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魔術

「月音ちゃん、まず初歩的な話をしよう。この世界にはね、『魔力』なるものが存在している」


「魔力??」


「そう。その魔力を行使して様々な現象を引き起こすのが所謂『魔術』なんだよ。君の足を治したり、靴を用意したりできたのもソレを使ったから」


 例えば、と前置きしたミェルさんは、パチンッと子気味良い音を鳴らして指を弾く。


 すると…



「うわ…っ!!試験管が勝手に!??」


 先程まで控えめにぽつぽつと泡を出していただけの目の前の試験管が、指鳴りひとつで沸騰したかのように途端に白泡を吹き上げ始める。


「これがつまり、『魔術』というわけ。魔力を流し込んで温度を上昇させたんだ。ただなんの下準備も無しだと出来ることが限られている。」


 不意に、机の隅の木箱を開く。


「そこで、我々魔女はこの魔術の性能を引き上げるため…『贄』という手段を用いるわけだよ」


 直後、絶句した。

 開かれた木箱からおぞましい手足を持つあの虫が無数に覗き、ミェルさんは躊躇いなくその内の1匹を無造作に手に取る。


「ムカデですかソレ!絶対に近づけないで下さいよ、あなたが噛まれるだけならともかく」


「君ィ、辛辣過ぎやしないかい??……まぁともかく、コイツを試しに贄にしてみよう」


 両の手で優しくムカデを包み、ぷちりとその首を手折って命を終わらせる。

 一連の所作は手馴れていて、改めて彼女は魔女なんだと私は認識せざるをえなかった。


「私は今、このムカデの命を魔術を行使するという名目で終わらせたね。そうすると……」


 再び彼女が指を鳴らす。


 ごぽっ…!!ごぽごぽっ!!


「す、すごい…っ」


 机上の試験管が一斉に泡を舞いあげ、吐き出し、熱を発して煮立ち始める。その出力の差は歴然だった。


「見ての通り、贄を捧げることで魔術の行使範囲、出力は格段に上がる。強大な魔術も、方法を確立して最適な贄と必要分の魔力を確保すれば実行できる。」


「仕組みは分かりましたよ。でも肝心な魔力はどこから生まれるんです?この世界の人は生まれ持って魔力が備わってたり?」


「うん、当然の疑問だろう。…我々の魔力源は、アレだ」


 リビングの大窓を開け放ち、彼女はいつの間にか暮れていたの空の向こう、金色の月を指さした。


「お月様…?」


「この世界の月はね、常に尋常じゃない魔力を地上に対して放出してるんだよ。建物で遮られようとも関係ない。月の下で暮らす以上、必ず魔力を浴びてその肉体に保有する事になる」


 そう言って、愛おしげに月を見上げた彼女の横顔はどうしようもなく綺麗で、思わず息を呑んでしまうほどで――――


「見惚れてしまうだろう?」


「……騙されせんよ。」


 ふっと口元を緩めたミェルさん。

 なんとなく良さげな雰囲気にして丸め込んでやろう、という魂胆が見え透いている。


「ダメかぁ〜…ま、ハナから許されようなんて思ってないがね」


「帰してくれるまで心から許す気はありませんから。」


 決して油断ならない胡散臭い魔女。

 絆されず誑かされず、いつか帰れる日を願って乗り越えるしかないと改めて心に刻んだ。



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