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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 長月 鳥


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最終話

♦-/-/-//-/-/--/-/-/--/♦


 電子の雨が降り注いだ日から一年。

 この世界は大きく変化した。

 世界を満たしていたマナは姿を消し、魔法という当たり前の力は消え、代わりに電子が満ちている。


 ──魔法の消失は、希望と絶望の両方だった。


 魔術で家事をこなし、治療を行い、作物を育てていた人々は、

 突然“素手のみで生きる暮らし”を突きつけられた。

 崩落した街、夜の暗闇、沈黙した魔道具、流れない水路。


 世界中で、人々は川に列をつくり、水を汲んだ。

 森で狩りをし、物々交換で日々をやり過ごした。


 不便な生活を嘆く者も多かったが、魔法による圧倒的な力の差が無くなり、一個人の支配力が消えた平和な世界を喜ぶ者も少なからず居た。 


 混乱が続くかと思われたが、かつて恐怖の象徴として名を馳せた魔王城から始まり、世界に広がった噂が人々に希望を与えた。


 ──新たなエネルギーによる革命。


 ライオネッタやステラの案により、かつて電次郎が召喚していた家電の数々が魔王城に集められ、研究開発が進められた。

 

 家電を呼び出す力は失ったが、電力を放出する能力が残っていた電次郎は、家電を動かし、その仕組みを皆と共有した。


 電子レンジ、炊飯器、掃除機。

 ドローン、照明器具、扇風機。

 加湿器、ポータブルバッテリー、電動工具……。


 既に存在している完成品を分解しさえすれば、技術は手に入る。


 ライオネットは狂気に近い集中力で回路を解析し、ステラは半月で半導体の原材を作り、魔王軍の技術班が金属加工と量産の基盤を整えた。


 魔王城は、いつしか“世界初の電気研究都市”と呼ばれるようになった。

 そこで、水力、風力、火力の発電機が次々に生み出された。


「これさえ作れりゃ、どこでも電化製品を動かせるだろ?」


 電次郎が最初に提案したのは、驚くほど地味な装置だった。

 ――小型の手回し式発電機。

 しかし、それこそが電化文明の心臓だった。


 電子レンジがあっても、

 作り方がわかっても、

 電気がなければ何もできない。


 ミカが笑って言った。


「おぬしの世界でも、最初はここから始まったのじゃろう?」

「まぁ、そうだな。火があれば飯が食えるのと一緒だ」


 魔法がなくなり、ミカは初めて世界を歩けるようになった。

 彼女はその自由を、迷うことなく電次郎の隣で使った。


 二人は呼び寄せた学園の教師たち、

 優秀な生徒たち、魔王軍の技術者たちと共に、

 一から部品を作り、線を引き、回し、燃やし、調整し続けた。


 半年も経つ頃には、

 城下町に初めての“安定した明かり”が灯った。


 人々は泣いて喜んだ。

 明かりは夜を追い払い、

 不安を遠ざけ、

 未来を照らした。


 電次郎はその未来を世界に届けるためにミカと共に旅に出る。

「電のじよ……うぬは何故わしを選んだ?」

 ミカは照れくさそうに言った。

「絶対に世界を見せてやるって約束だったろ? それに、この発電機をほかの街や村に届けるついでだ」

 電次郎は、真っ直ぐな眼でそう返した。

「しかし、ぬしにはもう心に決めた者が……」

「ん? ああ、ルクスか? ルクスは次の次だな、ミカちゃんとの旅が終わったらクレアだろ、それからシービー、あと姫様も行きたいって言ってたな。王様が許すかわからんけどな」

 電次郎は指折り数えて、楽しそうに笑った。

「電のじ……それを無自覚でやっておるなら、あとで修羅場となろうぞ」

 ミカは、冷ややかな視線を送ったが電次郎に届かなかった。

「……いや、そういうおぬしだからこそか……」

「ん? なんか言ったか?」

「いいや、先を急ごう。世界がぬしの力を待っておる」

「そんな大袈裟な」


 そして、電気は魔王城から各国へと広がり、

 世界は再び、“光のある文明”を取り戻していった。


♦-/-/-//-/-/--/-/-/--/♦


「おじちゃん……これ壊れちゃったみたいなんだ」

「お、どれどれ見せてみな」

「電子レンジだな、おじちゃんの得意分野だ。ここをちょちょっとな」


 ──バチンッ!!

 しまった、余裕ぶっこいたら壮大に感電した。


♦-/-/-//-/-/--/-/-/--/♦


「……じろう……さん。……電次郎さん……」

 誰か俺の名前を呼んでいる? ミカちゃんじゃない、ルクスでもシービーでも……なんだか遠い昔に聞いたような、懐かしい声……。


 目を開くと、見覚えのある天井が目に入る。

「……」

「良かった。目を覚ましましたね」

 声の主は、元居た世界の花屋の姉ちゃんだった。

「ここは?」

「あなたの家じゃないですか、大丈夫ですか? 転んで頭でも打つけました?」

「え……いや、そんなはずは……」

 見回すと、確かに俺の家だ。現実世界の……。

 俺はここで、この姉ちゃんの電子レンジを修理中に感電して……それで、異世界に……。

 ──夢? あれは全部、夢だったってのか?


「チャイムを鳴らしても反応が無いから、心配になって裏口から入ったんです」

 裏口って……そういや、ばあちゃんの生け花の手入れに、よく入って来てたっけ。

 日の光が、窓から差し込んでいる。

 一晩中気絶していただけってこと?


「大丈夫そうで良かったです。それじゃあ私、もう帰りますね。あっ、渡した電子レンジの修理は終わっていますか? どこにあります?」

「ああ、そこに……」

 感電したはずの壊れた電子レンジがどこにも見当たらない。


「もう、早めにお願いしますね。あれがないと不便なので。独り身の私の必需品なんですから……ほんと、はやく誰か、わたしを……」

 花屋の姉ちゃんが、なにか言いたげに俺をチラチラと見てくる。

「悪い、直したらすぐに持って行くから。待っててくれ」

「……待ってますよ、いつまでも」

 

 姉ちゃんが帰ってからも、しばらく動けなかった。

 テレビを付けて、日付を確認すると一日しか経っていなかった。

 異世界転生は、やっぱり夢だったのか……。

「家電で異世界を救うって……ガキみてぇな夢見やがって……しょうがねぇおっさんだぜ俺ぁ」


「ここで臨時ニュースです。家電量販店や物流センターから大量の電化製品が消えたとの被害届けが出されており。警視庁は大規模な犯罪グループによる盗難とみて捜査を始めたとのこと……しかし、過去例を見ない数の家電が一晩にして忽然と姿を消した事件は、多方面で様々な議論が上がっており、現場は混乱しています」

 ニュースキャスターが、首を傾げながら淡々と言った。

 ……大量の家電が、一晩で消えた……。

「ここで続報です。消えた家電が壊れた状態で戻っている現場もあるとのこと……一体何が起こっているのでしょうか」

 ……これって、まさか。


 俺は、何もない空間に手を伸ばした。


END



♦-/-/-//-/-あとがき/--/-/-/--/♦


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。


流行の【おっさん】系の物語を考案中。

“昔ながらの電気屋のおっさんが転生して、家電で異世界を救う”

というバカみたいな発想が浮かんでしまい、

勢いのままプロットも作らずに書き始めました。


設定も世界観も無視して、

とにかく色々な家電を出して頑張る──

そんなコンセプトで始めたのですが、案の定途中で無理が出てきました。


それでも、電子という粒子の設定は書いていて自分でも勉強になりましたし、

何より面白かったです。

「電気を題材にした異世界ファンタジー」をここまで真剣に扱うとは、

書き始めたときの自分も想像していなかったと思います。


そしてシービー。

彼女は、魔王編に入ってから思いついたキャラなのですが、

一番好きなキャラになりました。

名前の由来は C.B──サーキットブレーカー。

“異常な電流を自動で切る安全装置”から取っていて、電次郎の安全装置的な役割になればと思い書きました。

こういったキャラを、もっと早く出しておけば良かったと反省しきりです。


他のキャラの掘り下げも不十分だったり、構成に粗があったり、

振り返れば「ああすればよかった、こうすればよかった」が山のようにあります。

でも、その全部が次に活かせると思っています。


実は、もうひとつ別の作品を“公募用”に書き始めてしまって、

そっちが楽しすぎて予定より完結が遅くなってしまいました。

これも反省しきりです。


公募作についてはWEBには上げませんが、

もし落選してしまったら、向き合い直してから投稿するつもりです。

そのときは、また読んでいただけると嬉しいです。


ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけていたら、電気屋のおっさんも本望です。


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