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王国編⑩

 「敵襲だーっ!!」


 その叫び声とともに、王都訓練場の空気が一変した。


 俺は拳を振り上げたまま、動きを止めた。サンダルも、鋭く顔を上げて空を睨む。


 直後、鐘の音が鳴り響いた。これは特訓中に騎士団の訓練で何度か聞いたことがある。王都防衛を知らせる非常警報だ。


 何が起きたのか、最初は誰も分からなかった。  しかし、次第に騎士たちの間で動揺が走り、伝令が王のもとへ駆けつけた。


 「魔物の軍勢が、王都目前に迫っています!」


 「何……? だが、王都には強力な結界が張られているはずだ。魔物が近づけば、魔力探知で即座に警告が──」


 「……探知できなかったのです。何の前触れもなく、すぐそこまで……!」


 騒然とする場内。  ミカ様が立ち上がり、顔を曇らせた。


 「……まさか、魔王の軍勢……」


 その言葉に、周囲が静まり返る。


 通常、ただの魔物であれば、魔力探知によって数や種類を事前に察知できる。王都を囲む結界は、そのために存在している。


 だが今回は違う。  探知不能。王都目前。靄のような魔力障壁。


 「結界を妨害するだけの魔力……大魔導士級か、それ以上かの存在がいるな」


 この世界でそんな芸当ができるのは、魔王軍の幹部クラスだけ……ミカ様がそう呟いた。


 「やばい……じゃ、じゃあ王都の中、無防備ってことですか!?」


 俺が言うと、クレアが険しい顔で頷いた。


 「魔力探知が効かない以上、魔物の構成も分からない。下手に攻撃すれば、魔法反射でカウンターを食らう可能性がある」


 「それ、普通に攻撃されるよりやばくねぇか……」


 「そうだ。だから、王都は今、混乱している」


 誰も、何をすればいいのか分からない。  靄の向こうに、なにがいるのか。  見えない敵は、最も恐ろしい。


 「ええい、見えないのなら、誰か見てこい」


 審議していた国の偉いひとが叫んだ。


 「しかし、それはあまりにも危険な行為……死ににいかせるようなもんじゃ」


 ミカ様が、悲痛な顔で吐露した。


 たぶん、あの顔は自分に落ち度があるって顔だ。


 クレアが一歩前に出て、ミカ様の肩に手を置いた。


 「わたしが行きます」


 「俺も行こう」


 サンダルもバスターソードを拾い上げて、クレアの隣に並ぶ。


 王都でも屈指の戦士の二人を止める者は居なかった。


 でも、ミカ様の顔は明らかに二人の身を案じている。この二人でも、得体の知れない魔物は、それだけ危険な存在なのだろう。




 ……得体の知れない。見ることさえできれば——。




 「俺に任せて下さい」


 俺は、とある家電を思い浮かべ空間に手を入れた。


 「……これなら」


 呼び出したのはモニター。100インチのでっかいやつ。  さらにもう一つ、小型のカメラ付きドローン。


 「こいつに任せる。魔法じゃダメでも、カメラなら見えるだろ」


 ミカ様がはっと息をのむ。


 「だが、ぬしの手を離れれば、電気は放電して消えるのでは……!」


 ミカ様の言う通りだ。


 特訓中にも色々な家電を召喚して試していたが、乾電池やリチウムイオン電池で動く機器は容量や充電が満タンでも、なぜか俺の手を離れた瞬間に、全ての電力を放出して動かなくなってしまうらしい。


 ただし例外もあった。それがこのコントローラーだ。


 理由はまだ分かっちゃいないけど、なぜかコントローラーを握っていれば、操作される側の機器は電力を放出せずに動き続ける。リモコンやラジコンなんかもそうだ。




 急いでドローンを起動し、コントローラーとモニターをHDMIケーブルで繋ぎ、受信した映像をモニターに映した。 ドローンは空へ舞い上がり、靄の向こうへ、すーっと吸い込まれるように飛んでいく。


 数秒後。  モニターに映像が映し出された。


 「いた……!」「でかしたぞ、電のじ!」


 魔物の大群。  隊列。種類。数。  そして──その中に、一際異質な気配を放つ存在の影。


 「これが……魔王軍……」


 映像を見たクレアと騎士たちが即座に対応に移る。  魔法部隊が陣形を組み、反射を避けた効果的な魔法を選定し始める。


 次々に放たれる魔法。  的確に命中し、魔物たちは混乱する。


 「よし、押し返せるぞ!」


 王都を包んだ緊張が、徐々に希望に変わっていく。  そしてついに、魔物の軍勢は後退した。


 「やった……!」  「助かった……!」  「電気屋、すげぇ……」


 歓声が上がる。




 だが──そのとき。


 静かに、空から“それ”は降り立った。


 靄を裂いて現れたその姿は、人型。  だが、明らかに王都の何者とも異なる気配を纏っていた。


 「……あれは」


 「魔王軍の幹部の一人、インスーラ……」


 誰かが、その名前を口にし、そして、その場にいた全員が息をのんだ。


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