魔王編㉛
「安心しろシービー、ルクスは俺が守る」
俺は二人を背にして、電子レンジの扉を構えた。
「おのれぇい、こうなったら先にあの男を魔法で拘束じゃ! 行けっ幹部ども!」
鬼の形相を浮かべたドルガスの声が玉座の間に響き渡る。
すぐさま、バンボルトの十本の腕から炎と雷の魔法が渦を巻き、骸骨の魔物は死霊の瘴気を撒き散らした。他の幹部たちも続けざまに詠唱を重ね、空気そのものが重圧に押し潰されるような異様な気配に満ちていく。
くっ、やべぇ……! 電子レンジの扉はドルガスの兵器は防げても、普通の魔法は無理だ。
「任せろっ!」
真っ先に吠えたのはサンダルフォンだった。バスターブレードを振り回しながら、矢のように幹部の前へ突っ込む。大剣を振るうたびに空気が震え、放たれた炎の魔法を強引に切り裂いていく。
「助太刀致す!」
クレアの声が重なる。鋭く踏み込んだ彼女の剣が、骸骨の魔物の杖を弾き飛ばした。火花が散るほどの剣戟、重厚な金属音が耳を劈く。
「私もっ、魔法防御なら任せてください!」
ステラは両手を震わせながらも詠唱を始めた。淡い青色の障壁が俺とシービー、それにルクスを覆い、骸骨の放った瘴気を弾き返す。
「加勢します!」
ジェダはオークから元の姿に戻り、鱗に覆われた手で幹部たちの魔弾を叩き落とす。小さな爆発があちこちで起きるが、奴は怯まず突進した。
「みんな……ありがとな」
俺もレンジの扉を盾に掲げながら、スタンガンブレードを取り出す。手が震えていたが、もう引けねぇ。シービーもルクスも必ず守ってみせる。
「ぬおおおおおっ!」
バンボルトの十本の腕が一斉に振り下ろされ、火炎と稲光が嵐のように迫る。
「やらせんっ!」
サンダルが大剣を振り回し、炎を真っ二つに切り裂いた。だが雷は裂けず、背に焼き焦げるような衝撃が走る。奴は唇を噛んで踏みとどまった。
「甘いっ!」
骸骨が杖を叩きつけると、床から無数の黒い手が伸びてクレアの足を掴む。
「くっ……!」
彼女は渾身の力で斬り払い、必死に前へ進む。その姿勢は一歩も怯んでいなかった。
「電次郎さん、来ます!」
ステラの声と同時に、瘴気の奔流が障壁を叩いた。バチンと音が鳴り、青い光がひび割れる。
「ちぃっ、持たない……!」
「なら俺が前に出るっ!」
俺はスタンガンブレードを構え、光る刃を幹部の魔物に叩きつけた。
「ぐぅぉっ!?」骸骨の体に電撃が走り、バラバラに砕けて床へ散る。
だが、カラカラと音を立ててすぐさま元の骸骨に戻る──不死身かよ。
矢継ぎ早に、別の幹部が火球を放ってきた。
「やばっ!」
電子レンジの扉を前にかざす。火球が弾け、炎が俺の頬を舐める。熱い……でも貫通はしなかった。
「電次郎!」
ルクスの声が背後から響く。俺は振り返らずに叫んだ。
「大丈夫だ! お前は後ろで見てろ!」
「小癪なぁぁ!」
ドルガスがさらに兵器を起動させる。マナ消滅光線の砲口がこちらに向いた。
「またそれかよ……!」
俺は息を呑む。
光線が当たってもシービーの件があるから、AEDを使えばルクスを助けられるかもしれないが、こんな乱戦状態じゃ無理がある。心肺停止してから時間の猶予なんてない。
俺は、スタンガンブレードを投げ捨てて、電子レンジをもう一つ取り出して扉を切り離し、両手に持ってルクスの前で仁王立ちした。
ステラが叫ぶ。
光線が放たれ、白光が視界を焼き尽くす。
だが──
「なっ……!?」
ドルガスの声が驚愕に染まる。
光は再び、ガラス扉に阻まれ、床へ霧散して消えた。
「たかが扉が……! ふざけおって!」
俺は荒い息を吐きながら、振り返った。
ルクスは驚きに目を見開いていたが、その奥にほんのわずかな笑みが浮かんでいた。
「安心しろルクス。お前の領土も、命も……全部、俺が守る」




