第14話 蠢く策謀
「父上っ!」
ここ数日は穏やかだった王城、国王ディバンの私室に、見慣れた険しい表情を携えたフィネレが飛び込んできた。
「どうしたフィネレよ」
この顔でフィネレが自分を尋ねてくるなんて、もう、その理由は一つしかない。だが、分かっていても信じたくない気持ちがあった。
「……数日中にマーズでダンジョンブレイクが起きます」
「……そうか。やはり、来てしまったか」
ロティスたちのおかげで、最近は比較的にいい未来しか見えていなかった星詠に、再び悲劇が現れ出したようだ。
「ロティス君たちと聖女殿を呼んでくれ。聖女殿には申し訳ないが、この期だ。多少聖教国に幅を聞かせられるようになろうとも、助力を願うべきだろう。リゼナ!」
「はい、聖女様には既にご連絡を。……ですがロティス様方はちょうど王都を出てしまわれたようで」
「……なんと間の悪いことか。すぐに呼び戻すのだっ!」
ロティスたちの不在を狙いすましたかのようなタイミングでの報せ。
ディバンにはこれが、どうにも偶然だとは思えなかった。
◇◇◇
公爵家からの依頼ということもあって、ロティスたちは性能のいい馬車を無償で貸し出してもらえた。もちろん御者付きの最高待遇だ。
「指名依頼ってすごいね……ただの依頼に貴族様がこんないい馬車を出してくれるんだ」
クラリスと共に王都に向けて乗って来たあの馬車と同程度の揺れの少なさ、馬も良く走っている。
俺も現代日本で車に慣れてしまっていなければ、エモニと同じ感想を持つことができただろう。
「私もここまで待遇の良い依頼は受けたことないわね。まあ、公爵家側からすればロティスに色々思う所があるんじゃないかしら?」
「そういえばミリアは高名なコントラクターなのじゃったな。前にロティスからよく貴族からの指名依頼を受けていたと聞いたことがあったのう」
「貴族と言っても月の街の領主クラスだから、今や叙勲を控えるロティスと立場は同程度だけどね」
「……! そういえばロティスの叙勲っていつになるんだろうね? もう、話があってからだいぶ時間が経ってない?」
「確かにそうねぇ」
「そうじゃの」
自然と三人の視線が俺に集まる。
「……さすがにヨハンナが帰ってからじゃないか? 国賓が国にいるのに、そっちのけで叙勲式なんて盛大な催しをやるわけにはいかないだろう」
まだ、本当に叙勲されるのかもわからないしな……それを言うと、ロティスは叙勲にふさわしい功績を立てた! ということをみんなが色々と示そうとしてくれるので言わないが。
それに、今はそんなことより気になることがあった。
「あ~それもそっか。ヨハンナちゃんの訪問も急だったもんね」
のんびりと話している間にも、そこそこいい速度で馬車は進んでいる。
だが――。
「なあ、皆。さすがに魔物に出会わなすぎじゃないか?」
もう、王都からは大分離れたはずだ。
馬車の窓から見える景色も、いかにも魔物が潜んでいそうな場所だというのにここまで魔物との接触が一度もない。
「この辺りは銀翼レベルの大規模なダンジョンこそないが、月の街の光閉ざす森ダンジョンクラスのダンジョンはあったはずだ。なのに魔物の姿を一切見ないなんてあり得るのか?」
「言われてみれば確かに……」
「もしかすると今回の依頼、想像以上な事態になっているのかもしれないのう……」
いやな予感を感じながらもどうすることも出来ず、そのまま俺たちは馬車に揺られ、件の洞窟に到着した。
◇◇◇
「ここがその洞窟かの? そんなにたくさんの魔物が集まっているなら酷く不快な臭気が漂っているかもしれぬと覚悟していたのじゃが、臭気どころか気配も感じぬのう」
洞窟の前まで来ると、ユメが意外そうな顔をしてそう言った。
「確かにそうね。百体以上のハイオークが居たら食料にされる動物の死骸とかで酷い臭いがしそうなものなのに……」
ユメの言葉にミリアも同意している。
それに俺もハイオークどころ魔物の気配を感じられない。
「ねえ、ロティス。これ絶対おかしいよ! どうする? ここまで来ちゃったけど……戻る?」
来る前はハイオークごとき何でもない! と言ったような調子だったエモニも撤退を提案するありさまだ。
これは一体何が起きているんだ……?
「……撤退も一つの手だけど、せっかくここまで来たんだし軽く中を調査してからにしないか?」
正直、情報がなさ過ぎて俺も撤退したいところだが、ここを今放置しておくと、確実に何か厄介ごとが起きるような気がする。
「それもそうね。実際にルシール公爵家の調査員が情報を得られたってことは少なくともこの洞窟の中には入ったはず。それなら私たちも問題ないんじゃないかしら?」
「ああ、ミリアの言う通りだ。中の様子を見て明らかに異常な様子だったりしたら、退くことも考える。でも、ハイオークはいくらいてもハイオークだ。俺たちが後れを取ることはないはずだ」
「うむ、ワシもそれで良いと思うのじゃ」
「……分かった。でも、今回は前の銀翼の時みたいに分断されないように注意しよ!」
「ああ、どうやら気を抜いていい雰囲気ではなさそうだからな。皆、十分に警戒しながら進むぞ!」
こうして俺たちはハイオークの巣になっているという洞窟に足を踏み入れた。
◇◇◇
「ロティス君たちに連絡はついたか?」
王城の談話室。
そこには救援要請を受けた聖女とその護衛騎士、フィネレ王女にクラリスとヒナ、そして国王ディバンが集っていた。
「いえ、どうにもルシール公爵家からの指名依頼を受注されたそうで……依頼先の洞窟まで速馬車で直行してしまっており、こちらも駿馬で追わせましたが追いつけるかは……」
ディバンの問いかけに音もなく現れたリゼナが答える。
「……そうか。依頼の内容は? すぐに戻って来られるようなものなのか?」
「いえ、それが……ハイオークの掃討依頼を受注されたようで」
リゼナが依頼内容を口にすると、ヨハンナの護衛騎士の表情が変わった。
「少々お待ちいただきたい。……掃討ということはハイオークが同時に十頭以上確認されたということですか?」
通常ならば国王とその従者の会話に割り込むなど、一考の余地もないほどの不敬罪。
だが、緊急時ということもあってか、それをとがめる者は誰もいなかった。
「はい、ルシール公爵家によるとハイオークが百頭以上確認された、と……」
「百頭!?」
「それをたったの四人で引き受けたのですかっ!?」
フィネレとヨハンナが驚きを隠せずに声を上げる。
ヨハンナの護衛騎士も驚愕の表情だ。
「お姉様、ヨハンナさん。ハイオーク程度ならばロティスたちの敵ではありません。ですがそれより問題なのは……」
この中で一番ロティスたちの実力を知っているクラリスが姉と聖女をなだめるとディバンをまっすぐ見つめて言い放った。
「なぜ、そのような事態を我ら王家に一報もなく、ルシール公爵家が独断でギルドへ依頼したか、ですよね?」
「ああ……その通りだクラリス。いったい何を考えておるフレミネーよ」
国王の呟きは誰に拾われることもなく、消えていった。
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