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王国編⑧

 「金持ちの考えることは、やっぱり分かんねぇな……」


 昨日のエネッタ姫とのやりとりを思い返しながら、俺はぼんやりと呟いた。

 執事になれだの、家電を好きなだけ使いたいだの──悪気はないのは分かってるけど、ああいうの、ちょっと苦手だ。


 昔、まだ駆け出しの電気屋だった頃、街の金持ちが大量に家電を買っていった。

 でも数ヶ月後、その屋敷の物置で埃をかぶって山積みにされた炊飯器や美顔器を見たとき、俺はなんとも言えない気持ちになった。

 あの道具たちは、もっと誰かのために働けたはずなのに。

 ──だけど、俺の悪いところでもあるんだよな。商売なんだから割り切っていれば、もっと儲けられて、借金も抱えずに済んだかもしれない……まぁ、後の祭りだ。


 今はこの審議会を成功させて、俺が理想とする電気屋を再開する。

 だから、今日の最後の試験は負けられねぇ。


 戦闘技能試験は王都の訓練場。普段は騎士団の演習場で、広く、観覧席まで備わっている。

 審査官席には王とミカ様の姿も見える。そして観客の間には……エネッタ姫の顔もちらりと見えた。

 なんだか、すごく睨まれている気がする。


 試験官が開会を宣言し、俺は剣を借りて訓練場の中心に立った。

 緊張と汗で、手のひらがじっとりと濡れる。


 相手は誰だろう。騎士団の人が務めるって聞いたけど、知ってる顔だと訓練の延長みたいでやりやすいだろうな。


 「今回の戦闘技能訓練の相手は、最強の傭兵、狂戦士サンダルフォン・シグナ!」


 なんだか、見世物みたいな演出だな。そういえば初日より観客が多い気がする。

 ──その名前、どこかで聞いた気が……。


 あの巨体、背中に背負ったバスターソード、顔の傷。間違いない。ミカ様とクレアの知り合いのサンダルだ。


 「よう、また会ったな」


 「ああ、勘違い野郎のあんたか」


 「勘違い野郎はお前だろう、おっさん。ミカ様だけでは飽き足らず、小賢しい魔道具を使って人々をたぶらかすとは、俺が化けの皮を剥いでやる」


 「ミカちゃんのことを勘違いしてるんだって言ってるんだけど? お前が思うようなことは俺とミカちゃんの間にはないよ」


 「ミカちゃん……」


 しまった。たまにクレアのように“ミカ様”のことを“ちゃん”付けしちまう癖が出た。

 いや、癖っていうか、そう呼びたい気持ちが前に出ちまった。


 「貴様にミカ様の何が分かる……呪われた者の苦しみ……貴様ではミカ様を守れない、救えない。ミカ様に圧し掛かる重荷を代わりに背負うのは俺だ」


 えらく執着してるようだけど、なんだか真剣な顔だ。ミカ様になにか秘密があるのか?


 言葉の意味は分からない。

 でも、思い出す。笑っているはずのミカ様が、夜の庭でひとり佇んでいたあの姿を。

 月明かりの下、誰にも気づかれないように、静かに空を見上げていたあの後ろ姿を。


 俺には……確かに、何も知らない。

 でも、だからこそ──


 「……ミカ様が何を背負ってるのか、俺には分からん」

 剣を持つ手に力を込める。


 「でも、俺は知っている。ミカ様が、俺に審議会を提案してくれたとき、目が輝いてたことを」


 「……」


 「俺のためにこんな場を作ってくれた恩に報いたい。守れるか、救えるかなんて分からない。ただ、ミカ様には笑っていてほしい。家電で幸せになってほしい。一人のお客さんとして付き合っていきたい」


 サンダルフォンが、ほんのわずかに目を見開いた。


 「……口で言っても分からねぇようだな」


 ドン、と地を踏み鳴らす。


 「なら、その覚悟──見せてみろ!!」


 その瞬間、地響きのような気迫と共に、サンダルがバスターソードを構えた。


 「せ、戦闘試験、開始っ!」

 それを見た進行役が、慌てて叫んだ。


 剣を構えながら、俺は心の中でひとつ深く息を吐いた。


 ──相手がサンダルフォンじゃ、普通の戦い方じゃ無理だ。


 だからこそ、試してみよう。

 ずっと考えていた、家電を使った武器。


 俺は剣を後ろに引きながら、懐から取り出した。


 「これを使うのは初めてなんだけど……まあ、試験だし、やるだけやるか」


 それは、改造した鉄の剣。

 柄の部分には、スタンガンの電極を仕込んである。

 スイッチを押せば、高圧電流が刀身を伝って流れ込む仕組みだ。


 家電をこんな風に使うのは気が引けるが、誰かを守り、幸せにするって考えれば、相棒たちも分かってくれるだろう。

 スタンガンの電流なら、傷つけずに気絶させられる。特にサンダルみたいな分からず屋には有効だ。


 この試合に勝って、俺は電気屋を続ける。


 「いくぜ、これが俺の家電武器、スタンブレード1号だ!」


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