やっちゃん 53
「新聞の記事でがしょ。お気に召さないのは重々承知で掲載しましてね。暴動ってのも殆どはやらせってやつでしてね。民衆の暴動鎮圧の為に、この後政府発表が御座いまして、そこで災害警報の発令について詳しく総理が話してくれますわ。その後に記者会見って段取りでしてね。世界機関の手前、政府が率先してなにもかもバラシてしまう訳にはいきませんでね。政治の駆け引きってやつですわ」
浦島太郎になった気分だ。
総てが出来レースの新聞記事に暴動ってか。
山城でやっているいかさま博打よりえげつないぞ。
これから三日ばかりして、ハリネズミがニコニコ顔で病室にやって来た。
「一緒に食おう」と、ピザとフライドチキンとアイスクリームを持っている。
「リゾートの御金で、ピザ屋とフライドチキンの店とアイスクリーム屋を手に入れたのだよ。フランチャイズが崩壊してね、どの店主もやる気がないって言うから、タダみたいな値段で売ってもらえたよ。きつい値切り交渉もしたがね。君には特別優待券を作っておいたよ。どの店も半額になるから、一度行ってみるといい。勿論、危険が一杯の地上店だけどね」
平和なのか天然なのか悪知恵の塊なのか、美味いからゆるしてやるが……。
コソッと「何でハンバーガー屋が入ってないんだよ。ハンバーガー屋はなかったのか」と言ったのを聞いて「それもそうだ、寿司屋と弁当屋も有ったらいいよね」とつぶやいている。
翌日になって、適当な店を選んでくれと、ハリネズミが俺を地上に引っ張り出した。
つい先週は死刑囚予備役だったのが、堂々とお天道様の下を歩いていられるのは世が世だからで有難く思う。
それにしても、コイツはどれだけ金持ってんだ。
此の世の終わりみたいな報道に踊らされたオーナーが、とりあえずの避難資金になればと売りだがっている物件だ。 格安なのは分かるが、商品をテイクアウトする感覚で店を一軒二軒と買いあさっている。
裏の裏まで知っているから、どの地域は被害が少なくて、これから先世の中がどう変わっていくかまで読める強み。
当たりが分かっている馬券を買うのと同じで、思い切った投資ができる。
神様ってのがこの世界に存在するなら、大きな過ちに早く気付くべきだ。
ハリネズミのようなエゴの塊に、金の生る木を持たせたらロクな事にならない。
そのうち、どこかの内戦に乗じた死の商人にだって平気で変身する男だ。
どちらの側にも同じく兵器を売って、戦争を長引かせて絞れるだけ絞ったら、自分に都合の良い奴に加勢して恩を売っておく。
歴史が教科書のハリネズミなら、今まで世界で急成長して来た国家の真似をしない訳がない。
そこまでやったら、世界征服にだって走りかねないのがこの男だ。
買ったばかりのハンバーガー屋で、オーナースペシャルなる新メニューをいきなり勝手に作って俺に出してくれた。
バンズは上下の二枚きりで、ミートを20㎝の厚さになるまで積み重ねてある。
そこへ、ケチャップ・マスタード・タルタル・サウザンド・ウスター・醤油と、店に有るのを全部かけた。
ソース塗れで、見た目が前衛的になっている。
「誰が見ても美味そうじゃねえだろ、これよ」
そんなこんなを聴き付けた赤チンが「クレープ屋がないのはどういった了見」とクレームをつけて、自分が選んでやるから一軒くらい持っとけ、店選びに付き合ってやると、こちらに向かっている。
ただでクレープが食いたいだけの奴に、店舗購入のアドバイザーになってもらっていいものか。
俺達にクレープ屋の良し悪しを見極めろと言われても無理! だが、どうもしっくりこない。
約束の時間に一時間も遅れてやって来て「途中立ち寄ったケーキ屋も良さそうだから、そこから先に回りましょう」と言いだす。
「そりゃいいや、もうすぐ俺の誕生日だ」と付き合ってやった。
どうせ俺の金じゃねえ。
ハリネズミにしたって、濡れ手に粟のあぶく銭だ。
もうどうなったって知ったこっちゃねえ。
結局、ケーキ屋とクレープ屋を買った後、腹が減ったと寄ったラーメン屋の餃子が美味いから、ラーメン屋も買って病院に帰った。
正月に小遣いもらって無駄遣いする子供と同じで、金銭感覚が完全に麻痺してしいる。
「あといくら残ってる?」「ふーん、それだけあったらデパ地下そっくり買い取れるね」の話にまで発展している。
俺は「そんなに持ってるなら半額なんてケチくせえ事言わないで、全部タダで食えるようにしろ」と言って、全店オールフリーのプラチナカードをつくってもらった。
暫く食い物には不自由しねえ。
赤チンが、これからどうするのか聞いて来た。
「容疑も晴れたし自由の身だから、何時だってERに戻って部長の席に座り直せるわよ。病院は政府発表の災害予報の地域に入っていなくて、今は悪い噂に逃げていった医師達も戻って来て、毎日火山を眺めながら仕事に励んでいるの」と言う。
だったら、きっと俺のERでの役目ってのは終わったんだと思って「帰らない」と言った。
数日して、野ざらしから手紙が届いた。
二度と会う事もない奴と思っていたので意外だった。
《伝えたい事だけ書いておく。
あれからある病院へ配属になってね、臓器移植を待っている人達の助けになれる機会があったよ。
例の出資者達から、思いもかけず私の臓器を使ってくださいとの申し出が殺到してね。
災害現場で臓器あさりをしていた時よりも、いい結果になったよ。感謝している。
ではもう会う事はないだろうから、さようならとしておこう》
かってな奴だ。
どんな脅しをかけたかは想像が付く。
えげつなさで言ったら右に出る奴はいない。
てめえなんかに一生会いたくねえよ。
ヤブが俺の部屋にやって来て、山城親父と自分は暫くもう一層下の地下施設に行ったきりになるから後の事を頼むと言って、厳戒態勢の最下層施設に入っていった。
その時は暫くってのがどれくらいか聞き損ねたが、今となってはどれくらいかなんてのは馬鹿な疑問だと思う。
ヤブと山城親父が照れくさそうにしたビデオレターが届いたのは、二人が最下層に入って半年ほどたってからだった。
その頃になると、俺はこの地下施設がどんな施設なのかだいたい分かっていて、何が起こったって不思議にも思わないし驚きもしなくなっていた。
《いい男になったね~、今のおめえは勘吉みてえだよ。だけどな、世の中は何も変わりゃしねえんだよ》
そのとうりだった。
一番いい方法だと思ってやった事だって裏目に出る時もあるから、暴動が起きたり内戦になったり。
自然災害も人災も、何もかもがゴッチャゴチャになって、収拾のつかない日々が何年も続いた。
話したい事が山ほどたまってるてのに、何時になったら帰ってくるのか電話の一本のありゃしねえ。
あれからアンチエイジング製剤や抗がん剤研究のお陰で、随分と元気に長生きさせてもらっている。
暫くって表現が曖昧なのは分かっていたが、二人らしい適当さで拾年以上待っても帰って来ない。
あてにして待っている訳じゃないからいいが、待たせ過ぎだわな。
だから、ヤブと山城親父の墓は未だにない。
(西暦2106年4月)




