第13話 ルシール公爵家からの依頼
「あれからヨハンナたちどうしてるかな?」
俺の予想とは裏腹にあれから一週間まだ特に何も起こっていなかった。
「何かあればクラリスあたりが飛んでくるだろうさ。きっと元気だよ」
ここ一週間、念のため俺たちは外出を最低限に留め、有事に備えて来た。
俺の呪いは解け、フィネレ王女の星詠もディバン陛下の死を映さなくなった。
こんな都合のいい展開、特大のフラグにしか思えなかったからだ。
しかし、蓋を開けてみればあれからの日々は平穏そのもの。
さすがの俺も引きこもり生活には飽きてきたところだ。
「のう、ロティス。そう言えば腕が治ってから刀を振るう感覚はどうなっておるのじゃ?」
暇すぎてソファで液体のようにぐでんとしたユメがいかにもつまらないと言った表情で聞いてきた。
「ああ、なんとなく違和感はあるけど多分大丈夫だと思うよ」
「でも、なまったんじゃない? 私も久しぶりに体を動かしたいわ」
暇すぎて複合魔法の練習を始めたミリアは小規模の魔力球を動かしながら俺たちと話している。
「う~んそうだな……確かに、あまり動かなすぎるのも良くないし、今日はギルドの依頼でもこなしに行こうか」
「そう言えば、こっちのギルドでは依頼って受けたことなかったね」
エプロンを脱ぎながらこちらに来るエモニ。
その姿はもう完全に主婦そのものだ。
「そうだな。来てすぐに銀翼を攻略したせいで、何となく行きづらかったしな」
俺たちはクラスこそ、そこそこのパーティだが、王都では新参も新参。
そんな俺たちが銀翼を攻略してしまったせいで、変に注目が集まっていた。
クラリスと知り合いということもあって、面倒な輩(特に売名目的)に絡まれることもままあったのだ。
「では、これからギルドに向かうということで良いのじゃの?」
「おう、準備したら行こうか」
でもまあ、そろそろ大丈夫な頃合いだろう。
◇◇◇
久しぶりに訪れたギルドは相変わらずの雰囲気だった。
だが、そんな中に一つ懐かしい顔が見えた。
「あれ? ミナさん?」
「あ! ロティスくん! エモニちゃん!」
なぜかここ、サンシャインギルドの受付に月の街ギルドでよくお世話になっていたミナさんの姿が見えた。
「ようやく会えたよ~! 皆元気にしてた?」
「え、はい。元気でしたけど……ミナさんは一体どうして?」
珍しくハイテンション気味なミナさん。
転勤でもしてきたのだろうか?
「話すと長くなるんだけど……あなたたちあの銀翼を攻略したんでしょう? そのせいで誰がロティスくんたちの担当受付になるかすごい揉めちゃったらしくて……月の街で一番交流のあった私がここで担当することになったってわけなの」
担当受付……サンシャインギルドクラスの大所帯なギルドでは有望なパーティにそれぞれ担当の受付が付いていることがある。
目的は様々だが、一番はコントラクターとギルドの関係を密接にして便宜を図ることで有事や厄介な依頼などを早急に処理してもらうことだ。
確かに俺達は来て早々に大戦果を挙げた超が付くほどの有力パーティと言っても過言ではない。
出世を狙う王都の野心家ギルド職員たちは担当したがったのだろう。
「なるほど……なんか、すみません。俺たちのためにわざわざ。面倒ごとに巻き込まれたりしてませんか?」
「うーん、巻き込まれていないかと言えば……だけど、気にしてもらうほどじゃないわ。ギルドマスターも口をきいてくれてるし」
そうだろうとは思ったがリーシアさんが絡んでいたか。
「何かあれば言ってくださいね? 俺もエモニもミナさんにはお世話になったので、力になりますよ!」
「うん! 何でも言ってねミナさん!」
「ふふっ、ありがとう。二人ともすごく頼もしくなったわね。じゃあ、何かあれば頼らせてもらうわ!」
これで今後はよりギルドに来やすくなる。
リーシアさんにも感謝しなくてはな。
「それで、みんなは今日はどうしたの?」
「うむ、鈍る前に依頼でも受けておこうと思ったのじゃ」
「ミナさん、なにか良さげな依頼はある?」
俺たちの話を後ろで聞いていたユメとミリアも前に出てきてそう聞いた。
「一つ厄介な依頼が……ルシール公爵家からの指名依頼で……」
「るしーる公爵家? のうロティス、誰じゃ?」
指名依頼それもルシール公爵家か……。
ユーリとは和解したつもりだったが、厄介ごとを押し付けられたか?
「忘れたのかユメ? あいつだよ。クラリスの婚約者だった――」
「ああ、あの愚か者じゃったか! そいつが何をいまさら依頼など」
「ちょっ! ユメちゃんここでそんなこと言っちゃダメ」
「む? そうじゃったか」
「……指名依頼があったからもしかしてとは思っていたけど、知り合いなのね」
「まあ、色々あったので……それで、どんな依頼ですか?」
「内容は別室で話すわ。ついてきて」
依頼内容を聞くと、パッと仕事モードに切り替えたミナさんがそう言ってギルドの会議室のような部屋に向けて歩き出した。
「依頼内容はこれよ」
会議室につくとミナさんは依頼書を開いてこちらに見せてくる。
「これは……どこかのダンジョンでダンジョンブレイクでもあったんですか?」
依頼書に書かれていたのはよくある討伐の依頼。
しかし、対象とその規模が明らかに普通ではなかった。
『ハイオークの巣の調査兼討伐依頼』
対象……ハイオーク(推定百体以上)
「いえ、ダンジョンブレイクではないんだけど、どうにも変らしいの」
「変?」
「ええ、何でも巣と思われる洞窟から一歩も出て来ないそうなのよ」
「それは確かに変ね……ハイオークは確かに群れる魔物だけどせいぜい多くても十体程度。それが百体以上なのに、同じ洞窟からも出て来ないなんて」
ミリアの言う通りだ。
ハイオークが百体も現れるなんて「絶望勇者」のゲームにだって一切存在しない。
これは完全に知らない分岐を踏んでいる。
「なんで出て来ないんだろう?」
「ううむ……じゃが、ワシらならばハイオークごとき何体いても変わらぬのではないか?」
「まあ、それはそうだな……ミナさん、場所は?」
何が起きているのかわからないが、何となくこれをそのままにしておくのはまずい気がする。
それにユメの言う通り、ハイオーク程度なら今の俺たちの敵ではない。
「場所はルシール公爵領と王都の境にある山の中の洞窟よ……これは依頼だから断ることもできるけど……」
「放っておいたらまずそうだし、受けましょロティス」
「うん、そうだね! ハイオークならちょうどいい調整にもなりそう」
「うむ」
皆もやる気のようだ。
「よし! ではその依頼、受領しますミナさん!」
「分かりました。ルシール公爵家への連絡はこちらでしておくわね。でも、いい? 無理はしちゃダメよ? 直感だけど、いやな予感がするの」
「はい。気を付けて行ってきます!」
こうして俺たちは王都とルシール公爵家の境にあるハイオークが大量発生している洞窟に向けて出発した。
◇◇◇
「ふむ、ルシール公爵家は指示通りに動いていたようですね」
ロティスの警戒をもはるかに上回る、超上空からその男は彼らを見下ろしていた。
「これ以上、計画の邪魔をされても困るのでね。とりあえずはマーズ陥落計画を成功させましょう。それに加えて抵抗する魔貴族どももこの間に黙らせてしまいましょうか! 聖女の来訪のせいで少し計画に修正が必要になりそうですが……いったいなぜ突然聖女は王国へ来たのでしょうか? まあ、いいでしょう」
禍々しい翼、額から鋭く伸びた角。
その魔族は優雅に空を羽ばたきながら計画を練る。
「すべては魔王様のために!」
狂信ともとれるその叫びは遥かな空に吸われていった。
そろそろ三章のメインパート……。




