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やっちゃん 50

「僕が君にやってもらいたい仕事はね、このリゾートに運ばれた患者の治療なんだよ。臓器移植に反対する者ではないのだがね、できる治療をしないで脳死にしたまま臓器を売ろうって魂胆が許せないんだよ。医師として、患者には最善の治療をしてあげたいのさ。 

 それでだめだったら、その時は遺族に相談するって話なら僕も闇医者にでも鬼にでもなれたんだけどね。儲けようとしたら、患者を生かしたら合わない計画だったのが残念だったね」

 人に物を頼む姿勢じゃねえな。

 こいつには謙虚って気構えがまったく見受けられねえ。 

 気に入らねえ奴の気に入らねえ言い方だが、患者を治療してくれってんなら断る理由がない。

 引き受けるとしても、リゾートに入れない俺達にどうやったら患者の治療ができる。

 理解に苦しむ話と依頼だ。


 動画はここで終っていて、人に頼んでおいて何をどうしたらいいのか無計画のまま連絡がない。

 組織への裏切りがばれて殺されちまったか。

 望遠鏡でリゾートのジャグジーを覗いていると、野ざらしが他の医師と酒飲んでくつろいでいる。

 息抜きをしてもいいが贅沢な事ばかりしやがって、うらやましいから俺も宿にジャグジーを作ると決めた。

 すると赤チンが知り合いだからと言って、街に残っていた土方だの左官を呼び集めて手伝ってくれた。

 どうせ作るなら、あいつらに見せつけてやりたい物だから、リゾートのジャグジーが見える海岸寄りの一角に作った。

 火山灰がちほら降って来るが、それはあっちだって同じだ。

 フラッシュメモリーに入っていた予測を信じれば、二・三日は火山も大人しくしてくれる。

 その間はこっちだって骨休めだ。


 一杯やりながらブクブク楽しんでいると、目にチラチラと眩しい光が入って来る。

 リゾートから、鏡の反射を使ったモールス通信をしている。

 学校で教わった事だが、余計な事は素直に忘れる習性が俺の唯一の取り柄だ。

 全く理解できない。

 赤チンとハリネズミが二人して「噴火X」だと教えてくれた。

 モールスが最近では一般常識になっているとは知らなかった。

 次の噴火があったら実行するくらいは分かっても、詳細を知らされてないのだからこちらは動き様がない。


 翌日から、リゾートの外には警備員しか見当らなくなってしまった。

 連絡の取れない状況が続いたまま、静まっていた火山活動が激しくなって、避難区域が急遽広げられた。

 すでに警戒区域に指定されていたから住民は避難した後で、ERに運ばれてくる患者はなかった。

 一応念のために、他科の手伝いは止めて詰所に待機していたら、不良警官が俺を訪ねて来た。

「もうすぐ怪我人が運ばれてきますから、治療が終わったら、とりあえず裏に停めた護送車にぶち込んでおいてください」

 唐突なものでスタッフが唖然としていると、不良警官が気付いて「あー、知らないですよね。警官狩りですよ。テロリストが警察署襲って、警官を捕まえてるんです。非番の警官なんかも捕まっちゃったりしてますから」

「そういう事じゃなくて、怪我人て?」

「あっ、そっちね。警官です。逃げたりするから、撃たれちゃって」

「何で……お前平気なの?」

「自分ですか、言ってませんでしたか? 自分テロリスト側です。潜入してましたから。知ってるじゃないですか、自分が警官に向いてないって」

 テロリスト側という事は、現役の自衛官だとなる。

 相変わらず無茶な奴だ。

 下手すりゃ頭撃ち抜かれて埋められちまうって任務の最中に、海鮮料理屋で俺達とヘベレケになっていた。

「それから、これを届けるように上官から預かって来ました」

 渡されたのは作戦指示書だが、作戦名も実行部隊名も書かれていない。

 公にできる作戦ではないから当然だが、極めて簡素なもので、指示には警官を捕虜にして護送車に乗せるとしかない。

 護送車も警察のもので、拳銃も含めて使用する武器は総て現地調達。

 テロリストのゲリラ攻撃を模した作戦になっている。

「あっ、あとこれも連絡するように言われてました。古賀医師と遠山記者の救出は成功して、接収した病院に保護されています」

「病院接収って、あそこ乗っ取っちゃったの?」

「はい、いただきました。捕虜にした警官とか怪我しても入院させる病院がなくちゃねえ~」

「そこの医者に治療させればいいじゃねえの」

「あそこにはもう医師がいませんよ。みんな噴火の後逃げちゃって、残っていたのも今追い出してますから。先生方には其方で治療に専念してもらいます」

「俺達も接収されちゃったの?」

「分かりやすく言えばそうなりますかね」

 これなら俺達が何も知らなくてもいい訳だ。

 早い話しが俺達は、野ざらしがどっかの組織とやってる戦争の駒にされただけだ。

 まったくおもしろくねえ野郎だ。  


 接収された病院に移動して、警官達の鉄砲弾をとっていると、リゾートから患者が次々搬送されて来た。

 リゾートの医師・看護師と、テロリストに扮した自衛官の共同作戦で、リゾートにいた出資者の一部逮捕と関係資料の没収が行われた。

 組織が壊滅したのではないから、リゾートから救出したからといって安全が保証されたのではない。

 リゾートにいた医師・看護師と、人質になっていたその家族は全員、作戦が完了するとバスに分乗してどこかに消えてしまった。

 不良警官の話によれば、この救出劇は全国の被災地で多発していて、何年も前から組織と現政府の騙し合いが続いていた。

 その度救出された人達は何処かへ消えるのだが、その行き先までは知らずにいた。


 意識不明の患者が病院に運ばれてくる頃には警官狩りも落ち着いて、治療を終えた悪徳警官共を護送車に乗せて何処ぞの収容所に移送しようとしている。

 この時、俺の担当していた警官がチョッと目を離した隙に逃げ出した。

 足に怪我をしていた奴で、いかに警官と言ってもヨタヨタの怪我人だし、下手に騒いでもう一発くらったのでは手当がめんどうだ。

 シロと俺で病院内を探しにでた。

 一階まで降りて外を見ると、松葉杖をついて逃げ出した奴が道路に向かって出ている。

 走っていってとっ捕まえて、ぶちのめしていたら通りがかった車に見られた。

「見てんじゃねえよ! ボゲー」

 つい、地が出て怒鳴り飛ばしてやったら、車は急発進して走り去って行った。 

 

 警官を全員護送車に乗せ終えると、護送車は消えて接収された極普通でない病院に戻った。 

 それから俺達は、出来る限りの治療で患者の意識回復を試みた。

 半分は意識が戻ったが、重大な後遺障害が残る。

 意識が戻らないまま亡くなった患者が半分。

 被災者の捜索が打ち切られてから随分になるから、連絡がとれたのはそのまた半分だ。

 悍ましい銭儲けに腹をたててはみたが、この患者がリゾートから運び出されずにいたら、今頃臓器移植を待つ人はどうなっていただろうかと考えてしまう。

 何が良いも悪いもなく、俺は患者を治療するだけの医者だとだけで今日まで来たが、それだけでいいんだろうか?

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