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やっちゃん 49

「人質をとられないように、自分の記録は総て末梢したのだがね、組織に君の前任医師だった古賀君を人質にとられてしまってね。他人とはいえ一緒に仕事をしていた仲間だし、ここで断っても、また他の人間をさらわれたらきりがないと思ってね。従う事にしたんだよ。

 周囲の不穏な動きを警戒して、僕は親族の記録を総て末梢し、人質をとられないようにしていたんだよ。僕達を操る為の実行部隊の長として活動しているのが警察署長でね、警察署内の半数は署長の子飼い警官で占められているのさ。実質、警察署を支配している状態だから、これから君達が何をやるにしても警察には頼れないよ。

 古賀君は今、署内の地下牢に監禁されていてね、古賀君の失踪事件を探っていた新聞記者の遠山君が捕まった時は、彼も医師で使い道があるからと、古賀君と同じ地下牢にとじこめてもらったから、とりあえずは生きているよ」


 リゾートの出資者名簿に警察署長の名があって、古賀や遠山が行方不明になった時に捜索が打ち切られた理由が分かった。

 野ざらしと古賀が機転を利かせ、遠山もなんとか生きているとなれば、野ざらしが俺達に頼みたいのは救出だろう。

 続きを見ていると、二人の救出は自衛隊がテロリストに扮装して警察署を襲う計画になっていた。

 情報漏れから始まって、医師の誘拐までして捜査対象にならないのだから、いずれ大物がバックについているに違いない。

 こうなってくると、表向きは平穏に見えるこの国は、ずっと前から無政府状態だったのと同じだ。

 御山の大将に成りたい連中が、何をするにも自分の正体隠して、騙し合いの局地戦が始まるって事になる。


 世界規模の災害を予測したのは別の組織だとしても、この情報を入手できる奴がうごめいているのは確実だ。

 警察署長まで巻き込んで、自由に操れる組織など聞いた事がない。

 どのみち表には出て来ない組織だが、裏社会で長く生きてきた俺もハリネズミも、相手がどんな奴か見当もつかない。

「僕達を欲している組織がどんなものかは分からないけど、出資者名簿を見るかぎり、その人達より力を持った人間とみるべきだろうね。それ以上の事は僕にもわからないので、勘弁してくれたまえ。

 何れ全容が見えたら、世界的機関が何等かの手は打ってくれると思うのだがね。日本の組織は小さなものでね、ここで騒いで全容をつかむ前にトカゲの尻尾切りをやられたんじゃ元も子もないのさ。

 人質はとられているけれども、いわばリゾートにいる医師はみな潜入捜査官みたいな者だと思っていてくれたまえ」

 野ざらしの率いる医師団は、テロリストに扮した自衛隊員が警察署を襲って二人の人質を救い出すのと同時に、リゾートにいる出資者達をシェルターに閉じ込めて、リゾートに保管されている関連資料を総て没収する為に潜入しているまでは納得できるが、医師や看護師の救出を俺達に頼まれても無理ってもんだ。

 ところが、これもすでに救出計画が進んでいて、特殊部隊がリゾートまでの地下道を完成させていた。

 野ざらしは俺達に何をやってくれというのか、分かっている災害を広報しない世界機関の方針は許せないが、その方針の裏をかいてやろうとしている計画がどんなものなのか見えて来ない。

 なかなか本題に入らないから早回しにしようとして止められた。


「僕達を使っている組織の詳細は不明なのだが、やろうとしている事は分かっている。災害が予測されていて避難させないのだから、当然負傷者が出るよね。だから、君が頑張ってやっているERが必要なのだが、それより先に現場で患者の応急処置をする医師も必要になってくるのだよ。

 僕達の通常勤務はリゾート専属医師となっているけど、緊急時には真っ先に災害現場に出向いて応急処置をする医師団になるのさ。救急隊に患者を託すまでの仕事を受け持つ事になっている」

 この前の噴火の時は、野ざらしのチームが先陣切って現場で救助活動に参加していた。

 それの何処が悪い。

 強大な力の後ろ盾があっての計画に協力している事業なら、人質をとって医師を従わせる必要はない。

「誰の目にも勇敢で善良な医師の集団に映る行為なのだがね、救急隊の救助車両に病院ではない所に患者を運ぶ車が一台紛れていてね、僕達にはガレキの下から救った患者を、別の場所に向かって走る車に乗せるか、救急車に乗せるか、現場で見定める役割があるのさ。

 医師でないとその仕分けが困難な人達なのだから、何をしているか大体見当はつくだろう」

 分からねえよ、馬鹿野郎。

 クイズじゃねえんだから、早くしてくれと言っても相手が録画された動画ではどうにもならんわな。


「日本では災害予報は極一部の関係者しか知らないのだが、地域によっては災害予測までもが売買されていてね、密かに避難がすすんでいたりするのさ」

 災害の情報を公開しないって話だけでも腸煮えくり返っているってのに、その情報を売っちまうって奴はどういった了見でそんな真似してる。

 極秘の情報だって、ばら撒かれちまったら救助活動をしない政府に誰も従わなくなる。

 そんな事したら無政府状態になって、終いにゃ予想のとうり内戦が起ったり世界戦争にまで発展してしまう。

 世界軍事力の八割相手に、ヤッパ振り回して喧嘩したって勝てないくらいは俺だって分かる。

 その軍事力敵にまわして金を手に入れたって、自分が消されちまったら何にもならないだろう。

 そんな馬鹿やる奴は、世界広しと言えどもヤブくらいのものだ。


「話がそれてしまったね。そう、そうなんだよ。患者を運ぶ別の場所ってのは、リゾートの中にある病院さ。脳死状態だから機械的に存命は可能だがね、緊急時にこういった患者がどんな運命をたどるか、君だって医者なんだから察しはつくだろ。

 僕もね、この計画を聞いた時は驚いたがね、よく考えると合理的な気がしないでもないのさ、つまり首謀者にも其れなりの理由があってだね。どう頑張っても世界機関の決定事項を覆せないのなら、せめて被災した人達の死を無駄にしない為だとか、もっともらしい理屈をつけていたね」

 何言ってんだよ、野ざらし。

「結局どこまで行っても裏社会のシステムで、一皮剥がせば金・金・金さ。この患者をネットでオークションにかけるのさ、臓器を売る為にね」

 この計画がどんなものか、俺達は頭の中で整理しながら、自分は何を考えているんだろうと、次第に正気が薄れていくのを感じた。

 災害現場に救助活動と称して医師団が乗り込み、脳死かもしくはそれに近い患者を見つけてはリゾートに搬送して、機械に繋いで生かしておく。

 患者は生きたままオークションにかけられる。

 助かる可能性のある患者を早くに切り捨て、親族の承諾も本人の意志も無視した売買契約が成立したら、医師達は臓器を切り取り箱詰めして発送する。

「被災者側から見れば酷い計画だがね。移植臓器が間に合わなくて死んでいく患者の側からしたら、願ってもない有難い計画なのさ。この際、君がこれをどう思うかなんてのはどうでも良い事でね」

 どうでも良い事なら話すんじゃねえよ。

 聞きたくなかったよ。

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