第12話 聖教国の腐敗
「なるほど……お二人はそんな不幸の末にレイスとなってしまったのですね」
次いで俺も風呂に入った後リビングで休んでいると、真面目な顔でレイスたちと話混んでいたヨハンナがそんなことを言い始めた。
「そうなの! ここのハーレムくんとは違って最低な野郎だったのよ!」
「うんうん」
「つまり世の中には邪神信仰者でなくとも、そんな大いなる巨悪が存在しているということですか……」
だいぶ大仰に話されているし、酷い拡大解釈をしているような気がするが……まあ、ハーレム作っておいてそこから特定の人と駆け落ちするような貴族の話だからどうでもいいか。
「ねえ、ロティス? 本当に大丈夫?」
そんなことを考えていると心配そうな顔をして、ソファで仰向けに横になっていた俺の顔を覗き込むようにエモニが声をかけて来た。
「ああ、ごめんな心配かけて」
「ううん、私の……いや、もう言わないって決めたもんね。私は大丈夫! あ、何か欲しかったらすぐに言ってね! 料理とか……すぐ作るから!」
「ありがとな。じゃあ、いつものサンドイッチ食べたいな。頼んでいいか?」
「……! うん! まかせて!」
そう言うとみるみる顔をやる気に満たしたエモニはキッチンへ走っていった。
「それにしても聖女の魔法とは中々にすごいものじゃったの」
俺の腰近くに浅く腰かけて今度はユメがそう呟く。
「そうだな。聖属性上位魔法〈アイオライト〉だったか?」
「あの魔将とやらとはまた違った濁りのない魔力じゃったの」
「ヒルウァの魔法は聖魔法と魔族の魔法が混ざったりしてたからな……」
聖魔融合『ルキフェル』だったか? あの場面で『救世主』が覚醒していなければ、原作通りの展開で俺が死亡、エモニの絶望からの勇者覚醒で月の街どころか周囲のマイア村、延いてはこの王都サンシャインまで焼け野原になっていたかもしれない。
まだ最近のことだというのに、遠い昔のように感じる。
そんな話をしているとレイスたちと話していたヨハンナがこちらにやって来た。
「その聖魔法を扱う魔族の話し……詳しく聞かせてもらえませんか?」
「ん? それは構わないけど」
「ロティスの武勇伝ですか!?」
「じゃあ、ロティスの頭は私の膝の上ね」
それを聞いたクラリスとミリア、そして無言でスッとヒナさんもこちらへやって来た。
流れるような仕草でミリアが俺を膝枕の体勢にする。
あまりに自然すぎて、抵抗する暇もなかった。
「……ハーレムくんが本当にハーレムしてる」
「なんとなく既視感を覚える光景」
そんな様子を後方腕組み先輩面をしてみているレイスが二人。
◇◇◇
「ヒルウァの話しだったな。……と言っても、俺たちが知っていることもごく断片的なことなんだけど」
「構いません。人が魔族に……それも聖魔法の使い手が、となると聖女として聞かずにはいられませんので」
「そうか」
ヨハンナの聖女への使命感は本当にすごい。
さっきも言っていたお世話になったシスターとやらの影響だろうか?
「ヒルウァは力を求めて魔族になったと言っていた。方法は分からないが他にもヒルウァ見たいな実験例がいるようなことも示唆してたな」
「うむ、そうじゃったな。魔族が完全な聖魔法を使ってきて驚いたものじゃ」
「その魔法とはどんな魔法でしたか?」
「確か……聖魔法『ミネルヴァ』とか言っていたな。聖魔法の知識は全くないんだが、かなりの魔法だったぞ?」
「ミネルヴァっ!? 本当にその魔族は聖魔法『ミネルヴァ』と口にしたのですかっ!?」
俺がミネルヴァの名前を口にした途端、ヨハンナの顔色が変わった。
すごい勢いで立ち上がったかと思えば、そのまま息を呑むのも忘れたように凍り付く。
「あ、ああ……そうだったよな? ユメ?」
「うむ、間違いないのじゃ。あの時はワシの歪みを断つ力を込めたロティスの刀術『絶空』も効かなかったのよな」
そうだ。聖神の魔法と魔族という相反する力を持つヒルウァを討つのに完璧なはずだった俺の『絶空』を純粋な聖魔法を用いて歪みを消すことでヒルウァは受けきって見せたのだ。
「ロティスの刀術が効かなかったのですか!?」
「ああ、効かなかった。でも、最後にはミリアの力も借りて俺の刀術でとどめを刺したぞ」
「さすがはロティス様ですね!」
俺が戦ったときの話をするとクラリスとヒナさんはいつもこうして新鮮な反応をしてくれるからつい弁が弾んでしまう。
「ヨハンナちゃん。そのミネルヴァとは一体どんな魔法なのかしら?」
別の方向に流れそうだった話しをやんわり軌道修正して、立ち上がったヨハンナを座るように促しながらミリアがそう聞いた。
「……そうですね。本来は機密情報なのですが、私はお話を伺っている身。お話しましょう。ですが、他言無用でお願いしますね」
「ああ、分かった」
皆、少しの緊張を含みながらヨハンナの言葉に頷いた。
「聖魔法『ミネルヴァ』……この魔法は一般的な属性魔法に換算すると軽く見積もっても上位魔法レベル。今の聖教国では使用者はかなり高位の司教レベルでないと扱うことはおろか、魔法の概要を知ることすら出来ないでしょう」
……!?
「つまりヒルウァは……」
その言葉にヨハンナが浅く頷く。
「はい……。ご想像の通り、おそらくそのヒルウァなる魔族はある程度立場のある聖教国関係者だったのでしょう」
「ヨハンナさん……」
心配そうな声でクラリスがヨハンナに駆け寄る。
「ご心配ありがとうございますクラリス王女。ですがこれで確信しました。どうやら、聖教国内部には相当根深く魔族が手を伸ばしている様です。なにもわからず過ごすより、今ここで知れてよかったです」
ヨハンナはそう言って笑って見せるが、それが強がりであることは誰の目にも明白だった。
辺りに重たい空気が流れる。
「ロティス! サンドイッチ出来たよ! みんなもお腹空いたでしょ? 良ければ食べてよ!」
そこに大皿いっぱいにサンドイッチを盛り上げたエモニがやって来た。
「お! さすがエモニ! 今日も美味そうだ!」
「ふふっ! いっぱい食べてね!」
俺好みの色々な肉を挟んだサンドイッチ。
鳥系の物からひき肉を使ったハンバーガーのようなものまで本当に様々だ。
「ふむ、皆。エモニの料理は間違いなのじゃ。いただくとしよう」
「そうね。エモニちゃんの料理は一級品よ」
「そ、そんなに褒められるほどじゃ……」
予想以上に褒められてエモニが照れている。
その笑顔は重くなりかけた場の空気を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
さすがは勇者。そう、これが、これこそが勇者のあるべき姿だよな。
だがここは絶望勇者の世界。上げてから落とすのはこのゲームの常套手段だ。
サンドイッチと共にエモニの笑顔も噛み締めながら、俺は明日以降に何かが起きるのではないかと気を引き締めた。




