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王国編⑥

 審議会が開かれる前日、王宮の奥深く──謁見の間にて、ミカはひとりの男と対面していた。


 王国の頂点に立つ者、ボルトリア王アレスト・グラン・ボルトリア。

 その眼差しは静かでありながら、並々ならぬ興味をたたえていた。


 「……電力、というのか」

 「うむ。魔力とは異なる仕組みにて、物を動かす力でございます。名を電力と申します」

 ミカは、紙に描いた簡素な図を差し出した。

 それは電次郎の語る“回路”や“スイッチ”、“導線”といった概念を、魔導式に置き換えて記したものであった。


 「魔石も術式も介さず、一定の方向に力を流し、物を動かす──」

 「……魔力を持たぬ民でも扱える力、か」

 王は目を細める。


 「はい。だからこそ、わしは進言いたします。この“電力”なる概念を解明し、応用する術を、国家事業として育てるべきだと」

 ミカの声音は真剣だった。


 「魔力は血筋や才能に依存し、いつか限界が来る。だが、電力は仕組みさえ理解すれば、万人が扱える力となり得ます。わしは、これを“第二の魔力”と見ております」

 アレスト王はしばし沈黙し、空気をたっぷり吸い込むと、玉座から立ち上がった。


 「なるほど……それは、確かに魅力的な力だ」

 静かな声の中に、芯のある熱があった。


 「まずは、電次郎の電力で動く魔道具を評議会のみなに確認してもらおうかと思うての」


 「よかろう、それが本当にこの国を変えるほどの力なのかどうか……この目で確かめねばなるまい」


 王は微笑を浮かべた。


 「審議会を開く。異世界の電気屋、轟電次郎に、王国の未来を見せてもらおうではないか」

 ミカは小さく頭を下げた。


 「感謝いたします、陛下。──あやつの“働く姿”を、ぜひご覧あれ」

 そして、ミカは小走りで電次郎の元へ戻った。



♦-/-/-//-/-/--/-/-/--/♦



 審議会当日、俺に課された“実技試験”のテーマは「魔法無効化地帯における魔道具での支援」。  与えられた設定は、戦争や災害で避難を余儀なくされた人々が、魔法の使えない場所で生活する──というものらしい。


 どうやらこの世界の魔法は、大気中の“マナ”なとかいう成分を使わないと発動しないらしい。

 ミカ様が、この会場全体のマナを消滅させ、さらに外部から遮断する魔法を使ったとか……よくわかんねぇけど、さすが大魔導士様だと言っておこう。

 というか、俺が出してる電力って、やっぱり魔力とは違うんだな。相変わらず原理はわからんが。

 

 まぁとどのつまり、家電の出番ってわけだな。

 電力が魔力と違うって理解されているのかは分からんが。

 家電の素晴らしさを披露しろっていうんなら俺の得意分野だ。


 王都の中央庭園に設置された仮設テント。

 その前に俺は立ち、袖をまくった。


 「ようし、やるしかねぇな」

 ミカ様、クレア、サンダルフォン、そして王と姫も含めた審査員たちの前で、俺の“技術”が試される。


 まず俺は炊飯器を取り出した。


 「ほう、召喚魔法……道具の具現化?」

 「笑わせる……あの小さな箱でなにができよう」

 観衆から疑念の声が聞こえる。だが、慣れっこだ。こちとら家電を売りつけるのが商売だからな。最初の疑いの目が大きければ大きいほど燃えるぜ。


 「今から、このまずいと評判の“穀物”を、ふっくらもっちり炊き上げます」

 あの硬く不味い穀物を丁寧に洗い、水を入れ、魔力コードを手に取り、ぐっと気合を込めて供給開始。

 炊飯器のスイッチが入り、“テレレレレ~”とリズミカルな電子音が響いた。


 「なんだ、あの奇怪な音は」

 「ここは大道芸を披露する場ではない、バカにしているのか?」

 ざわつく観衆たちを尻目に、俺はにやりと笑った。


 「炊き上がるまで、30分。待ってる間に、別のもん見せましょう」

 次に召喚したのは、ミニ脱水機。

 プールに設置されている、水着の水分を一瞬で蒸発させるアレだ。

 凄く限定的な気もするが、避難ってことは、雨に濡れてしまう可能性がある。放っておくと風邪をひいてしまうかもしれねぇからな。ついでに汚れも取れるってことも見てもらおう。

 

 俺は、近くのバケツに水を汲み、泥だらけの布を軽く濯ぎ、脱水機にツッコんだ。


 スイッチを押すと、ごぉんごぉんと元気にドラムが回る。

 この遠心力がたまんねぇんだわ。


 「おもしろいわ……あの桶、どうして勝手に回るの?」

 「風の魔法か? なんでマナもないのに魔法を?」

 10秒後、俺は布を取り出して、観衆へ掲げた。

 布は、風にたなびく。


 「乾いている……のか?」

 「そ、そうみたいね」

 「う、うん。で?」


 なんか微妙な反応だ。選択をミスったか……洗濯だけに……。

 気を取り直そう。


 「次はこれだ」

 俺は、手に持ったLEDライトのスイッチを入れた。


 「うっ、眩しい」

 「くそっ、光魔法か? もしや、奴は他の国からの刺客」

 

 「安心してください。ただの光ですよ」

 目には当てないようにしたけど。やはり10000ルーメンのライトは、初めて見る人はビックリしちゃうよな。だが災害時の必需品だ。

 みんな、身体への影響が無いと知って、不思議がっている。コレはあたりだな。


 俺は、その後も電気ケトルでお湯を沸かしてお茶を作り、ちょうど炊きあがった炊飯器の蓋を開き、できるだけ多くの人に振舞った。

 もちろん警戒する人は多かったけど、ちょうど昼時だったし、あのふっくらと炊きあがった米でつくった塩おにぎりを拒める人は、そうそういなかった。

 王様とお姫様っぽい女の子が、おにぎりを取り合っている姿が、一番ほっこりした。


 「うむ、素晴らしい魔道具じゃな」

 王様のその一言で、実技試験は終わりかと思ったが——


 「待っていただきたい」

 王様の次に豪勢な着物を着た貴族っぽい人が叫び、場が静まる。


 「確かに便利かもしれん。だが、すべては彼ひとりの力によって動いている。魔力とは違うかもしれんが彼が倒れたら? 去ったら? 国の機関として、それはあまりにも不安定すぎる」

 言いたいことは良く分かる。

 元の世界でも、電気が止まれば家電は役に立たなかった。インフラの整備は人類の課題だ。そのインフラが俺だけって……認めたくはないが、力不足が否めない。


 重たい空気が漂ったそのとき、ミカ様がすっと立ち上がった。


 「なるほどのう。ならば王都の結界も意味がないのう。わしが倒れたら魔物が入り放題じゃ」

 クスリと笑いながら、しかし目は鋭い。


 「電次郎の家電は、確かに彼の電力に依存しておる。じゃがのう、それを補って余りある誠実さと工夫、そして“誰かのために動く姿”がある。そこに、この国の未来を感じておるんじゃよ」

 静まり返る会場。

 そして老兵站官がゆっくりと立ち上がり、頭を下げた。


 「私は……彼の力を認めます」

 「私も……」

 「解明の余地はあるかもな」


 ぱん、ぱんと一拍の拍手が広がり、やがてそれは大きなうねりになった。


 ──俺は、ただの電気屋だ。

 でも、だからこそ、できることがある。


 胸を張って、次の試験に挑もうと思った。


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