第6話 聖女来訪
リーシアさんにイヤリングをもらってから早一週間が過ぎようとしていた。
あれから左腕の調子に変化はなく、このイヤリングの聖魔法のおかげか、以前王城で起きた発作のような現象は今のところ起こっていない。
いや、本当にこの一週間に何もなくてよかった。
この一週間俺は、これまでの忙しない日々とは打って変わってまるで青春時代に戻ったかのような日常を送っていた。
いや、日本での俺の青春なんて全部このゲームに捧げ込んだから存在しなかったわけなんだけどさ。
………………。
初日はヒナさん、次にクラリス、ユメ、ミリア、エモニと順番に皆と一日デートをすることになったのだ。
なんでも月の街から王都に向かっている時から五人の中では計画されていたことらしく、この間の仕立て屋もそのためにクラリスが事前に呼んでいたそうな……。
まあ、そんなわけで血に泥にまみれた絶望勇者の世界からは考えられない恋愛シミュレーションのような一週間を送ったわけだが、今日はそうもいかない。
何せ今日はこの王都に聖教国ジュピテが誇る聖神信仰の象徴、聖女様がご到着されるそうだ。
「それにしても聖女様、なんで突然王都に来ることにしたんだろうね?」
「神を信奉する者どもの考えることなぞ、推し量るだけ無駄じゃ。なにせ、どう問い詰めても聖神のお導きが~やら邪神様のために~と言いよるのじゃから」
「……」
エモニの疑問にユメが答える。
ここまで詳しい理由はよくわからないが、まあ言っていることは理解できた。
「信仰ってのは難しいからな。なにを以て信仰とするか、何が救いなのかそれが判断できるのは自分だけなんだから」
「ふーん? 難しいね」
「まあ、そこらの者からすれば神なぞ概念的存在でしかないわけじゃからの」
「……」
「ミリア?」
いつもなら話に加わって来そうなミリアがずっと神妙な顔をしている。
「あ、うん? どうかしたのロティス?」
「いや、心ここにあらずって感じだったからどうしたのかなって思ってさ」
「ちょっと気になることがあっただけだから大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「そう? それならいいんだけど……」
俺が声をかけたことで幾分か顔も晴れたような気もするが、どうにも気になる。
そういえば、ミリアは月の街でもいち早く聖神像を破壊してたし、聖神信仰に何か思う所でもあるのだろうか?
と、そんなことを考えているとこんどはふよふよと二人のレイスが俺たちに近づいてきた。
「ねえ、ハーレムくん」
「テレサ、それは止めろって……」
「聖女に見つかったら私たち……まずくない?」
「それはそうかもしれないけど、見つかることなんてあるのか? だってお前たちここから出られないだろ?」
そりゃ、レイスは魔物だし聖神信仰における悪に位置づけられる魔族側の存在だと考えられているのは間違いないけど、この家にいる限り問題ないはずだ。
何を心配しているのだろうか?
「でも、ハーレムさんは無自覚にハーレム形成してるじゃないですか!」
「ソーカさん? 言いがかりは止めて――」
「それは否定できないんじゃない? ロティス」
「うむ、そうじゃの」
「そうねぇ~」
「いや、エモニたちも待ってくれ。そもそも、関わる機会がないだろう?」
「でも、王女様とも本当は関わる機会がなかったはずでしょ?」
「それは……そうかもしれないけど」
待て待て待て、こんなものただのメタ推理でしかない。
が、このゲーム絶望勇者の主人公はエモニだ。だから、その一番近くにいる俺たちに聖女が関わってくる可能性は……正直低くないと言わざるを得ない。
「決めたぞ! とりあえず聖女騒動で国の騒ぎが収まるまで家にいることにしよう!」
聖女がどんな理由で王都を訪れたのかは知らないが、銀翼のおかげで資金は潤沢にあるし、ありがたいことにここは俺の家だ。
それに次の仕事も決まっているのだから無理に外に出る必要もない。
「それは賛成だけど、ちょっと聖女様の一行、見てみたくない?」
「異国の一団か。確かにワシも興味があるぞ!」
……メタ思考をした後だと露骨にフリに聞こえるな。
でも、まあ遠目に見るだけなら……。
今日は聖女が到着することもあって、普段以上に騎士たちが街へ出てきており、エモニやユメと同じように聖女やその一団を一目見ようと多くの人が外に出ているはずだ。
実際に、この貴族街の一等地ですら、外からにぎやかな声がうっすらと響いてきている。
「じゃあ、ちょっとだけ見に行ってみようか」
「え! いいの!」
「おう。でも遠目から眺めるだけだぞ。俺たちは近いうちにマーズにも行かなきゃいけないんだから」
「そうじゃの! ではひっそり行くのじゃ!」
「……」
元気な二人の横で相変わらずミリアが神妙な面持ちをしていた。
◇◇◇
目立たないように地味な服装に着替えた俺たちは「絶対連れ帰って来ないでね」と念押しするレイス二人組に送り出されて、いつもより1.5倍増しでにぎやかな王都に繰り出した。
「心なしかみんな浮足立ってるね」
「まあ、聖神信仰者自体は王都にも結構な数がいるだろうからな。その象徴が来るともなれば、みんな浮かれるんじゃないか?」
そんな話をしながら王都から王城へと続く一本道のある通りに出ると、聖女を一目見ようとする多くの人でごった返していた。
「ふむ……ロティス。ワシは肩車を所望するのじゃ」
ユメは身長が百五十センチ弱程度しかない。
この群衆を前にしては何も見えないのだろう。
だが、肩車は目立ちそうなんだけどなぁ……。
「……いいけど、あまり目立たないようにな?」
自分でも無理だと思いつつ、ユメを肩に乗せて立ち上がる。
「おおっ! 高い! 高いのじゃ!」
「いいなー、私も小さく生まれたかった」
エモニは目算で百六十五センチ程度だろうか。
つま先立ちをすればギリギリ見えるようで、羨まし気にユメを見ていた。
そして、ついに王都の門が開かれ聖女の一行が入ってきたようだ。
割れんばかりの歓声が上がり、もはや英雄の凱旋にも思える。
「ん? 意外と少人数なんだな」
「そうね。魔族が現れたって情報は向こうの国にも伝わってるはずなのに」
モデル顔負けのスタイルを持つミリアは難なく、聖女の一団を観察していた。
「あの手を振っている少女が聖女じゃな?」
「そうだろうな。あの感じだと俺たちよりも年下だな。聖女ってことは生まれがいいとも限らないし、大変そうだ」
「そっか。クラリス達とは違って聖魔法の有無なんだもんね。それに周りの騎士はおじさんばっかりだし……」
ふと、どこかから視線を感じる。
「む?」
俺の上に乗っているユメも感じたようで、俺とほぼ同時に反応した。
「どうかしたの? ロティス、ユメちゃん?」
「うむ、何か視線を感じたような……」
人が多すぎて、人物の特定は出来そうになかった。
「みんな、そろそろ戻ろう。ユメ、下ろすぞ」
「うむ。これ以上は目立ちそうじゃの」
「そうだね。帰ろっか! ……ミリアさん?」
俺がユメを降ろしている間にミリアに声をかけたエモニが不思議そうな声をあげた。
つられて俺もしゃがんだままミリアを見上げる。
「……サクラ?」
すると、手を微かに震わせたミリアが何か衝撃的なものを見るような顔をして、そう呟いていた。
デート回を五人分入れようかとも思いましたが、この作品はそこまでラブコメしてきていないので泣く泣く割愛しました。
デート回がみたいヒロインなどいればぜひ感想等で教えて頂けると喜びます。




