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第3章 料理バトル部、胃袋で勝負しろ!!

 正直に言うと、今朝の時点ではこんな大騒ぎになるなんて思ってもいない。

 俺はただ、部室でスープを煮込みながら「今日は何も爆発しないといいな」とぼんやり考えていただけだ。


 けど校庭に突如現れた異世界転送ゲートから、ガタイのいいコック服集団がずらりと現れた瞬間、その淡い期待は粉々になる。まるで軍隊みたいな統率でズカズカと進んでくる彼ら――自称《アルティメット・グルメバトル部》(以下UGB部と呼ぶらしい)が、この学園に“料理の戦場”を持ち込もうとしている。

 いや、意味が分からない。


 廊下でその光景を目撃していた俺は、一瞬思考が止まる。

 なにせ全員がエプロンに甲冑じみた装飾をつけ、フライパンや泡立て器を槍みたいに担いでいる。こっちを見て「へっ、これが噂の地球料理か」とか言ってる時点で相当やばい。

 気づくと彼らの“部長”を名乗る男が、拳よりデカいスプーンを片手に猛々しく宣言してくる。


「おい! そこの料理部とかいう連中はどこだ! 我らはUGB部! 本物の料理とは、倒すためにある! 異世界からやってきた以上、雑魚スープには興味ないぞ」


 雑魚スープってなんだよ。たぶん俺たちが作ってる桜スープのことを噂で聞きつけたんだろうけど、いきなりケンカ腰すぎないか。

 驚いて固まっていると、横からユウリが小声でツッコむ。


「なんか筋肉ばっかりのコックがごろごろいるけど……あれ、全員バカなの?」

「否定はしない。が、あんな連中が学園に来るってどういう手続きなんだ」

「さあ。とりあえず、あたしはむやみに突っ込まないほうがいいと思う」


 俺だってそんな好戦的な連中とやり合いたくない。けど、廊下の奥からダッシュで駆け寄ってくる天使系男子、ミハエルがめちゃくちゃ目を輝かせているから嫌な予感しかしない。

 彼は息を弾ませながらも楽しそうに言う。


「仁くん、見た? あれ、異世界の公式料理バトル部隊だってさ。すごい迫力だね。これはなんだか盛り上がりそうだよ」

「頼むから盛り上げないでくれ。どう見ても厄介ごとだろ」


 そんな俺の願いも空しく、UGB部の筋肉コックたちは教室や廊下を次々と物色しながら、口々に「クックファイト!」「胃袋クラッシュ!」なんて物騒なフレーズを連発している。どうやら本気で“料理で相手を屈服させる”のが彼らの流儀らしい。

 すると突然、一番威圧感のある男が俺たちの前に立ちふさがった。

 腕には「部長」と書かれたタオルが巻かれている。


「おまえが料理部の八代仁か? 聞いてるぞ。異世界桜の花びらを煮込んだスープを出して学園内で受けてるらしいな。フン、そんなんで“最強”を名乗るなんて、おこがましいわ!」


 最強を名乗った覚えは一度もない。けど男は興奮しきった表情でさらにまくしたてる。


「俺たちはアルティメット・グルメバトル部! 通称UGB部! 料理は攻撃力が命! 食った瞬間に相手をノックアウトする料理こそが至高! 甘えたスープなんぞ、俺たちが粉砕してやる!」

「いや、こっちは“粉砕しない”料理を作ってるんだけど……」


 そう言い返しても全然耳を貸さない。むしろ彼らがズカズカと学園側の生徒会室まで行ってしまったらしく、あっという間に“異世界ルールに基づく決闘”を申請してくる始末。

 煩雑なはずの手続きがやたらスピーディーなのは、たぶん異世界生徒会のカグヤが「面白そう」と判断してるからだと思う。彼女は校則と例外項目を使いこなしすぎるから、何でもかんでも通してしまう。

 結局、この日のうちに学園中にアナウンスが流れた。


『明日、校庭にて「料理対決」が開催される。挑戦者:UGB部。対するは……料理部』


 勝手に決まってる。

 しかも俺たち料理部って、実質まともに動けるのは俺くらいじゃないのか。

 ミハエルとユウリは手伝ってくれるかもしれないが、二人とも相当クセが強い。牛島先輩は幽体だから皿洗いもできない。どうすればいいんだよ。

 俺が嘆いていると、ユウリがニヤッと笑う。


「いいじゃん、受けて立ちなよ。あたしとしては、桜スープを“雑魚呼ばわり”されたのがムカつくし」 「いや、ムカつく気持ちはわかるけど……向こう、戦闘的すぎるだろ。火柱とか上げるんじゃないか?」 「大丈夫、どのみちこの学校で火事なんてしょっちゅう。購買部がいつも爆発してるじゃん。慣れっこだよ」

「勘弁してくれ」


 しかし、ユウリの目がどこか楽しそうに輝いてる。どうやら彼女は刺激的な展開を嫌がらない性格らしい。ミハエルにいたっては「僕も参戦できるのかな。天使のソースとか使ってみたい」とか言い始める。

 止める暇もなく、翌日がやってきてしまった。


 そして今、校庭のど真ん中で――“料理対決のリング”みたいなものが設営されている。

 もともと体育祭で使うステージを改造したらしいが、やけに魔法陣やら怪しい飾りが追加されていて、完全にバトルイベントの雰囲気になっている。周囲にはクラスメイトや異世界からの見物客が大勢集まり、野次馬根性で盛り上がってる。


「…………これはもう後に引けないな」

 俺は深呼吸して気持ちを落ち着かせる。ステージ上に鍋や調理器具が並んでいるのを確認しながら、近くにいたユウリに声をかける。


「とりあえず“朝ごはん対決”っていうテーマらしいから、今日はシンプルに“桜スープモーニング”で勝負する。パンケーキはまだ焦げるリスクが高いし」

「OK。あたしはとりあえず隣で具材切ったりするわ。買い出しはミハエルがやってくれてるし」


 そのミハエルは、ステージの端で光を背負いながら「僕が素材を浄化して差し上げましょう!」と張り切っている。頼もしいのか迷惑なのか分からないけど、まあありがたい。

 時間になったので、ステージに上がる。向かいにはUGB部の連中がズラリと並んでいる。マッチョなコック服やら、煽り文句が書かれたバンダナやら、とにかく暑苦しい。


「さあ、始めようか! 今回の審査員は購買部のトメさん、生徒代表の誰か、あと風紀委員の久遠アラタと聞いている。勝敗は彼らが食べて判定するんだろう。俺たちに負ける気はないがな!」


 UGB部部長が叫ぶと、観客がわあっと沸く。トメさんは観客席で「面白いやないの!」とテンションを上げ、アラタは腕組みしながら「騒ぎが大きくならなきゃいいが」と苦々しげだ。

 俺はなるべく穏便にまとめたいんだけど、こういう戦闘ノリになっちまったものは仕方ない。やるならやる。


「じゃあ、まずは朝ごはん対決だな。時間は30分だってさ」

 ユウリが時計を確認しながら声をかける。俺は食材を素早くチェックし、桜花エッセンスと魔界にんじん、それに普通のベーコンを用意する。定番の桜スープに卵焼きと簡単なパンでも添えれば、立派な朝食セットになるはず。

 爆発はしない。味はそこそこ安定してる。そんなに派手さはないけど、朝ごはんってそういうもんだろ。


 いっぽうUGB部はというと、やたら炎が燃え上がっている。見ると、彼らは攻撃魔法の詠唱みたいなことをしながら、卵を空中に浮かべてる。赤い雷光がビリビリしていて、スクランブルエッグが雷を帯びるとか言ってる。

 なんだそりゃ。派手すぎるし、下手したら電撃で食欲も吹き飛ばないか?


「うおおおおお、いけーー! 雷鳴のスクランブル・エッグブレード!」

 激しい叫びがステージにこだまする。卵が稲妻をまとってバチバチ鳴ってる。

 観客は「すげえ」「派手だな」なんて盛り上がってるけど、俺からすれば実用性ゼロだろ、それ。……ま、これぞ異世界クオリティなんだろうけどさ。


 俺は俺で淡々と鍋を火にかけ、桜スープを仕込み始める。ベーコンから出る脂の匂いと、魔界にんじんの甘みが重なって、いい香りが立ち上る。

 ユウリが手際よく野菜を切り、トロロは鍋のふちでぷにゅぷにゅ跳ねている。ミハエルが光のソースをかざし、「いい香りだ。これなら天界の朝食に匹敵するね」なんて言ってる。

 周囲には神々しいオーラが漂い始める。ちょっとしたショーみたいだ。


 隣ではUGB部がどんどん火柱を上げて生地をこねたりしている。見るからに刺激の強そうな料理だ。派手に盛り上がってるけど、焦げた匂いも漂ってくるし、正直あっちが大丈夫か心配になる。


 制限時間が迫るころには、俺たちの“桜スープモーニング”が完成している。カップに注がれた淡いピンク色のスープと、軽くトーストしたパンと卵焼き。地味ではあるが、朝に欲しい落ち着きがあるセットだ。

 それに対してUGB部は、真っ赤に燃える雷鳴エッグをメインディッシュに据え、謎のソースをかけた爆裂サラダらしきものを添えていた。見た目のインパクトは段違い。


「さあ、審査員の試食を始めるで! まずはUGB部の朝食からや!」

 ノリノリでトメさんがステージに上がり、アラタともう一人の代表生徒も続く。

 雷鳴エッグを一口食べた瞬間、バチバチッという音とともにトメさんの髪が逆立つ。


「うひょー! パンチあるわ! こりゃ血圧がハネ上がるわ!」

「危険すぎるだろ……でも確かにクセになるかも?」

 代表生徒が顎に手を当てて考え込む。アラタは唇を引き結んで小さくうめく。


「……強烈だ。うまいかどうか以前に身体が震える。刺激が凄すぎてもう一口はいらない……」


 評価としてはインパクト大、しかし体への負担も大。すげえ食べ物だな。

 続いて俺たちの桜スープセットを口に運ぶ。トメさんはごくんとひと口すすり、やたらホッとした顔になる。


「はぁ……なんやろ、じわっと胃に優しい。こっちのほうが正直、朝向きやな」

 代表生徒は卵焼きを食べて「甘くて落ち着く。なんか家の朝ごはんみたい」と笑う。

 アラタはまだ少し緊張しているが、それでもスープをすすって小さく肩の力を抜く。


「こっちは……普通だ。だが悪くない。身体が安堵する感じがある」


 三人とも甲乙つけがたいと悩み、結果として「ドロー」となったらしい。ほっと胸をなで下ろした瞬間、UGB部長が「だったら次は弁当勝負だ!」と叫ぶ。観客も「おおおお!」と盛り上がってる。

 俺は思わず頭を抱えたくなる。まだやるのかよ。ここまできたら逃げられない。


「弁当対決って……何やるんだ?」

「いいか、弁当といえば戦場に持ち込む飯だ。だからこそ破壊力が必要! 相手の胃袋を破壊するか、自分の胃袋を守り切るか。最後に立ってる方が勝ちだ!」


 そう宣言するUGB部に対し、ミハエルが「破壊は嫌だな……」と困り顔。でも同時に彼は「盛り上がりそうだね」と瞳を輝かせる。お前どっちなんだよ。

 結局その場の勢いで第二戦が開始。今度は即興で弁当を作る時間をもらい、“互いの料理を破壊しあってはいけない”というルールだけは追加された。

 破壊ってどうやるんだと思うが、向こうは攻撃的だから一応押さえておかなきゃいけないらしい。


「弁当か……じゃあ、さっきのスープを再利用して“桜スープ弁”にするかな。ご飯ものを一緒に詰め込む。あとはオムレツ的なのとか」

 そういうアイデアをユウリに伝えると、彼女は面倒くさそうに肩をすくめる。


「弁当箱の中身がスープまみれって大丈夫? 汁モノって結構こぼれるけど」

「仕切りを工夫すればいける。普通の学校行事でもスープジャーとかあるし、なんとかなるっしょ」


 大胆すぎる気もするが、このまま退くよりは面白いはず。牛島先輩も「ワイは弁当の香りが楽しみやでー!」とか浮かれてるから、やるしかない。

 ミハエルが祝福の歌を口ずさみ、食材の雑菌を光で浄化してくれる。ユウリは変な魔法アイテムから野菜を取り出してきて、手際よく刻んでいく。俺はさっき作ったスープを温め直しながら、ご飯に桜花エッセンスをちょろっと加え、ほんのり桜色の味付きライスに仕上げる。


 UGB部はというと、もう鍋から黒い煙がもくもく上がっている。何やら「弁当を爆弾に見立てる」とか言ってる。隣から怒鳴り声が聞こえてきて、「やめろ! 本当に爆発させるな!」と他の部員が慌ててる。絶対にまともじゃない。

 

 制限時間が残りわずかになる頃、俺たちは弁当箱に色とりどりのおかずを詰め込み、桜スープを注ぐ小さな容器をセット。見た目は可愛いし、匂いもほんのり優しい。ユウリも悪くない表情をしている。


「まあ、嫌いじゃないよ、こういうの」

「だろ。弁当ってのは食べる人がちょっと嬉しくなるのが大事なんだよ」


 しかし、UGB部のほうを見ると、真っ赤に燃えるようなソースをぶっかけた肉塊と、電撃が封じ込められたタマゴボールみたいなものがぎっしり詰まってる。弁当箱の蓋を開けるたびにバチンッと火花が散っていて、周囲が避難してる。

 破壊ルールには触れないギリギリのラインなんだろうが、明らかに危険度が高い。


 ついに審査のときが来る。今度は観客の盛り上がりに合わせて、審査員三人が同時に試食を始める。

 まずUGB部の爆裂弁当。トメさんは息を呑んでから豪快に肉をかじり、悶絶するように笑う。


「くぅー! 辛いっ! 熱いっ! 電撃ビリビリや! あたしみたいに長生きしてるババアでも、これはキツいわ。けど、舌が痺れる興奮もある。うわ、腰にくる……」

 代表生徒も「うわああ」と悲鳴じみた声を出してるし、アラタに至っては完全に無表情を貫こうとしてるけど、顔が青い。

 胃袋粉砕と言うか、もはや身体破壊レベルだ。大丈夫かこれ。


 次に俺たちの桜スープ弁。トメさんは「こっちはどうや!」と勢いよくスープ容器を開け、ごくりと飲む。すると表情がパッと緩み、「ふぅ……染みるわ。辛さはないけど、体がほっとする味。弁当のごはんも桜色で可愛いし、なんや恥ずかしいけど嬉しい気分になるねえ」と笑う。

 代表生徒は「こっちは安全だ……! 普通にうまい!」と感激してる。

 アラタは黙って口に運び、しばらく無表情のまま噛みしめ、ゆっくり息を吐く。


「……悪くない。いや、むしろ好みだ。落ち着けるし、見た目も華やかで気持ちがいい。なんか昔を思い出すな」

 そう言いながらチラリとこちらを見る。表情は硬いままだが、どことなく懐かしいような色が宿ってる。胸の奥が少しだけ温かくなる。


 審査が終わり、三人は協議する。UGB部の弁当は攻撃力こそすごいが、普通に食事として受け入れがたい。俺たちの桜スープ弁は味は地味だが安心感が強い。

 最終的に出た結論は――俺たち料理部の勝利。

 周囲が一斉に拍手や歓声を上げるなか、UGB部の部長は拳を震わせて唇を噛む。


「ぐっ……攻撃力じゃ勝ってたはずなのに、なぜ……!」

 部長の横にいる筋肉モリモリの仲間が、ぽろりと涙を流す。


「ごめん、部長……うまい飯って、敵じゃねえわ……オレ、実はこっちの弁当が好きだ……」


 異世界の料理バトルってこんなオチがありえるのか。すっかり意気消沈したUGB部だが、俺はあえて声をかける。


「俺たちの料理は“腹に優しい”のが取り柄でさ。刺激や爆発で相手を倒すんじゃなく、落ち着かせるのが目的なんだ。だから、お前らの料理スタイルとは違うけど、どっちが上とかじゃないと思うよ。まあ、今回は弁当としての完成度で勝ったってだけだ」

「…………」


 部長はしばらく押し黙っていたが、やがて乱暴に鼻をすすって、ぼそりと言う。


「……俺たち、戦うばかりで大事なもんを見失ってたのかもしれねぇ。おまえみたいに“胃袋を満たして生きる”料理も、ちゃんとありなんだな。ちょっと考え直すわ」


 まさかの丸く収まる展開に、観客からは拍手と微妙な笑いが起こる。

 UGB部は大人しく帰還ゲートを使って撤収の準備を始め、最後に部長が振り向いて小さく手を挙げてみせる。なんだか胸がほっとする光景だ。ユウリが隣でニヤニヤしている。


「やるじゃん、王道勝利おめでと。仁らしくて笑っちゃった」

「王道かどうかは知らないけど……こっちは疲れたよ。もうスープ冷めるわ」


 俺はすこしだけ笑い、弁当箱や鍋を片づけにかかる。ミハエルや牛島先輩もわいわいと祝福してくれて、ステージの上はまるでお祭りのあとみたいな空気だ。

 アラタは静かに腕組みを解き、遠巻きにこちらを見ている。少しだけ苦笑して、「……次も安全な飯を作れよ」と言い残して去っていく。その言葉だけで、十分に気持ちは伝わる。

 風紀委員と料理部は水と油かもしれないが、わかり合えないわけじゃないのかもしれない。


「あー、腹減った。こっちも冷めた弁当を自分で食うか」

「ならあたしももらおうかしら。さっきは審査員に回して食べ損ねたし」


 そんな会話をユウリと交わしながら、スープ入りの弁当箱を二人でつつく。

 桜の香りが鼻をくすぐり、なんとも言えない安心感が全身を包む。学園の空には、まだ異世界ゲートが浮かんでいる。UGB部は消えていったが、あの筋肉コックたちはどうせまたどこかでバカみたいな勝負をしてるだろう。

 それでもいい。これが俺の日常だし、腹が減る以上、学園には食べる連中が絶えない。

 だから俺はどんなにカオスでも、メシを作り続ける。


 スプーンを口に運びながら、改めてそう思う。これだけ派手なバトルをやっても、最後は弁当を食って笑って終わるのが俺たちのスタイル。異世界が攻めてこようが、派手な雷が落ちようが、生活は腹を満たすことなしには続けられない。

 だから、戦わなくても、飯を食わせるだけで意外と人を動かせる。

 UGB部ですら妙に納得して帰ったくらいだ。


「ま、うちの桜スープが“雑魚”じゃないって証明にはなったよね」

 ユウリがそう言って笑う。俺も微笑みを返す。ステージの上ではまだ歓声の名残がざわついていて、ミハエルが何やら天使ソングを口ずさんでいる。

 牛島先輩は浮かび上がって「これはええ思い出になりそうや」とはしゃいでる。

 何から何まで騒がしいけど、不思議と心地いい混沌だ。


「……さて、片付け終わったら部室戻るぞ。今日はこれ以上の騒ぎは勘弁だ」

「あいあい。明日のメニューは何にするの?」

「さあな。とりあえず桜スープは絶対外せないけど、気分で決めるさ」


 ユウリと軽口を叩き合いながら、俺はステージ脇で鍋を抱える。少し遠く、ゲートの向こうに消えていくUGB部の背中を眺める。あいつら、料理を“倒す術”じゃなく“生きる術”だと分かってくれたらいいな。

 まあ、そこまで求めるのは野暮ってもんだろう。世界は広いし、バカはバカなりに楽しくやってくれればいい。


 人が腹を満たすのに、いちいち強さなんかいらない。強いか弱いかじゃなく、食べたいか食べたくないかのほうが大事だ。そう俺は信じてる。


 ――とりあえず、朝ごはんにも弁当にもなるスープが最強だろ。

 派手さはないけど、これが俺の“バトル”であり“勝利の味”なんだよな。


 ちょっと疲れたけど、まあ悪くない。今日はこの後、部室でゆっくり一杯飲もう。

 胃袋に優しいこのスープこそが、俺の誇りだ。


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