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しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる  作者: 長月 鳥


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厄災編④

 「……おじさまっ!」

 家電で、みんなの顔が和らぎ、少し安心した矢先──その元気な声が響くと同時に、勢いよく柔らかな衝撃が胸に飛び込んできた。

 エネッタだ。王族としての威厳も忘れ、子供のように俺へしがみついている。


 「エネッタ……!」

 思わず抱き留めた俺の胸元で、彼女は少し震えていた。


 けれど、すぐに我に返ったのか、ぱっと身を離し、顔を赤らめて服装を整える。

 「ご、ごほん……無事で何よりですわ」

 気取った声に戻そうとしても、耳まで真っ赤なのは隠しようがない。


 「お、おう……」

 俺もつられて照れ笑いを浮かべる。なんだこの気恥ずかしい空気は。


 そんな俺たちを見て、控えていたシービーが冷ややかな視線を寄越す。

 「……やっぱおっさん、ロリコンじゃねぇか」

 「ちげぇよ!」

 反射的に叫ぶ俺に、周囲から小さな笑いが漏れ、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。


 「久しいのぉ、電のじ」

 低い、けれどどこか懐かしい声音が響く。振り返れば、そこにはミカちゃんが立っていた。

 「相変わらずお主のカデンとやらは凄まじい。絶望しておった民に、こうも笑顔が戻るとは……」


 「ミカちゃん!」

 俺は駆け寄り、その小さな体をひょいと抱え上げる。

 「久しぶりだなぁ。全然変わんねぇじゃねぇか」

 そして、つい調子に乗って、高い高い。


 「や、やめぇい!」

 必死に暴れるミカ。俺の腕の中でばたつく姿はまるで子供そのものだ。

 ……うん、やっぱ可愛い。


 「……やっぱりロリコンじゃねぇか」

 追い打ちをかけるようなシービーの呟きに、俺は頭を抱えた。

 「ロリコンって、なんですの?」

 エネッタが、不思議そうな顔で無邪気に尋ねる。

 

 俺は、すぐさま話題を変え、ミカちゃんに気になっていた疑問をぶつけた。

 「なぁ、ミカちゃん。俺が家電出してどうにかしてるけどさ……本来なら魔法で水出したり、食い物用意したりできるんじゃねぇのか?」


 その問いに、ミカは短く息を吐き、険しい表情へと変わった。

 「魔法を使う……いや、マナを活性化させることが、何を意味するか分かっておるまい」

 「……?」

 「外を見よ」

 ミカが顎で示す。窓の向こう、結界の外には蠢く異形の影。無数の腕を持ち、黒い鱗を覆った怪物たちが結界を這い回っていた。口という口を結界に押し当て、まるで吸い取るように結界の光を揺らめかせている。


 「奴らはマナを食らう。こちらが魔法を使えば使うほど、勢いを増して結界を侵食していく。ゆえに、魔法で応じることは自滅に等しい」

 その言葉に、背筋が冷たくなる。もし魔法で対応していたら、この結界すらもう存在していなかったのかもしれないってことか……。


 「……じゃあ、あの異形どもは一体なんなんだ?」

 問いかけに、ミカの目が一瞬だけ揺らぎ、やがて遠い記憶をたぐるように口を開いた。


 「伝承にある。厄災の獣……マナブレイク……あるいは原初のマナとも呼ばれる存在じゃろう」

 「厄災の?」

 その場の空気が、一気に張り詰めた。人々のざわめきが遠のき、ただミカの声だけが響く。


 「数万年ごとに訪れる災厄。マナを使い、欲望を肥大化させ、争いを繰り返す世界を……強制的に清算するために現れる存在だとも言われておる」

 「……清算……」

 俺の喉が勝手に音を漏らす。


 「世界を巡るマナそのものが“意思”を持ち、飽和し、暴走する。人の営みを石と化し、欲望を凍りつかせ、やがて全てを虚無へと還すと伝えられておるが……」

 結界の外から、異形の呻き声が響いた。ぞわりと肌を撫でる不気味な振動に、全員が思わず黙り込む。

 「どうすんだよ、そんなの……ってか、伝承にあるなら、対処法もあるんだろ?」

 そうじゃなきゃ、この世界はとっくの昔に滅んでるってことじゃないのか?


 「伝えられておるのは、元凶である厄災の獣を討つ、あるいはマナを満足するまで吸い取って去るのを待つ……それだけじゃ」

 「満足するまでって、あとどんだけの人たちが石なりゃ気が済むってんだ」

 「分からん……」

 ミカちゃんの声が小さくなった。

 不安なのはミカちゃんも同じだろう。

 大魔導士とまで呼ばれているのに、手も足もでないどころか、魔法を使ったら逆効果っていうんだから。

 

 「討伐だな」

 俺はそう言って、サンダルやクレアの顔を見た。

 二人とも黙って頷いてくれた。


 「それしかないじゃろうな」

 「で、その元凶って奴は今どこに?」

 「分からん……マナを巡らせても、ハッキリと見えてこぬ……それどころか、至る所で混乱が起こっておるようじゃ……もしかすると、ここと同じような状況がすでに世界各地で……」

 ミカちゃんの不安な顔で、事の重大さが伝わってくる。

 世界各地でって、まさか学園も……。


 「心当たりがあります」

 いつの間にか人の姿に戻っていたジェダくんが手を挙げた。


 「たぶん、マナの枯渇は俺の故郷が最初です。世界を飛び回って確認してきたので間違いありません」

 ジェダくん、ずっと前からこの危機を感じていたのか……だから俺のドローンにも映っていたんだ。


 「ドラゴンの里か……人の出入りを許さぬ禁足地。厄災の獣が眠っていたとしても不思議ではないか」

 「よし、行くぞ、今すぐにだ」


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