第8話 別れと旅立ち
クラリスを宿に送り届けてから、一週間。
ロティスたちは改めてクラリスからの依頼を受けて、王都へと旅立つことになった。
今日はまさにその旅立ちの日だ。
「王都か~どんなとこなんだろ。ね、ロティス!」
「そうだな、楽しみだな」
今は旅支度を整えて、旅立ち前の腹ごしらえをしているところである。
「ロティスは銀翼のダンジョンにも行かなきゃなんでしょ?もう、なんであんな奴の依頼まで引き受けちゃうんだか……まあ、その優しさはさすが私のロティスって感じだけどね!」
「む?アインの言っておったダンジョンは銀翼と言うのか。なにやら魔族侯爵とやらが治めているという話じゃったが」
この一週間の内にアインが訪ねてきたこともみんなに共有しておいた。
できればエモニには秘密で動きたかったが、もうこればかりは仕方がないだろう。
「そうよ、銀翼。実際には白銀の翼ダンジョンだったかな?確か現状の最高到達階層は4階。そのあたりからはクラス5の魔物が普通に出てくるらしいわ」
さすがは王都の4大ダンジョンと呼ばれるうちの一つといったところか。
光閉ざす森ダンジョンとは魔物の強さが一回り違う。
「ミリアは行ったことがあるのか?」
「もちろんないわよ。私の人生はロティスが最優先だったから関係ないダンジョンなんて入っている暇はなかったもの」
「ははは……ありがとう」
こうやって真正面から思いをぶつけられると、反応に困るな。
無論、嬉しいことは嬉しいのだが、子供の頃のようにまっすぐ受け止めるのは恥ずかしい。
「でも、まずはダンジョンより王都でしょ?」
「ああ、ダンジョンに行くにも拠点はいるからな。それにクラス7の魔族を倒した件で王都のギルドにも話が聞きたいって言われてるし、まずはそっちをこなしてからだな」
ユメは良いとしてもミリアは基本的に人の姿で生活をしているし、結構慎重に拠点は決めるべきだな。王都は最大の都市だ。
人も物もすべての数が桁違い、面倒な人も多いだろう。
「拠点ねぇ、私も依頼で何度か王都には行ってるけどどこもいい値段がするわよ……いくらこの間の魔族討伐の報奨金が出るとはいえなかなか厳しそうね」
「……そっか、拠点を持つってことは毎日ロティスと同じ家で……」
ミリアとエモニで拠点への反応がまるで違う。
そしてエモニさん、その顔はまずいですよ。
というか一緒に住む前提なのか……まあ、確かに金銭的にそうするしかないだろうけど。
「そろそろ出た方がよいのではないか?クラリスを待たせるのも悪いじゃろう」
初の長旅にそわそわしたのかユメがもう出ようと俺の袖を引っ張り、催促してくる。
「もう、ユメちゃん!まだ早いわよ。集合は夕方って話でしょ?」
「むぅ……それはそうなのじゃが……」
ミリアに諭されても、落ち着かない様子だ。
今回の旅程は夕方に月の街を出て、完全に暗くなる前に少し行った先にある村、マイアで一泊。
翌日以降は早朝から動き出し、馬の調子次第だが3~4日で王都に到着する予定だ。
「今日以降は野営もあるかもしれないからな。一日猶予はあるとはいえ、はしゃぎすぎて余計な疲れをためないようにな」
「わかっておる!ワシを何だと思っておるのじゃ!」
「ははは、悪い悪い。そうだよな」
……かわいいのじゃロリ刀です。
なんて口に出したら、不機嫌になること間違いなしだろうから心の内で止めた。
◇◇◇
お昼を食べてから数時間が経ち、俺達は街の入口の門までやって来ていた。
ギルドのミナさんとリアナさん、それにエモニの両親が見送りに来てくれている。
「ロティスくん!エモニちゃん!向こうでも頑張ってね!二人の登録試験を担当したことは私の一生の自慢だわ!」
「こちらこそ、ミナさんにはいろいろとお世話になりました。と言ってもまた戻ってきますよ。な?エモニ」
「そうだね!王都には行くけど私たちの故郷はここだもんね!」
目元にうっすらと涙をためるミナさん。
それに当てられてか、エモニの目にも雫が見える。
「エモニ、体調には気を付けるのよ?ミリアちゃんもロティスもうちのエモニをよろしくね」
「はい、エリアさん!任せてください!エモニちゃんもロティスも私がしっかり面倒見ますから!」
「俺もです。エモニのことは何に変えても守って見せます」
ミナさんに続いて、エモニの母であるエリアさんが一歩前に出てエモニをじっと見つめながらそう言った。
言われているエモニは顔があげられないのか、ずっとうつむいている。
「ロティス、うちのエモニを任せたぞ。もし何かあったら、俺はお前を許さねえ」
「はい、リソロさん。約束します!」
「ああ、頼む。男と男の約束だ」
そんなエモニを傍目に見ながら男泣きするエモニの父、リソロさんにバシバシと背中を叩かれながら激励された。
「……お母さんっ!お父さんっ!」
「「エモニ!」」
ついに決壊し、大粒の涙を流すエモニとエリアさん、リソロさんが3人で抱き合う。
思わずつられそうになって、急いで顔をそむけた。
「感動的な場面で悪いんだけどさ、ロティスくん」
顔をそむけた先でバッチリ目があってしまったリアナさんが小声で俺を呼んだ。
「なんですか?」
「もちろん依頼優先で、できればでいいんだけど、……ナルさんを見かけたらそれとなく私のことを言っておいてもらえると嬉しいな。……なんて」
本当にこの人は……こんな感動的な場面でなんてことを伝えてくるんだ。
けど、思わずつられそうになっていた身としてはありがたくもあった。
「いいですけど、会えるかもわかりませんよ?」
だって、俺だし……。
「いいの。なんとなくだけど、ロティスくんならまた会う気がするから」
「そう言うことなら、分かりました。伝えておきますね、月の街であなたに焦がれている人がいるって」
「ちょっと!そこまでは言ってないでしょ!」
リアナさんのおかげで俺の中のしんみりした感覚はなくなった。
そうだよ、これが最後じゃない。
とっとと、王都を救って魔王を救って、みんな笑顔でここに帰って来るんだ!
「ミリアさん、ロティスくん、エモニさん。そろそろ行きましょう」
別れの挨拶をしているところに、白を基調としたサンシャインギルドの制服を着た、あの偉そうなギルド職員が近づいてきた。
「すみません!ロティス、エモニちゃん!行くわよ!」
「おう!」
「あっ!うん!お母さん!お父さん!行ってきます!!」
名残惜しそうに街を振り返るエモニの手を握りながら俺たちは街を出た。




