きしないらしいし」

 「ネコだしな」


 野次馬たちの声が聞こえた。


 泣き虫ライミ──

 それがわたしのあだ名だった。

 狩猟、縄張り争い、傭兵──

 それが獣人族の生業。

 男でも女でも関係ない。

 強くなければ生きて行けない……そうやって厳しい父親の元で育ってきた。

 

 村で一番の猛者と言われた父親の血を引いているからだろうか、わたしも村の男達に引けを取らない能力を持っていた。

 一対一の戦いも、獲物を狩る技術も、誰よりも優れていた。

 だけど、どんなに強くなっても、誰に勝っても、悲しかった。

 この気持ちは一体なんなんだ。

 考えれば考えるほどに寂しさが増していった。


 それを忘れようとひたすらに鍛錬し、村で一番になり。

 認められて、ここへ入学した。


 もっと、広い世界で、もっと強くなれ。

 お前には、その才能がある──みんなの期待を背に、わたしはさらに鍛錬を重ねた。


 でも、上には上がいた。

 さすが最高峰の魔法学校だ。来て良かった、そう思えた。


 それでも、悲しみは消えなかった。

 いや、むしろ涙することが増えた。

 勝ち負けを繰り返し、強くなっていると自覚できていたのに……。

 それが、父親の望むもの……わたしの生きる意味だと思っていたのに……。


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