第10話 【Side:クラリス】女子会in馬車の中
これはユーリとロティスの戦いの前から後までのクラリス達のお話。
「お、やっと出て来た!クラリス、良かったね!」
馬車の中でヒナと二人で過ごす時間は普段よりはマシだ。
ヒナはブライト伯爵家の三女でどうしようもない娘だったらしい。
家中を走り回り、重要な書類に落書きをし、何度指摘されてもテーブルマナーを守らない。
そんな彼女を見かねた伯爵がヒナをコントラクターにしたらしい。
何というか、すごい伯爵だと思う。うん。
だが、その伯爵の判断は正しかった。
元々高貴な血族由来の膨大な魔力に加えて、ヒナは圧倒的な魔法の才能を持っていた。
コントラクターになって今年で10年目のヒナはすでにクラス6が見えると言われるほど優秀なクラス5のコントラクターになった。
そしてそれを見抜いていたのか、今から5年ほど前に私の父の側近がヒナを連れて来た。
「今日からクラリス様の護衛になる者です。騎士ではなくコントラクターですが、きっとクラリス様のお役に立つでしょう」
それからヒナは二人目の姉のようになり、私のよりどころになっている。
「良かったってなんですか!依頼を受けてくれたのですから、来るのは当然でしょう!」
「でもクラリス、すごいホっとしたって顔してるよ!あはは!あのロティスって子も罪づくりだね~」
「ち、違うよっ!確かにロティスは優しくてかっこよかったけど……」
「あ、口調も素になってるし!やっぱそうなんじゃん!」
「ヒナっ!」
「あはは!クラリスかわいい~」
私たちがそんなやり取りをしているとあの男がまた、やらかしてくれた。
「おい!ちょっと待て!」
聞きたくないヤツの声がここまで聞えてくる。
「うわぁ……ユーリまたやってるよ。大丈夫?クラリス」
「……うん。いつものことだから、帰ったらもう一度お父様に話してみる」
ルシール公爵家の次男であるユーリはサンシャイン王国前国王の王弟の家系の出身。
彼の存在は私が生まれてから死ぬまで囚われる呪いだ。
はじめて会ったのは私が3歳の時、ユーリは16歳の時だった。
あの時からユーリは訳も分からない程、私に執着心を見せるようになった。
「あぁ、ちょっとやばそう。私声かけるからクラリスは下向いてて」
「うん、お願い」
ようやくヒナのことは認めてくれたが、それも伯爵家の出身だと知ったから。
ユーリは身分主義の塊、そしてそれをどこでも振り回す残念な人間なのだ。
「何を馬鹿な!僕がクラリスに嫌われるはずがないだろう?だって僕たちは婚約者なのだから!!」
ヒナの声に答えるユーリの言い分に怖気が走った。
嫌われるはずがない?それはそうだ、最初から嫌いを通り越して嫌悪しているのだから。
「ごめんねクラリス。ほんとにあいつどうにかならないもんかな」
「もういいよ。諦めてるし、いつもありがとうヒナ」
複雑そうな表情を見せるヒナに申し訳なく思いながらも、私は気丈に振る舞うことすら出来なかった。
そんな私に、まるで救世主のような声が聞えて来た。
「いや、婚約者という割にはクラリスのことが分かってないと思ってな」
思わず、うつむけていた顔を上げる。
ヒナもそのシーンに釘付けになっていた。
ロティスが私の名前を呼ぶ。
それだけで、どうしようもなく私の胸は高鳴った。
飛びかかるユーリの攻撃を軽く受け止めるロティス。
かっこい――じゃなくて、素手で剣を!?
「わぁお!やるねぇロティスくん。あの強化魔法の強度……すっご!」
「あの、ヒナ?素手で剣を受け止めるのっておかしくない?」
「うん、結構おかしいね。しかもまだクラス4なんでしょ?ユーリは総合力で言ったら雑魚だけど魔力量だけはクラス5レベルと言っても遜色ないんだから、やっぱすごいよ」
剣を受け止められたユーリは憎々し気に顔をゆがめると反動を使って後ろへ下がった。
「お、ユーリもちょっとは動けるようになってるじゃん。まあ、クラス5を名乗るならあれくらい当たり前だけど……」
どうやら、ユーリもそこそこな強さだそう。
一ミクロンも興味ない情報だけど。
「って、はあぁ!?あいつバカなの!?スルトって上位魔法じゃん!待ってヤバイ!クラリス!屈んで!障壁の魔法を選んでる時間も――」
珍しくヒナが焦っている。
でも、その理由は私にもわかった。
あの魔法はまずい、間違いなくこの馬車や街に被害が出てしまう。
それにロティスにも……。
そう思ったが、私の、私たちの救世主は全く意に介していなかった。
「お粗末な魔法だな」
そんな声が聞えた気がする。
そして、来る衝撃に身構えていた私たちにその衝撃が訪れることはなかった。
「……うっそ。あれを消せちゃうの?」
恐るおそる外を見ると右手を前に突き出し何かの魔法を使ったであろうロティスの横顔が目に映った。
「「かっこいい」」
「あ」「え?」
不意に出た全く同じ言葉。
でも、そう思わせるだけの衝撃があった。
とは言え――
「ヒナ?」
「いや、いやいやクラリス?違うよ?あんなの見せられたらどんな女子もイチコロ――じゃなくて、あんなのかっこいい以外の感想が出ないって!」
「……まあ、それはそうだけど。ロティスは倍率高いんだから!安易に惚れたらダメって……」
「クラリス!ロティスが何かやるみたいだよ!」
勢いで話を変えようとした感が否めないヒナを訝しみながら、言われた通りに外を見るとロティスが魔法で氷を生み出していた。
「魔法で氷?ヒナ、そんな魔法あったっけ?」
「……」
「ヒナ?」
「まじ?複合魔法って実在したんだ!!」
私の質問はヒナの耳に全く届いていないようだった。
ロティスの魔法を見つめるヒナは見たこともないほど楽しげな表情で、かじりつくように外を覗いていた。
ロティスはその魔法を天高く打ち上げる。
それにつられて私たちも魔法を追うように空を見上げた。
「ミリア!エモニ!クラリス!見てろよ!」
窓に張り付くようにしたことで、外の声が鮮明に聞こえる。
そしてロティスは先ほどのユーリの魔法とは比べ物にならない程綺麗で、圧倒的な存在感を放つ火球をまた上空に向けて放った。
その炎は最初に打ち上げた氷の塊をめがけて飛んでいき、あれだけ大きかった塊が手のひらに収まるくらいに見えるところでぶつかった。
二つの魔法は互いに打ち消し合い、氷は砕けて小さな星のように空を彩った。
夕日に照らされながら流れ星のように煌めくそれはあまりにも美しくて――
「やっば。ロティスきゅんかっこよすぎぃぃ……」
がたんと馬車が揺れ、トリップしかけたわたしはなんとかこらえる。
揺れの原因は膝から崩れ落ちたヒナだ。
「ちょっとヒナ!嫁入り前の女子がそんな顔をしたらダメだよ!」
崩れ落ちたヒナに声をかけながら思う。
私も隣にヒナが居なかったら同じ反応をしていたかもしれない……と。
◇◇◇
「あぁ……かっこよかったぁ。ねぇ、クラリス」
さっきからヒナはそればかり言っている。
……どうやらライバルがまた増えたみたい。
ユメちゃんにエモニさん、それにミリアさん。
ロティスのことだから他にもいたりして……。
「認めるよクラリス。あれは惚れるね。あはは!初恋だわ~!てかこの歳になって初恋って重いかな……ねえ、クラリス大丈夫だよね?」
「知らないよ!そんなこと……」
私だって初恋なんだから、という言葉は胸に閉じ込めた。
おそらく24歳の初恋は重くなると思います、ヒナさん。
こうして激重予備軍を着実に増やしていくロティスくん。
でも大丈夫、彼は救世主なので!
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