第2話 不穏
「では、改めてお聞きします。こうしてここに私一人だけを呼んだ理由とは何なのでしょうか?」
表情を引き締めた国王に合わせて俺も居ずまいを正す。
今度はどんな厄介ごとが転がり込んでくるのやら……。
腕のこともあるからなるべく簡単な問題であって欲しいものだが、わざわざ国王が俺を呼びだしているのだ。そう簡単な問題であるはずはない。
「うむ、フィネレよ」
「はい。ンンッ――ロティス、私の力のことは知っていますか?」
国王に話を振られたフィネレもまた、ロティスと同じように面持ちを変えてそう聞いた。
「フィネレ王女殿下の力……クラリス殿下より伺っております。なんでも未来を見る力がおありだとか」
確か、星詠って名前の力だったはず。
俺の力然り、クラリスの天眼通然り、このフィネレの力だって……どうしてこうも原作ゲームに登場しない力がひしめきまくってるんだこの絶望勇者の世界は!
まあ、未来を見る力に関してはゲームに出てきてもらっちゃ、ストーリーのスの字もないゲームになってしまうし、そこ以外が壊滅的だったゲームなので登場してもらっては困るのだが。
……まあ、バッドエンドしかなかったけど。
「そうです、確かに私の星詠は未来を見る力です。ですが、その名の通りの万能な力とは言えません。見える未来は非常に限定的なものでそれも、身近に起こる最も大きな事柄に限られます」
なるほど……そういえば最初に会ったクラリスも淡々と私たちには救世主が必要、だから来て?みたいな感じだったな。
今思えば、ああするしか無かったのか。
「それで、その最も大きな事柄とは?」
今となってはもう懐かしくさえ感じるクラリスを思い出しながら、続きを促した。
するとフィネレは大きく息をついた。
そして意を決したというような表情をして言い放つ。
「マーズ、武の都とも称される彼の地の象徴、修練の洞窟ダンジョンにてダンジョンブレイクが発生します」
ダンジョンブレイク……いつかは来ると思っていたが、本当にこの世界は人類を絶望させたいらしいな。
この話はクラリスも聞いていなかったようで、声を上げそうになり、すんでのところで飲み込んだというような表情をしていた。
「ダンジョンブレイク……しかもマーズですか……」
「はい……以前までは父ディバンが魔に飲み込まれて死に至る未来ばかりが見えていたのですが、先程突然マーズの未来が見えたため、こうして王城へお招きいたしました」
「それを解決できるのが私だと?」
「……はい。いえ、解決出来るのかは分かりません。ですが、私の見た未来ではあなたが重要そうな立ち位置に居たことは間違いありません」
ダンジョンから帰って早々で申し訳ないのですがと若干の恐縮を見せるフィネレだが、この問題でしかも俺が出てきたと言うのならば、まあ仕方の無いことだろう。
とはいえ、ダンジョンブレイクは一大事だ。
場に沈黙が訪れる。
「……」
「急な話しで余も驚いておる。だが、どうか手を貸してくれないだろうか?」
その沈黙を破ったのはディバン陛下だった。
それも……頭まで下げて。
「へ、陛下!? 御顔をお上げください!」
思わず声が大きくなる。
「「お父様!?」」
フィネレもクラリスも頭を下げた父の姿に驚き、立ち上がってしまっている。
「こんな首、下げるだけでいいならいくらでも下げよう。お主には到底返しきれないほどの恩がある。無論、余にできる全ての手を貸そう」
「……分かりました。ですのでもう、御顔を上げてください。微力ですがこの力を尽くさせていただきます」
ダンジョンブレイク……史上でしか確認されていない天災。
だが、その歴史は非常に重く捉えられている。
ゲームでは魔物の殲滅は可能だ。
エモニの勇者魔法は広域掃討に非常に向いている。
しかし、その過程で付近の村や街、終いには都市に至っても確実に崩壊する。
そんな天災で俺はマーズをも救わなきゃいけないのか……。
エモニの救世主のつもりだったのに、いつのまにか絶望勇者世界の救世主だなこりゃ……。
腕のこともよくわかってないって言うのに。
ドタドタと音が響き、思考が邪魔される。
なんだ?
その音はどんどんとこちらに近づいてくる。
そしてついに、部屋の扉が大きくノックされた。
「陛下っ! 国境守備隊より急報です! 聖教国ジュピテより聖女の一行がこのサンシャインに向けて出立されたようですっ!!!」
「!?!?!?!?」
「入れっ! どういうことだ!? なぜ突然聖女が我が国へ?」
おいおいおいおい……次から次へとなんなんだよ。
聖女が国から動く?
今度は何が起こるんだよ?
それに陛下こわぁ……。
「申し訳ありません。本当に突然の連絡で理由までは……」
俺でも気圧されそうな迫力に、連絡役として走って来た王城勤めの男性が完全に怯えてしまっている。
「いや、それもそうだな。もう戻っていいぞ。続報が来たらまた伝えてくれ」
「は、はいっ! 失礼……します!」
「……フィネレ」
「分かっていますお父様。すぐに確認してみます」
「すまないロティス。マーズの件だけでも荷が重いというのにまた厄介ごとが舞い込んだようだ。とりあえず、今日のところはこのくらいにしよう」
「はい。では、失礼します」
「クラリス、ロティスの仲間も来ているのだろう? 送るついでにあってきたらどうだ?」
「! そうします! ロティスっ! 行こっ!」
「おう、では失礼します」
聖女か……。
一体何をしに突然……?
「ロティス? どうかしたの?」
「……いや、何でもないさ」
まあ、分からないことを考えていても仕方ない。
聖女の問題は国の、延いては国王の問題だ。
俺は頼まれたダンジョンブレイクのことだけを考えればいい。
「あ! そういえばヒナがおいしい茶葉とお茶菓子を見つけて来たの! ちょっと用意してくるね!」
談話室に向かっているとクラリスがそう言って走って行ってしまった。
まだ、数日会わなかっただけだが楽しみなんだろうと思うと自然と笑いが込み上げて――ガハッ
咄嗟に口元を押さえた右手を見る。
すると俺の手のひらは鈍い赤色に染まっていた。
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