9.飴と鞭
城の宴も、ヴィーゴ村の宴も盛り上がりを見せていた頃、国王カミゼーロと新将軍スカイは薄暗い王の間で静かに高級酒を飲み交わしていた。部屋には二人だけで護衛役のカミゼーロの直属兵は部屋の前で待機を命じられていた。
王の間はカミゼーロの完全なプライベートルームであり、直属兵もゲルニカたち四騎将も滅多に入ることはなく、数えるほどしかなかった。その時も必ず二人以上が同時に入室し、今のように二人だけということはなかった。
カミゼーロは椅子に座り葉巻に火をつけた。
「それで、仕込みは終わったのか?」
部屋にあった鏡を興味深そうに見ていたスカイがカミゼーロに向き直した。
「はい。先ほど退席の挨拶を装って済ませました。あの竜ももう我がしもべです」
カミゼーロは嬉しそうにニヤリと笑う。
「では、もういつでも実行に移せるのだな、アイレス暗殺計画」
「はい」
カミゼーロの向かいの椅子に座りながらスカイは静かに答えた。
カミゼーロは立ち上がり鏡の前に移動するとクックックッと不気味に笑った。
「ようやくだ……ようやく本当の国王になれる時が来るのだ」
そう呟くカミゼーロの目は血走っていた。そんなカミゼーロをスカイは鼻で笑ったが、興奮していたカミゼーロはそのことに気づけなかった。
「それで、いつにしますか?」
「明日だ、明日の夜、確実に殺す。そのための計画も完璧だ」
カミゼーロは椅子に座り直しそう告げた。
「計画ですか? 特にそのようなもの必要ないと思いますが……アイレス姫が寝静まったころに私からあの竜に命令を送るだけなので」
「奴らを侮るな。わずかでも隙を見せれば暗殺は失敗に終わりこちらが破滅するぞ」
「……そうですか。……その侮ってはいけない奴らとは具体的に誰のことを指しているのですか?」
「むっ、そうだな。まずはアイレス。王族だからな、幼いころからあらゆる教育が施されている。今回の計画で気に留めておくべき点は、アイレスは外なる魔法に優れており、中でも防御魔法・回復魔法が得意ということだ。一撃で仕留めなければ竜と言えども時間がかかることになるぞ」
この世界の魔法は大きく二種に分けられる。
魔力を別の物質(炎や水、雷などが代表的)に変換し外へと放たれる魔法、外なる魔法。そして、体内と体表に魔力を張り巡らせ肉体を強化する内なる魔法である。
外なる魔法は女性が内なる魔法は男性の方が得意という傾向がみられるが、熟練者ならばその両者を扱える。
「アイレス姫は魔力が高いですものね」
「気に喰わない話だがその通りだ。そして、万が一時間を稼がれれば異変に気が付いた将軍たちがすぐにアイレスを助けに来るだろう。あいつらは強い。一人でも竜一頭とそこそこ戦える。二人なら互角に、3人なら竜を倒せるほどに」
「へー、そうなんですか」
スカイは興味なさそうにそう言いながら自分の眼鏡を布で拭いていた。
「しかし、今回はその心配はしなくていい」
「……ああ、計画があったんですね。どうするんですか?」
「明日、お前以外の将軍たちには軍事訓練のためそれぞれ兵と竜を率いて南方四国の国境に向かってもらう」
「訓練ですか。急ですね。少し不自然ではありませんか?」
「問題ない。訓練は訓練でも仮想訓練だからな」
「仮想訓練?」
「ああ、想定する事態は突然の南方四国の同時侵攻、そのための防衛に向かうというものだ。お前は残って城の防衛の訓練だ。急なのは訓練にリアルさを求めるからだ。どうだ、不自然ではないだろ?」
「まあ……そうですね」
スカイは同意しながら今度は杖の先端の赤い球を布で磨き始めた。カミゼーロはスカイの態度に少し苛立ちを覚えたが指摘はしなかった。
「あと厄介なのはワタルだが奴は既に城から去っているので何ら問題ない」
スカイは杖の玉を磨く手をピタッと止めた。
「カミゼーロ様もあの少年のことを随分高く評価しているのですね」
いつもと比べ幾分か低く静かなその声に、カミゼーロはスカイからわずかばかりの怒りと憎しみを感じとった。
「別にそんなことはないが……過去2度の暗殺はワタルのせいで失敗に終わったからな」
「ほう、詳しく聞かせてもらえませんか」
スカイはこれまでと違いやけに喰い付いてきた。カミゼーロは少し違和感を覚えた。
「必要か?」
「今回の成功のために聞いておいた方がよいかと……。念のためにですよ」
「ふむ。それもそうだな。1度目は実際は暗殺というほどのものではないが、王になる儀式のことは知っておるか?」
「確か、次期国王はつまり国王の第一子は16歳に竜の谷に向かいなんらかの儀式を受けるというものだったと思いますが」
「16歳ではなく13歳だが、他は正しい。アイレスも13歳になった時にこの儀式を行うため竜の谷に向かった。私はその際、竜の谷に向かうルートを本来の安全なルートではなく危険な偽のルートを教えたのだ」
「なるほど。しかし、それを暗殺とか告白するとは、国王も人が良いですね」
カミゼーロの言葉は褒めているようで馬鹿にしてるよでもあった。
「確かに暗殺と呼ぶほどのものではないかもしれんな。しかし、実際にアイレスは私の目論見通り魔獣に襲われ命を落としかけた。しかし、それを寸でのところで救ったのが……」
「ワタル君ですか」
カミゼーロは気に喰わなさそyな顔をしながらも頷く。
「そういうことだ。まあこの時はアイレスの暗殺が失敗に終わったとしても問題ないくらいの対価を得たからよしと考えていたが……」
「対価? ああ、竜のことですね?」
「うむ。しかし、ワタルという邪魔者までついてきた」
スカイはクスリと笑った。
「面白い言い方しますね。私はワタル君に竜たちがついてきたと聞いていますが」
「そんなことはわかってる!! だから今こうしてお前を迎え入れいるのだろう!」
カミゼーロは強い口調で言う。
「これは失礼。それで2度目の暗殺というのは?」
「……ふむ。二度目は1年半前くらいに計画した。その頃はアイレスたっての希望で各地を訪問していた。王国内だからと油断してか、同行者はあの護衛竜と5の兵、そしてワタル。正直、王族が城外に行くには少なすぎる護衛だ。私は近衛兵を使いトットで政府に反乱活動を行っている組織と接触し、支援を交換条件にアイレスの暗殺を依頼した」
「他国の反乱勢力にですか? 大胆ですね」
「無論依頼主は私ではなく、ありもしないドラゴスールの王政を終わらせようとしている組織ってことになっている。しかし、あれは失敗だった」
カミゼーロはグラスの酒を一気に飲み干した。そして自身の手で空になったグラスにすかさず酒を注いだ。
「失敗とは?」
「あいつらアイレスの暗殺ではなく街ごと襲撃したんだ」
「それは酷い」
酷いと言いながらスカイは鼻で笑っていた。
「その上、奴ら情けないことに暗殺も襲撃も失敗、ひとり残らず捕縛された。その時に大活躍したのがワタルだ」
「彼個人でもそんなに強いんですか?」
「どうだかな、あの無法者たちが弱すぎただけかもしれん」
「そうですか、だったら別に残していても構わなかったのですが。そしたら、己の友だと思っていた竜の手で殺してあげたのに」
そう言う、スカイの目は笑っていなかった。
カミゼーロは確信する、スカイはなぜかワタルを憎んでいる、と。
「それこそ念のためというやつだ。それに同行していた兵が気になることを言っていたからな」
「気になること?」
「ああ、襲撃が合った時、ワタルはアイレスを護衛竜と2人の兵に任せて街を守りに行ったらしいんだが、アイレスの元に既に街の中に潜んでいた暗殺者たちが現れるとほんの十数秒で戻って来たらしい」
「街を守りに、と言いましたがそこまで離れていなかったのでは?」
「いや、そういうわけではないらしい。それにあまりに突然の出来事でワタルたちに報せることもできなかったというのにワタルは駆けつけたらしい。それもこれも恐らくはあの護衛竜の力だろう」
「あの竜の?」
「あの竜は確か銀音竜といった。音というからな遠くにいるワタルにも伝えることができるのだろう。そうだとしてもワタルが来るのが早すぎるというのは気になるが……いずれにしても、その呼べる範囲もこっちには知る術がないからな。それでワタルは竜の谷に追い返しておくのが無難と考えたわけだ」
「なるほど、わかりました。しかし、本当に残念です。できれば彼もアイレス姫と一緒に殺してあげたかった」
そう笑いながらスカイはグラスに口を付けた。
「……スカイ、お前ワタルと知り合いだったとかないよな?」
「何を言ってるのですか? 私は先日この国に初めて来たのですよ。ワタル君はおろかこの国に知り合いなどひとりもおりません」
カミゼーロにはスカイが嘘ついているようには見えなかった。しかし、どこか引っかかった。
「……そうであったな」
「なぜ、そんなことを思ったのですか?」
「いや、その、なんとなくだな……」
カミゼーロはなんとなく真意を隠した。するとスカイはフフッと小さな声で笑った。その笑い方が鼻についた。
「どうした?」
「いえ、すみません、勘が良いんだか悪いんだか、と思いまして」
「……何の話だ?」
「こちらの話なのでお気になさらずに。それで、注意すべき人物は以上ですか?」
「ああ、そうだな。残るは竜たち……というよりはお前の魔法だな」
「私の魔法……ですか?」
「そうだ。今日までお前の魔法の力は見せてもらってきた」
「如何でしたか」
「素晴らしいとしか言いようがないな」
「でしたら何を心配しているのですか?」
カミゼーロは一呼吸置くように酒を一口飲んだ。
「お前は魔法で魔獣と対話することで主従関係を築くと言っていたな」
「……本当はもっと複雑ですが、簡潔に説明するとそうですね」
「実際にそれで竜たちがお前を主人と見ているのはわかる。しかし、それだけで護衛対象であった元主人を殺せという命令をすんなり聞くのかという話だ。結局のところあの竜が命令を聞かず、仕方なく誰か、人の手でアイレスが殺害するしかなくなった場合、城の防衛のため残ったお前は今日手に入れた地位を剥奪されるのは確実、最悪の場合は我々の企みがばれて破滅する……そのことを踏まえ、お前の魔法は問題ないんだな?」
カミゼーロの問いにスカイはとうとう声を殺さずにクックックッと馬鹿にするように笑い出した。ここまでなんとか我慢してきた流石のカミゼーロも切れてグラスを床にたたきつけた。
「お前のその態度はさっきからなんなんだ!! 国王である俺に取る態度か!!」
カミゼーロが激昂してもスカイは声は出してはいないが笑っていた。
「国王……そう国王、あなたが国王だ。……あなたが国王で本当に良かった」
スカイは笑うのをやめ、真剣な表情でぽつりとそう言った。その実の変わりようにカミゼーロは怒りよりも畏怖の念が上回っていた。
「ど、どういう意味だ?」
カミゼーロの顔は引きつっていた。
スカイはいつもの穏やかな表情に戻り、ニコッと笑った。
「その意味を教えるよりも先に国王の質問に答えましょう。私の魔法に問題はないかどうかでしたね? 国王もの疑問も尤もです。よくわからない魔法の効力なんて信用できませんよね。ですので、国王に身をもって魔法の効力を教えてあげますよ」
「な、何を言っているんだ? 貴様」
動揺するカミゼーロの前にスカイは杖をかざした。杖の先端の紅い球がピカッと光った。
(貴様いったい何を!)
カミゼーロはそう口にしようとしたが思考するだけで言葉にできず、代わりと言っていいのか、激しい痛みが頭に走った。
カミゼーロはあまりの痛みに言葉を発することも、動くこともできなかった。
「おっと、もしかして何か言おうとしてましたか。すみませんデフォルトでかかった瞬間から言動の自由はないのですよ。声を出すことを許可します。ただし主人である私にふさわしい言葉遣いをお願いしますよ」
(だから、貴様は何を言っているんだ!!)
そう言おうとしてもカミゼーロの口はパクパク動くだけで喉から音が発せられることはなかった。そして、当然のように猛烈な頭痛がカミゼーロを襲っていた。
「ああ、忠告したのに残念です。ふさわしくない言葉を発しようとしたのですね。仕方ありません、先に私の魔法について教えてあげましょう。私の魔法の本当の名前は『飴と鞭』。勿論、魔獣と対話ができるようになるというチンケな魔法ではありません、本質は調教です。」
スカイは一呼吸置くと、それまで殆ど飲んでいなかった酒を一気に飲み干した。
「国王、酒を注ぎなさい」
スカイの要求を当然カミゼーロは無視した。その瞬間カミゼーロを激痛が襲うカミゼーロはどんなに痛くても声も出せず、のたうち回ることもできず、ただ硬直した。スカイはその様子を見て愉快そうに笑った。
「もうそろそろ私の魔法の効果を理解できましたか? 私の指示に従わない限り激しい頭痛があなたを襲います。また、私にとって不利になるような言動を言おうとしても同様に激痛が走ります。これが鞭です。では、もう一度言います。国王、酒を注ぎなさい」
カミゼーロはスカイが差し出したグラスに酒を注ぐしかなかった。その瞬間、今度は奇妙な高揚感、幸福感がカミゼーロに訪れた。それはなんとも言えない快感であった。
「どうです? 良い気分ではありませんか? その快感はお隣のドラゴノルテでは危険指定されている植物から生み出される快楽物質と同じものらしいですよ。これが飴です。さて、ここまでの話を踏まえ質問はありますか」
カミゼーロは震えながらも言葉を発する。
「お……あなたは……何者……ですか?」
「最初の質問がそれですか。知っての通り魔獣テイマーですよ。ああ、そうじゃなくて素性を知りたいのですか? あなたの直属兵の報告では大陸の最北の国からやってきたということになっていましたっけ。まあ、その辺は追々話しますよ」
スカイは不敵に笑い、酒を口にした。
「……そういうことになっているとは、ど……どういうことですか?」
「国王、まだ理解していないのですか? あなたの直属兵は私と会ったその日に今のあなた同様私の支配下に置かれたのですよ」
「な……」
カミゼーロは魔法の効力とは関係なく言葉を失った。
「私の魔法に関してもう少し説明が必要ですね。この魔法は対魔獣、特に竜に対抗するために生み出された魔法らしいです。そのため本来なら人間相手には効果のない代物なんですが……魔法が強力過ぎるためか魔力の弱い人間には効果があるみたいです。いやー、驚きましたよ、まさかかの大国の王の直属兵があんなに魔力が弱いとは。更に驚いたのがあなたにお会いした時です。こんなに魔力の弱い王族がいるとは思いもしませんでした。先ほど姫は魔力は高いと仰っていましたがそれは間違いです。国王が王族なのに魔力が低すぎるのですよ」
スカイの言う通りどこの国でも王族は魔力が高いことが多い。故にカミゼーロは魔力が低いことがコンプレックスであった。
誑かされ、コンプレックスまでも抉られ、カミゼーロの怒りは頂点に達していた。今にもスカイに殴りかかりたかった。それでも指先ひとつスカイに向けて動かすことはできず、ただ痛みに悶え苦しんだ。
「どうです? 実際に私の魔法を体験して? これでもあの竜が私の魔法の支配から逃れ、我々の暗殺計画が失敗すると思いますか?」
「お……思いません。ですから、こ、この魔法を解いてください」
スカイは心底驚いた顔をした。
「何を言っているんですか? 解くはずないじゃないですか」
当然の答えであった。調教が本質という魔法を国王であるカミゼーロに使用したのだ。反乱の意思は明かであった。それでも、カミゼーロは僅かな望みに賭けて思わず言ってしまった。カミゼーロは己を恥じ、自分自身を殴りたかったがそれすら許されなかった。
国王であるカミゼーロの顔に傷ができれば大事になる。原因を調べればスカイの魔法の本当の力に辿り着く可能性が少しだが出てくる。要するにスカイにとって不利なことになる、それをカミゼーロ自身が理解していたので、カミゼーロは己を殴ることも許可されなかったのだ。
「まあ、安心してください。ちゃんと姫を殺してあなたを本当の王にしてあげますよ。ただし、文字通りの傀儡の王ですが」
スカイはご機嫌そうに笑い酒を煽った。カミゼーロはただその様子を見ることしかできなかった。
「いやー、このお酒、本当に美味しいですね。……こんな美味しいお酒をその豪華な椅子で飲めたらさぞ気分が良いのでしょうね。……王様、その席空けてもらえますか?」
カミゼーロに断る権利などなかった。無言で立ち上がり王の席を明け渡した。空いた席にカミゼーロはドカッと座った。
「立ってるのも辛いでしょう。座っていいですよ、そこに」
スカイが指したそこはスカイが座っていた椅子ではなく、カミゼーロが立つ床であった。カミゼーロは指示されたわけではないのにその場に正座で座った。
その姿を見てスカイは笑った。
「正座ですか。確かにその姿もお似合いですが、これでは私がまるで説教をしているみたいです。私が今望んでいるのはそうじゃない。私とあなたの関係を明確にする姿を望んでいるのですよ……誰が主で誰が犬か。……わかりますね? ……跪きなさい」
カミゼーロは精一杯抵抗したつもりであった。しかし、現実にはその時間は3秒ほどであった。気が付けばカミゼーロはスカイに跪いていた。
スカイは満足そうであった。
「私の魔法の力ご理解していただけましたね? では、姫暗殺計画の話に戻しましょうか。明日、あなたが建てた計画通りに動いてください。他の将軍たちがいなくなった夜、ゆっくり姫を嬲り殺しましょう。いいですね?」
「……はい」
カミゼーロはそう言うしかなかった。
その時、コンコンっと扉をノックする音がした。カミゼーロはその音にわずかな希望を抱いた。誰かが異変に気が付き駆けつけてくれたのではないのかと。しかし、現れたのは真逆の存在であった。
「来ましたか、入りなさい」
入ってきたのはカミゼーロの直属兵の兵長であった。兵長は羊皮紙を一枚持っていた。兵長はその紙をテーブルに置くとすぐに部屋から出ていった。
スカイは紙をカミゼーロの前に投げ捨てた。
「見てください」
カミゼーロは紙に目を通した。そこには王国兵の名前と給仕などの城内で働く者たちの名前が書かれていた。
「そこに書かれている者たちは国王同様、私の犬となった者です」
カミゼーロは絶句した。その数は兵士だけでも200、合計は300を超えていた。それほどの数が既にスカイの支配下に置かれていたのだ。
「そこに書かれている兵たちは私と共に城の防衛に残るようにしてください。言い換えれば、それ以外の兵は全て城外にいるようにしてください。そうすればあなたが建てた計画はより完璧なものになります。よろしいですね」
「……はい」
スカイはニッコリと笑った。
「ご理解いただき幸いです。それではこの話はここまでにしましょう。ここからは私の個人的なお願いなんですが、聞いていただけますか?」
「……な、なんでしょうか?」
「恥ずかしい話なんですが、この国に来てから目立つ行動を避けていたため女日照りが続いているんですよ。この魔法を覚えて以来、女に不自由したことがなかったのでこんなに長いことため込んだのは久しぶりで、正直そろそろ我慢の限界なんですよ。申し訳ありませんが、今から女を紹介していただけませんか? とびっきりの美女を」
「お、女ですか?」
予想外の要求にカミゼーロは戸惑った。
「そうです。国王なら知っているでしょ? 美女を」
「……それでしたら、街のはずれに娼婦街がありますのですぐにそこから最高級の嬢をお呼び致します」
「最高級の嬢……それはそれでいずれお相手願いたいものですが、今日は遠慮します。それよりも、国王はもっと良い、最高の女性を二人も知っているじゃないですか」
スカイが何を言っているのか理解できぬカミゼーロは困惑した。スカイは呆れたように笑う。
「本当に勘がいいのか悪いのかわからない人ですね。いたじゃないですか、とびっきりの美女が二人も。今日、私の将軍就任を祝う場、そう、あなたのすぐ傍に」
カミゼーロはようやくスカイが言う最高の女性が誰かを悟った。カミゼーロのすぐ傍にいた女は3人。姫アイレス、そして妻のフローゼと娘のフランソワである。
「ま、まさか……」
「ようやく理解してくれましたか。そうですよ、国王の奥様か娘、そのどちらかを差し出せと言っているのですよ。」
「き……………!」
貴様と叫び、立ちあがり、殴りかかりたかった。しかし、それも叶わず、言葉は最初の『き』しか発することができず、立ち上がる代わりに少し踵を浮かせただけであった。
「安心してください。私はこう見えても女性の守備範囲は広く上も下も幅広く愛せます。それに私の魔法と性行為は大変相性が良い。経験豊富な淑女でも、何も知らぬいたいけな少女でも最高の快楽を与えることができます。今のあなたならわかりますよね? 私に言わるままの行為を行うだけで訪れる幸福感、その上に純粋な性行為の快感が上乗せされるのです。つまりは私の上で腰を振れ! そう命じるだけで女は人生史上最高の快楽を味わえるのです。どうです? 想像しただけでも最高ではないですか?」
下衆だ、史上最悪の下衆だ。
そう思ってもカミゼーロは跪くことしかできなかった。
「まあ私もそうがっつく気はありません。どちらかひとりで我慢します。……妻と娘、どちらを差し出します?」
スカイは無邪気に問いかけた。
究極の二択、カミゼーロがすぐに答えられるはずがなかった。しかし、黙っていることも許されない。すぐに激しい頭痛がカミゼーロを襲う。
「私は国王の答えが聞きたいのですよ。もう一度聞きます。妻と娘、どちらを私の欲望を満たすための女として差し出しますか」
どちらかを差し出さなければならない。娘のフランソワはまだ12歳である。すぐに答えられずとも最初からカミゼーロの中で答えは決まっていた。
「つ、妻……妻フローゼを……差し出します」
スカイはフハハハッと声に出して笑った。
「そうですか。妻の方を差し出しますか。わかりました、今日のところは妻の方を堪能させていただきます。娘の方は後の楽しみに取っておきましょう。その後は二人同時に楽しんであげますよ。安心してください、国王には特等席で私たちの行いを鑑賞させてあげますよ。勿論、国王には観賞しながら自分自身で楽しむことを許可しますので、国王も最高の快楽を味わってください」
スカイは最早、品もなくゲラゲラと笑った。
(た、助けてくれ! だ、誰か、助けてくれ!! ゲルニカ! フレイド! キョウヤ! ティア! アイレス! …………ワタル!)
そう思考してもカミゼーロのSOSは当然誰にも届くことはなかった。
鏡の中のカミゼーロはニヤリと笑っていた。
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