第19話 はやい速い馬
「ロティスくんっ!!」
ものすごいスピードで走る馬車から転げ落ちんばかりに身を乗り出したミナさんが不安と安堵の入り混じった表情でこちらに手を振っている。
「ミナさん!?」
息つく暇もなくまだ停止してもいない馬車から飛び降りたミナさんは凄まじい勢いで俺たちに駆け寄って来た。
「本当にごめんなさい! 私がちゃんと確認していなかったから……」
「ちょ、ちょっとミナさん落ちついてください。馬車からあんな風に降りたら危ないですから」
火事場の馬鹿力というかなんというか、問題なく着地したからいいものの……いくらミナさんがランク2のコントラクターだった経験があるとはいえ、見ているこっちがヒヤヒヤしてしまう。
でも、だからこそ本気で心配してくれていたのだということは伝わって来た。
「ミナさん、ロティスさん方とりあえず乗ってください! ディバン陛下より至急お連れするようにと命が」
ミナさんから少し遅れて降りて来た御者が俺たちに叫びかける。
これはどうやら本格的に動きがあったとみて間違いないだろうな。
俺は三人へ目配せをすると三人も状況は理解している様だった。
さて、今度は何がエモニを絶望させようとしているんだ?
◇◇◇
「なるほど……ギルドにもルシール公爵家の手が回っていた訳ね」
馬車に乗ってから、今回の経緯や王都でフィネレ王女が見た諸々について一通り説明を受けた。
どうやら俺たちの担当として、ミナさんにも事情が共有されているらしい。
これは信用されたミナさんがすごいのか、それともなりふりを構っていられない程悪い状況なのか……。
今回の依頼は俺たちの担当が月の街から来たばかりのミナさんに切り替わるタイミングを狙って行われたものだろうという事だった。
まあ、確かに効果的ではありそうだが……。
「じゃが、そうするとワシらの動きが先に読まれていたということかの?」
ユメがちょうど俺の考えていたことを代弁してくれる。
「いや、それも違うと思うわ。指名依頼だもの。今日ロティスくんたちが来なければ明日にでも私から連絡を入れていたと思うわ」
「そうね……でも、これでルシール公爵家はかなりきな臭くなったわね」
ミリアが床を見つめながらつぶやく。
その視線には強い色が籠っていた。
……ユーリがまた、ということも考えられなくはないが、おそらく今回は違うだろう。
今回はもっと上、おそらくルシール公爵家の当主かユーリの兄辺りが関わっているんじゃないだろうか。
ユーリには魔族が付いていた……今回も洞窟の奥にはおそらく魔族だったであろう不死者のような相手が……どうにもルシール公爵家には魔族と縁があるように思えてしまうな。
そもそも魔族がそんなに多くいるとは思えない。
無論アインのような例外中の例外は存在するだろうが、ルシール公爵家の周りだけここまで露骨に魔族と関わりが……そこまで考えたところで俺の視界に不安そうな顔が映りこんだ。
「ロティス? まだ体調悪い?」
隣に陣取ったエモニが俺を覗き込んでいる。
「ああ、違うさエモニ。ちょっと考え事をな。それよりミナさん、フィネレ王女が視たのはマーズのダンジョンブレイクで間違いないんですね?」
ルシール公爵家に関してはまたあとで考えよう。
目下の敵だった洞窟の不死者は討伐できたことだし、今はそれよりダンジョンブレイクだ。
「ええ、私もまだ半信半疑なのだけど……どうやら近いうちに、ということらしいわ。念のためにサンシャインギルド所属のクラス6以上のコントラクターたちには長期の遠征やダンジョン探索は控えてもらって、有事にはすぐに動いてもらえるように通達は出しているのだけど……それもどれだけ効果があるかは分からないわね」
自分の非力さが恨めしいとでも言わんばかりにこぶしを握るミナさん。
確かに、現状で打てる手はそんなところだろう。
フィネレ王女が星詠を持っていることや、クラリスの天通眼も本来ならば俺たちですら知りえない情報だ。
コントラクターたちにとっては訳も分からず依頼を制限されている状況。
他のクラス6コントラクターがどのような人物なのかは知らないが、こういうのは往々にして上に行くほど面倒だったり厄介だったりする。
そうそううまくはいかないだろう。
「ああ、それとヨハンナさんが率先して護衛騎士の方々とマーズに向かったわ」
「……! そうですか」
ヨハンナが……確かにヨハンナの実力はそこら辺のクラス6コントラクターよりも上かもしれない。
そもそも聖魔法を使えるなんてそれだけでメリットしかない。
だが……。
なんだろう、とてつもなく悪い予感がする。
聖女の突然の来訪から始まり、俺たちを脱出が難しい洞窟に閉じ込め、その間にフィネレ王女にマーズのダンジョンブレイクを見せる、そしてそれは聖女としては放って置ける状況ではないため、聖女は単独でマーズに向かい……。
出来すぎている、あまりにも。
まるでシナリオの通りに進んでしまっているかのような、なめらかすぎるが故の違和感。
俺は思わず馬車の窓から顔を出し御者に声をかけた。
「すみません。多少の揺れとかは全く構わないのでできる限り最速で王都まで!」
俺の言葉にチラリとこちらを向いた御者はすぐに前を向いて一言。
「どうやら、尋常でないご様子。いいでしょう! うちの子の限界をお見せしましょう!」
何やら御者が馬たちに向けて声をかけた。
すると、まるで興奮したかのように馬車を引く二頭の馬が嘶き、それはそれはとてつもないスピードで走り始めた。
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