可愛(かわい)らしく「ワン」と、お鳴(な)き
私は命令をする職業に就いている。どの職業にも、命令は付きものだから珍しくもない。多くの職場では『命令』ではなく『指示』という言葉に置き換えられてるけれど、やっていることは犬に芸を仕込むのと同じようなものだ。
その点、私の仕事はわかりやすい。客を犬と呼び、可愛らしく鳴けるように仕込んであげる。どんなに偉い役職だろうが、私が等しく罵倒することで客から喜ばれるのだから良い商売だ。
世も末だと言う人もいるだろうが、私はそうは思わない。SとMが惹かれ合うのは、磁石のS極とN極が引き合うくらい当然なのだ。だから遠慮なく、Sの私に惹かれてほしい。
『女王さま』という、割と昔からある今の職業は。人間も動物なのだという、自然の摂理に基づいているから、長く続いているのだと私は思う。
「さあ、命令よ。いっぱい、私に命令して」
帰宅して、同性のパートナーに私が命令する。「お手」と言われて、私は可愛らしく「ワン!」と鳴いた。