第5話 真紅の耳飾り
「はあ……昨日は酷い目に遭った」
銀翼から戻って一日。
散々着せ替え人形にされて疲れ切った俺は帰ってきてすぐにシャワーを浴びてベッドに入り、泥のように眠った。
銀翼の疲れ+慣れない服を着まくったのだからまあ、そう言うこともある。
そして今は……。
「久しぶりだねロティスくん。銀翼では大活躍だったそうね」
「おかげさまで何とか第六層まで到達できましたよ」
「ほぅ……それで、もちろん?」
リーシアさんの目が買い付けを前にした商人のように光る。
「ええ、もちろん」
さすが、分かっている人だリーシアさんは!
俺は亜空間ポーチから戦利品の橙の魔核を取り出し、リーシアさんの執務室の机上並べていく。
「ほうほう」
一つ、二つ、三つ、四つ。
「へぇ~」
五つ、六つ、七つ。
「……ロティスくん?」
八つ、九つ……。
「ちょっと!!? ちょっと待ってロティスくん!? なにこれ!? 橙色の魔核がこんなに!? いったいどんな魔物が出たというの! 銀翼の未探索領域で!」
魔核の品質を眺め見るようにしていたリーシアさんが大声を上げた。
「亜竜とか?」
「あ、亜竜!? それはまごうことなきクラス6の魔物じゃないか!」
「でも、結構ぞろぞろ出てきましたよ?」
「うむ! 第五層に限らず第四層にも現れたときには流石のワシも少し驚いたがの」
「そうね~でもユメちゃん、あっさり倒してたわよね」
「まあ、そうじゃな! あのくらいならまだワシの相手にはならんぞ!」
あのダンジョンで間違いなくみんな一回り強くなった。
ミリアは元々強かったが、ユメは精霊になったことにより、俺に振るわれなくても一人で戦えるようになったし、エモニも全力の一割未満程度だろうが勇者の力を扱えるようになっている。
「……何というか君たち、本当にクラス詐欺もいいところね」
「正直……自分たちでも思ってます」
「コホン! まあ、キミたちのクラスのことは置いておこう。これらの魔核もギルドで買い取ってしまって問題ないかな?」
「はい! よろしくお願いします!」
そう言うとリーシアさんはすぐにギルド職員を呼び魔核の処理を指示した。
なおその時に職員たちになるべく騒ぎが大きくならないようにすることを厳命していた。
まあ、確かに。滅多に出回らない橙色の魔核が十以上も一気に市場に回ったら、価格崩壊待った無しだろうからな。
「さて、それじゃあ本題に移ろうか」
一通りギルドマスターの職務を果たしたリーシアさんは居ずまいを正し、研究者の顔になる。
そしてポケットから一つの箱を取り出すとこちらに差し出してきた。
「これが……?」
「うん。クラス7の、キミが倒した魔将ヒルウァの魔核を加工した魔具だよ」
シンプルな装丁の黒い箱に手をかける。
視線をリーシアさんの方に向けると、開けたまえと言っているような目をしていた。
中心につけられた留め具を外し、ついにそれが姿を現した。
真紅に染まる十字があしらわれたイヤリング。
そのイヤリングが放つオーラはあり得ない程強力な聖の魔力を持っていた。
「イヤリングですか……ありがたいです」
「喜んでもらえたのなら良かったよ。キミは刀という剣を使うって話だったからね。指輪にするにはは少し大きかったし」
俺の戦闘スタイルの邪魔にならないように考えてくれたという訳だ。
それに……。
さっきから左腕が重くなっている。
正確には、若干、元の感覚に戻ってきているといったような感じだろうか。
つける前からこれだ。
このイヤリングは間違いなく、今の俺に一番必要だったものだ。
「つけてみせてくれロティスくん。調整が必要なら承ろうじゃないか」
「はい、では早速」
ずっしりとそれなりの重量があるイヤリングを両耳に付ける。
すると真っ黒に染まっていた俺の左腕に変化が起こった。
右腕に比べるとまだおかしな色をしているがつける前よりも確実に元の色に近くなっている。
「気になっていたが、その腕。いったいどうしたって言うんだい? ロティスくん程の使い手が」
「ああ、まあ色々ありまして……。でもおかげさまで結構よくなりました! 正しく今俺が一番欲しかったものです!」
「喜んでもらえたのなら何よりだよ。学院時代ぶりに五徹した甲斐があったというものだ」
「!?」
五徹……だと!?
日本代表レベルのブラック戦士だった俺でも未知の領域だぞ。
今後一生リーシアさんを敬おう。
この人は黒を超えた闇の戦士だ。
「流石に代金を支払わせてください。こんな仕業を無償で受けるなんて、申し訳が立たないですよ!」
「いや、良いんだよ。その魔核の加工は私の人生でも一二を争うくらいの貴重な経験だったんだから。今回も大量にクラス6の魔核を持ち帰ってもらったしね」
「そういうことなら……ありがとうございます!」
「うん! それでいいのよ! でも……その腕、完治はしてないわよね? 大丈夫なの?」
それは確かにリーシアさんの言う通りだ。
感覚的には確実に元に戻っているし、色も黒から灰色に近い色になって余計に嫌な見た目にはなった気もするが、幾分か人体の色に近づいたような気がする。
これなら当分、この間みたいな発作の心配はしなくて良さそうだ。
「そうですね。大丈夫かは分からないですが、だいぶ感覚は戻りましたし、心配ないと思います」
視界の端にエモニが映る。
気にしないようにと決めたことだが、彼女の顔には若干の陰りが見えた。
そんなエモニの様子をリーシアさんも察したようで、この話は終わりだと言わんばかりに立ち上がる。
「心配ないならいいんだ! では改めて、銀翼の攻略お疲れさまでした!」
「「「「はい!!」」」」
リーシアさんが研究者の顔からギルドマスターの顔に戻りそう言って、俺たちの銀翼攻略は本当に意味で終わった。
◇◇◇
「ロティス、それ結構似合ってるね」
「お、そうか?」
帰り道、エモニたちがジロジロと俺の耳周りを見て来た。
「ええ、ロティスの少しくすんだ銀髪に深い赤が良く映えるわ!」
「うむ! 銀と赤、さらにその中間のワシの紫で完璧じゃな!」
「む! ユメちゃん、それは聞き捨てならないわね! 銀と赤に私の黒い刀身がいいでしょ!」
ユメとミリアが言い争いを始めた。
まあ、いつも通りか……。
「ふふっ。でも本当によく似合ってるよロティス! ギルドマスターが指輪を作ってきたら、どうしてやろうかとは思ってたから、本当にイヤリングで良かった!」
「……」
エモニの顔を窺い見る。
その目には光がなく、冗談でないことは誰の目にも明らかだった。
リーシアさん、ナイス危機回避だよ。本当に……。
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