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やっちゃん 43

 もうすぐ着くからと連絡が入ったら、まさしくすぐに到着した。

 観光バスが五台ばかり入るだろうか。

 巨大な反重力航行機能を持った飛行物体が、病院前の広場に着陸して、中から次々患者が運び出されてくる。

「訳は後から説明するから、急いで病室に患者を入れてやってくれるかなー」ヤブが言う。

 患者の搬送方法が常識的でないのもさることながら、手術台に向かうと手が震えるヤブは別として、いつか医学雑誌で見た事のある天才外科医らしき奴やら診療所の女医やら、俺なんか味噌っかすにされる優秀な医者がぞろぞろ出て来た。

 ヘリで来るとばかり思っていたから、50人からの患者を受け入れる準備が出来ていない。

 災害時の緊急対応マニュアルのとうり、一旦総ての患者をロビーに並べた簡易ベットで受け入れる。

 症状に合わせ、集中治療室か臨時の病室かを振り分ける。

「航空機内で救命と応急処置はしてあるから、後は宜しく」

 機から出てきた医師達が、こちらの担当になる医師や看護師に患者の資料を渡しながら引継ぎ説明をしている。


 ヤブがチラッと「自衛隊の最新鋭機でね、垂直離着陸可能の反重力装置付き航空機よ。いいだろ、あれ」

「そんなもん自慢してる場合じゃねえだろ。何だよあれ。どう見たって宇宙船じゃねえかよ」

「やはり……そのように見える? デザインしたの僕なんだよねー」

 自衛隊の最新鋭航空機デザインを、どういった経緯でヤブがする事になった。

 もはや聞く気にもなれない。

 だいぶ昔の話になるが夜空を見上げていた時、空を縦横無尽に飛び回っていた謎の飛行物体があった。 

 きっと自衛隊が新型機の飛行訓練をしているのだろうと思って見ていたが。

「世間の誤解を招くからさ、ああいった飛行物体をデザインする時は、もっと気を使った方がいいんじゃねえの」

「細心の気遣いをしているように見えない? 機体の周りにイルミネーション付けたから夜空でチカチカできるし、レーザーで3D画像も空中に出せるんだよ。それからあいつさ、横にも飛べるんだよ。凄いだろ」

「SFに出て来る宇宙船のまんまじゃねえかよ」

 どう言ったってヤブには冗談と真面目の区別がつかないのだから仕方ない。

 今夜起った事は決して口外しないようにと、ERの職員には口止めした。

 ヤブが宇宙人の着ぐるみを着て、騒ぎに起き出した小児病棟のガキと記念写真を撮っている。

 変な噂が広まるのは時間の問題だ。


 急患の受け入れが一段落した明け方。

 赤チンが野ざらしからの手紙を持って来た。

 辞めて行った医者の使い走りとは、おまけに爺さんだ。 

 見境無しに片っ端も、ここまでくると末期だな。


《リゾートに作ったERの広告は、もう見てくれたかな。 

 我ながら写真映りが良いのに驚いているところだ。

 念のために付け加えておくが、修正はしてないからね。

 君はきっと今頃、庶民のERで四苦八苦。

 忙しい思いをしているのだろうね。

 同情するよ。

 こちらは毎日温泉に浸かって、のんびりリゾート生活を楽しませてもらっているよ。

 一度君も遊びに来るといい。

 きっと気に入るよ。

 君はERの長になって、重責に押し潰されそうになった事はいかい?

 大雑把な性格だから、そんな事はないか。

 それはなによりだ。

 まだ本番が始まる前に潰れてしまったのでは、これからの楽しみがなくなるからね。

 君は転任したばかりの頃、訳も分からずERの部長に押し上げられて、さぞ困惑しただろう。

 今だから白状するが、君を部長に推薦したのは僕だ。

 すまない事をした。

 でも、今はERにいられていいと思っているだろ。

 そう思ってくれる人間だから君を推薦した。

 ERを生甲斐にしていてくれたまえ。

 もっとも、そんな事を言ってられるのもあと半月だろう。

 もうすぐ君も僕も、地獄が遊園地に思える世界に放り出されるのだから。

 その時は逃げ出したりしないで、僕と対決してくれるだろうね。

 馬鹿が上に付く正直者だから、君は逃げ出したりしないだろうが、精々正気を保っていられるようにしていてくれたまえ。

 それから一つ御願いがあるのだが、聞いてはくれまいか。

 と言ったって、君が僕の願いをまともに請け負ってくれるとは思っていないよ。

 すでに君は請け負ってしまっているから教えておくが、これからどんな事があろうとも娘の事を宜しく頼む。

 娘は天然で世間知らずの所があるから、変な男に騙されたりしないだろうかと何時も心配でね。

 頼んだよ。

 間違って生きていられたら、また合おう

※ 追伸 君が今一番欲しがっている物をあげるよ》


 全く理解に苦しむ奴だ。

 手紙に書いてある野ざらしの娘なんて知らないし、会った事もない。

 あいつは歳を取りすぎていかれちまったか、性質の悪い冗談か。

 もうじき此の世の終わりが来るみたいな事書きやがって、そんなんで俺を脅している気になっているなら、とんだ惣領の甚六だ。

 そんなんじゃ俺はびくともしねえ。


「赤チン、野ざらしの娘ってのを知っているか」と聞いたら「あたし」自分を指さしている。

 お前かよ。

 手紙には世間知らずのおぼこみたいに書いてあった。

 世の中には、自分の子供の素顔を知らない親が多過ぎるとは聞いていたが、こんな身近にもいたとは。

 赤チンは俺なんかよりずっと世渡り上手だ。

 騙す事はあっても、変な男に騙されるなんてのは間違ってもない。

 狩りにそんな事件が起きたら、奇跡として分類される筈だ。


 追申に、君が一番欲しがっている物とか書いてあったが何なのか。

 赤チンが一冊のファイルを俺の机の上に置いた。

「無茶するようなら、これは焼却するようにオヤジから言われてたけど、今なら大丈夫みたいだから、こうしてあげるんだからね。時期がくるまで絶対に暴れないでよ」

 こう言って、赤チンは部屋から出て行った。

 ファイルの中身は、何処ぞの組織の構成員名簿のようなものだったが、顔写真に経歴から現在の社会的地位まで書かれてある。

 もっと驚いたのは、その人間の行動パターンから家族親族の居住地、趣味や資産まで調べ尽くされている。

 接近禁止命令を出されるストーカーだって、ここまでは調べられない。

 探偵を雇って調べ上げたなら、その探偵はCIAかモサドで勉強した奴だ。

 見方を変えれば、暗殺名簿にも見えなくない詳細さで【この飲食店では窓際の席に座るから、隣ビルの二階がベストポジション】危なっかしい表記も見られる。

 最後の頁の下端に【リゾート出資者名簿】と書いてある。

 どんな名簿かは分かったが、警察署長が名簿に載っているのはどういった訳だ?


明け番で宿に帰ると、女将が出迎えてくれた。

 宿舎になっている温泉宿は海岸に近いから、震災騒ぎで客足がパタッと止まって、近所の者が風呂に入りに来るだけだ。

 それさえも地震で家の風呂が壊れたとか、ガスを使うのが怖いとかの震災バブルで、宿泊客は毎日俺だけ。

 暫く客を出迎えてないから忘れちゃいけないってんで、俺を使って練習しているのかと思いきや、そんなんではなかった。

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