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学園編①

 エルグラーダ魔導学園。

 この世界で最も優れた人材が集まる最高学府──らしい。

 

 その門を潜った瞬間、俺の周囲を漂っていた靄のような魔力が消えた。たぶんミカちゃんの結界だ。

 「ありがとな! 俺、頑張るよ」


 守衛みたいな人に挨拶し、案内された受付で名前を名乗ると、パンフレットらしき冊子を一冊渡された。

 「はいこれ、学園案内。校則とか注意事項、クラス構成なんかも書いてあるから、あとで読んどいて」

 渡されたそれには『エルグラーダ魔導学園 入学の手引き』と、金の箔押しが施されていた。

 めくってみると、魔導に関する実技と理論、生活指導、安全対策、果ては校内の地図や食堂の利用方法まで記されていた。中でも気になったのが“クラス分け”についての項目だった。

 ──クラスはSSSからZまで。正確な段数は非公開だが、Zは最底辺とされている。魔力量・技能・実績・素行を総合的に評価し、毎月の成績で昇格・降格が行われる。

 SSSからZまでって、普通に考えたら30近いクラスが存在するってことか? とんだマンモス校だな……まさかとは思うが、俺、Zじゃないよな?


 ──Zクラスだった。

 いいぞ、嫌いじゃない。きっとこれはミカちゃんの愛の鞭だ。

 そう思ってZクラスのドアを開けた。


 「お、君がミーシアの推薦した男か?」

 教卓に立っていたのは、白衣に寝癖、そして目の焦点が合ってるのかも怪しい初老の耳の長いおじいちゃんだった。

 ミーシア? ああ、確かミカちゃんの本名はミーシア・クロウデッド・フォン・ゼンマ・イクロ・ウェーブ・カイロテス・ヴォンハッティヌスだったっけ?

 ということは、この人がミカちゃんの師匠?

 「よろしくお願いします。轟電次郎です」


 「んーじゃあ、その辺の空いてる席に座って。今日も自習メインだから、じゃぁね」

 じゃあね? 自習? なんかやる気のない先生だな。


 「あの、自己紹介とかいいんすか?」

 入学初日に、その辺の席に座って自習って、いくらなんでも……え? 大学ってそういうもんなの? 生粋の工業高校電気科卒が最終学歴だから理解に苦しむ。

 

 「ここはそういう場じゃない。お前の今後の人生に必要そうな者がいるんなら、勝手に紹介すればいい」

 ぶっきらぼうな言葉に、何も言い返せなくなりそうだったが──俺は、腹を決めた。

 「よし」

 俺は教卓に立ち席を立ち、声を張った。

 「俺の名前は轟電次郎! 前は町の電気屋だった。異世界に来て、この学園に編入してきた! ……俺はみんなのことを“将来必要な人たち”だと思ってる!」

 教室の空気が一瞬止まる。

 「だから、仲良くしてくれ!」

 ポカンとする生徒もいれば、吹き出す者、眉をひそめる者もいた。

 金髪巻き毛の少年。猫耳の少女。メガネを隠すくらいの前髪の長い女子生徒。やけにソワソワしている猫背の少年。じっと俺を見つめて必死にメモを取る少女。

 なかなか楽しそうなクラスだ。

 この子たちが将来、俺のお客さんになってくれるかもしれないって思ったら、なんも恥ずかしくない。あからさまに聞こえてくる舌打ちだって歓迎だ。


 「……」

 ミカちゃんの師匠は、何も言わずに教室を出て行った。

 クラスメイト達も、何事もなかったように教科書を開いたり、おしゃべりを始めたり、早い昼飯を食べ始めた。

 なんか、安心する光景だ。

 俺も適当な席に着き、もらった教科書を開く。

 ──なんだよ、ミカちゃんの書庫にあった本の方がよっぽど難しいこと書いてあったぞ?

 「あんま、レベル高くないな」ってつい言葉に出てしまった。


 「よう、おっさん。俺らのレベルがなんだって?」

 金髪巻き毛の少年と、その取り巻きらしきのが俺の席を囲んだ。

 入学初日なのに、なんだか嫌な予感がする。

 

 「だせぇ自己紹介なんて聞かせやがって、声がうるせぇんだよ、おっさん」

 「つーか、誰の保護者ですか? あれ? もしかして掃除のおじちゃん? 来るとこ間違えてますよー」

 と、耳元で言われた。

 やっぱり異世界でもいるんだな、こういうの。ほんと安心するわ。


 「すまんな、声の張りだけは誰にも負けられねぇんだ」

 商売の基本だからな。

 「きしょ、加齢臭くさっ、もう帰れよおっさん。ここはお前みたいな奴が来れる場所じゃねーんだわ」

 まだ口撃してくるか、さすがのおっさんでも我慢の限界ってもんがあるぞ……いや、ダメだ。ここはしっかり大人の対応をしておかないと、ミカちゃんの顔に泥を塗ってしまう。


 「わたしは勉強がしたいので、君も早く自分の席に戻ってください」

 丁寧語は難しいな。

 「ああん? てめぇ誰に向かって指図してんだ? 俺はアゼルバイディン家の跡取りだぞ」

 アゼルバイディン?

 「エルデイン国の由緒ある貴族家系の方です。兄弟が多いので跡取りとは決まっていませんが、その可能性は大いにあります」

 俺の顔にクエスチョンマークでも出ていたのだろうか? 金髪巻き毛の取り巻きの大人しそうな男子が説明してくれた。


 「……」

 よし、無視しよう。

 そう決めた俺は、教科書を開いた。


 バンッ。

 俺の教科書はアゼルバイディンの跡取り候補に叩かれ、そのページを閉じた。

 「次のターゲットけってーい。おっさん明日っからスイランの代わりに俺らのおもちゃな。楽しい魔法訓練に付き合ってもらうぜ」

 アゼルバイディンの跡取りは親指で、ソワソワしている猫背の少年を指差した。

 猫背の少年は泣きそうな顔で、俯いている。


 ──いいだろう、俺があの少年の代わりに遊んでやる。


 そして、午前の授業が終わりを告げ、俺とアゼルバイディンの跡取り候補は人気の無い校舎裏で落ち合った。


 ──その数分後、

 まじっすかアニキっ。

 すげーっすね。

 半端ねぇっすよコレ。

 

 俺はアゼルバイディンの跡取りにアニキって呼ばれる程度までは仲良くなった。


 流石、PC接続なしで、ゲームやVR体験、そして刺激の強い動画が楽しめる最新鋭のオールインワン型のワイヤレスVRヘッドセット。

 少年の心を鷲掴みだ。

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