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救世主転生 ~死にたくなかったので、勇者覚醒イベントの攻略不能ボスを倒して最推し勇者を救おうと思います~  作者: 嵐山田
三章

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第8話 ミリアの悩み

 ゆっくり階段を上っていく。

 こんな様子のミリアを見るのは始めてで、どう接したらいいか……。

 ヒルウァと対峙した時でも震えなかった俺の手が微かに震えている。

 ……よしっ!

 

「ミリア、入ってもいい?」


 意を決してミリアの部屋に声をかけた。


「ロティス?」


 あれからもずっと、ぼぅっとしていたのか、微睡んでいるかのような反応が返って来た。

 間をおかず扉を開ける。

 ミリアはベッドに腰をかけ、窓から外を見ていた。


「珍しく、心ここに在らずって感じだね?」


 そう言いながら俺もミリアの横に腰かけた。


「聖女の話しを聞いてからだよね? ミリアがそういう感じになってるのって、何かあった?」


 踏み込み過ぎか? と逡巡するもその程度を迷うような信頼関係ではなかった。

 

「心配かけちゃってごめんね。……あの聖女さんから懐かしい魔力を感じて……ね」


「懐かしい魔力?」


「うん、全然覚えてないのに、分からないのに、懐かしい。そんな感覚がしてて、さっき不意に誰かの名前が浮かんだの。……サクラって」


 ……サクラ? って桜か?

 それはまたずいぶんと懐かしい響きだな。

 この世界じゃ日本を感じる物なんて一切ないのに……まあ、ユメとミリアは別だけど。


「それでミリアはその名前について考えてたってわけ? 体調が悪いとかではない?」


「ええ、それは大丈夫よ。それに……分からないことをいつまでも考えていたって仕方ないわよね」


 軽いガッツポーズで、元気を表現してくるミリアに思わず笑みがこぼれた。

 

「それより、せっかくロティスと二人になれたんだし……」


 すると、ミリアは突然立ち上がり、豊満な双丘に俺の頭を抱え込むようにして抱きしめて来る。


「ぎゅー! ちょっと前まではよくこうやってたのに、最近ではめっきりしなくなっちゃってたからね! それにロティスの周りにはどんどん女の子が増えて行っちゃうし、お姉ちゃんにもロティス成分を補給させて~」


「み、ミリア!? ちょっと前ってもう、十年以上前のことじゃない?」

 

 言葉ばかりの抵抗はするも、拒否はしない。

 実際、この雰囲気のミリアを見るのは久しぶりだからだ。

 これでミリアの気分が晴れるなら、誰も損をしない最高の選択だろう。


「ふふっ、そうかもね。ふふっ!」


 これだけ楽しそうなら、もう大丈夫だろう。

 俺に話してすっきりしたのか、普段の三割増しくらいでご機嫌なミリア。


 傍から見ればカップルのそれな甘やかされ方をしていると、ミリアの部屋の扉が開いた。


「……遅いと思って来てみれば」「うむ、ワシらに分かるように説明してほしいの」


 そこには、月の街での事を彷彿とさせる包丁を持ったままのエモニと、ふんす! といったように精一杯の怒りの表情をしているユメが立っていた。

 さらに背後では二人のレイスが、野次馬のように何かを騒いでいた。


 ◇◇◇


「でも、よかった。ミリアさんの悩みが重大な出来事とかじゃなくて」


 あれからしばらく、勇者オーラを漂わせるエモニを何とかなだめて、ようやく食事になった。

 

「ちょっとエモニちゃん? これでも結構悩んでたのよ? 知らない名前とか懐かしさを急に覚えたんだから!」


「でもなんだか、どこか遠くに行っちゃいそうな雰囲気があったから……」


 落ち着いてからはミリアのことを茶化すようにしていたエモニも、心中では心配していたようだ。


「何を言っておるのじゃエモニ。このロティス信者がロティスを残してどこかへ行くはずがないじゃろうに」


「ふふっ、ユメちゃんは私のことをよくわかってるのね」


 ……これを目の前で聞かされる俺はどんな反応をしたらいいのでしょうか?

 なんてことを考えていると、ユメが少し真面目な表情をしてミリアに問いかけた。

 

「それよりミリアよ。その懐かしい名前とやらは何という名前だったのじゃ?」


「サクラって言う名前よ。でも、なんとなく名前って感じがしただけで、ほんとに名前かどうかは分からないけどね……」


 それを聞くとユメは顎に手を当てて何かを考えるような仕草を見せる。


「ふむ、サクラか……その名を聖女を見て感じたのじゃの?」


「ええそうよ。……って、もしかしてユメちゃんは何処かで聞き覚えがあるの!?」


「ううむ……ないと言えば噓になるのじゃが、あれはもう相当前の話しじゃからのう……時間の感覚がなかったとはいえ、ミリアもまだ生まれていないくらいの頃のはずじゃぞ?」


「それって、俺の前にユメの元に来たって言う人が話してくれた話の中に出てきたのか?」


「そうじゃ、あの男が言っておったのじゃ。聖教国の聖女でその名に違わぬ美貌を備える唯一無二の存在だとかなんとかと……」


 何とも微妙な情報だな……というかユメののじゃロリ口調が本格的にこの男の仕業な気がしてきた。


「ミリアさんの感じた魔力も聖女様からだったんだから、きっとその人のことなんじゃない?」


 それもそうな気がする。

 でも、なぜそれをミリアが突然感じたのかっていう根本の部分が分からない。

 あとはこれをミリアがどう受け止めるかだけだ。

 

 俺たちの視線がミリアに集まる。

 このことに関しては、俺たちは第三者でしかない。

 ミリアが気になって調べたいと言うなら喜んで力を貸すし、気にしないと言うならこれ以上俺たちが気にすることはないのだ。

 

「……まあ、いいわ。さっきロティスには言ったけど、考えてもわからないことをあれこれ考えるのは時間の無駄、もし、必要なことならきっと必要な時がくるでしょう!」


「ああ、そうだね」


 曇り気味だったさっきまでのミリアはどこへやら。

 そこにはもう、いつも通りの彼女がいた。


「それより、ロティス」


「ん? なんだ? エモニ」


「あとで私とユメちゃんにもあれやらせて」

「そうじゃの」


「? あれとは?」


 俺が首をかしげるとまた、おもむろに顔を抱きしめられた。


「え、ちょ……」


「これのことよ! ね? エモニちゃん、ユメちゃん!」


「「ああーーーー!」」


 しかしこんな騒がしく穏やかな日常も長くは続かない。

 翌日早朝、ロティスたちを起こしたのはいつも一番に起きるエモニでもなければ、眠る必要のないユメでもない。

 王城からの早馬だった。


厄介ごとの予感……

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