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やっちゃん 1

 やっちゃん 1


 DNA任せの無分別。

 幼少の頃から悪道にかけては天才だと呼ばれ続けてきた。

 かろうじて中学に登校を許されていた時分、担任を二階から突き落としてもう来るなと言われた。

 別段深い理由などないが、無理矢理頑張って原因を作ればこんなんだ。

 校舎の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に「いくら強がっていても、そこから先公を放り投げる事はできねえだろ。根性なしのヘタレ野郎」となじられ酷く自尊心が傷ついていたからとでもしておこうか。


 突き落としてやった奴は、教頭から小遣いをカツアゲした時に「今度やったら二階からぶん投げてやる」と言ったから「この次は先生から小遣いもらいます」と正直に答えたら、迷わず俺をぶん殴りやがった奴で、教職にあるまじき暴力行為に対して、いつか抗議行動を起こさねばならないと思っていた。


 そんな折り、こいつが何かの用事で授業を抜けて、三十分ばかり自習時間になった。

 周りの奴らはこの時とばかり、ワイワイガヤガヤやりたい放題していた。

 珍しくも驚けることに、この時ばかりは俺に似合わず真面目に教科書を広げて眺めていた。

 騒がしい教室に戻ってきた担任が、教室の状態を見て怒らない訳もなく「この中で真面目に自習していた者がいるか、居たら手を挙げてみろ」と言ったものだから、俺は迷わず挙手したやった。

 すると「嘘をつくなー!」いきなり俺の顔を鉄拳で殴りやがった。

「教室の端に立ってろ」

 俺に恨みでもあるのか、自分が正義と信じて疑わない決めつけ上から目線発言にむかついたが、とりあえず言われるまま立って居た。

 すると、やはり俺の隣で真面目に自習していたのに手を挙げなかった正直君が「あいつ、真面目にやってましたよ」担任にチクってくれた。

 この言葉を聞いた担任が「そうか、悪かったな。座っていい」と、これまた偉そうな態度で、俺の肩をポンポンと二度ばかり軽く叩いてくれた。

 善良なる生徒の言葉を信じない上に、自分勝手な思い込みで人様を殴っておいて、こいつには反省の色がまったく見られない。

 良心の呵責というものが欠如した欠陥教師だ。

 こんな鬼畜を野放しにしたら、後々世の為人の為にならない。

 担任の首根っこをつかんで「潔く地獄に落ちやがれー」と、正直君が開けてくれた窓めがけて担任をほうり投げてやった。



 親類の者から、誰かを刺したヤバイ物だから処分してくれと頼まれたサバイバルナイフを、古いバッテリー液に漬けてから磨き直した。

 猟奇的心理をくすぐる鋭利な刃を陽にかざし、友達に自慢してやったら「光ってはいるが、ステンレス刃では日本刀ほど切れそうもない」と言いやがった。

「切れるよ! タングステン並みに硬くなかったら何でも切ってみせてやる」そいつの皮ベルトを切り刻んでやった。

「ふっざけんなよ、てめえの指つめたろか」と脅してきたから「そこまで見込まれたら仕方ないな~、指なら御前のを代わりにつめてやるよ」と、右手親指の甲をはすに切り込んでやった。

 残念だったのは、ギリゞのところでかわされたのと、骨が堅かったので、今だに奴の指は手に付いている。

 しかし創痕は死ぬまで消えないだろう、一生反省し続ければいい。


 家に帰ったら、マッポが来ていたのにはちと驚けた。

 サバイバルナイフは警察の証拠保管庫に無事処分できたから、もっと凶悪な事件の証拠として使われる事は永久にない。



 校庭を東の端まで行き尽くすと、南向きに園芸部の花壇があって、真ん中に枇杷の樹が一本立っている。

 花にはいい加減邪魔な樹だが、これは当時園芸部の部長だった俺にとって命より大事な枇杷の樹で、実の熟す時分は朝早くから登校して熟れたのを採って食っていた。


 花壇南側の細道を大通りに向かっていくと、山城組という地回りの事務所がある。

 ここには住み込みで、貫太郎という二十四・五の三下がうろちょろしている。

 組員の中で貫太郎は底辺を這いつくばっている格下で、こそこそしている弱虫毛虫だ。

 そのくせ、時期になると学校の塀を乗りこえて枇杷を盗みにくる。

 きっと貧乏が生活習慣になっている組で、三下はろくに飯を食わせてもらってないのだろう。

 気のどくには思うし他でやる泥棒なら関係ないが、俺の枇杷を盗むとなると話は違ってくる。     


 ある日の夕方、物置の蔭に隠れていて、現行犯の貫太郎を捕まえてケジメの半殺しにしてやった。

 半殺しの恨みか、数日して枇杷の樹が枝ごと実を持って行かれ、丸坊主にされていた。

 野郎、殺しておけばよかったと思ってももう遅い。

 しゃくに障ったのでその夜、枇杷泥棒が出たので夜警だと偽り、夜食を持って家を出た。

 弁当を食い終わってから貫太郎が寝た頃を見計らって、事務所の周りにガソリンを撒いて火を点けてやった。

 貫太郎は逃げ道を失って死にそうになっていたが、一生懸命生き延びようとしていたので、追加のガソリンを投げ込まなければならなくなった。

 

 昼間、四本のタイヤを鉈でパンクさせてあった教頭の車から、追加のガソリンを抜いていたら野次馬が集まって来た。

 余計な事に、消火活動まで始めやがった。

 行き場を無くしたガソリンがもったいなくて、教頭の車にかけて火を点けてやった。


 事務所の方は下火になっていて、仕方ないから花壇で使うホースを伸ばして水をかけてやった。

 きっと抗争中の組の奴が火を点けたに違いないと、放火事件の一部始終を善意の第三者として消防と警察に教えてやった。

 この一件があって以来、貫太郎は俺を命の恩人だと崇め奉り【兄貴】と呼ぶようになった。

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