5.就任式
ワタルが去った翌日からスカイの就任式が開かれるまでの一週間、ドラスール王国場内では3つの話題で持ちきりとなった。
1つ目は特別職竜使いであるワタルが解雇され、城から去ったというもの。
ワタルが国王代理に嫌われ疎ましく思われているということは城内に仕えるほぼ全ての人間が知っていた。それでも、ほとんどの人間がワタルを本当に城から追い出すとは思っていなかった。
その最大の理由はワタルが国の英雄であり、カミゼーロにとっても恩人であるという点にある。
ワタルは前国王をと大将軍、二人の将軍を同時に失い、それを機に攻めてきた南方諸国との戦争の最中、アイレスに連れられドラゴスール王国兵軍に仮加入。竜たちを率いて優勢であった南方諸国の軍を撤退させ、不可侵条約を結ぶまで至らせた。
この時カミゼーロは兄である前国王が急逝したため国のトップに突如就任した。カミゼーロは予想していなかった大役におろおろするだけでなにもできず、ドラゴスール王国の窮地の加速の要因となっていた。後に、ワタルと竜たちが現れなければドラゴスール王国は滅んでいたと評されている。
要するにワタルは国を救った英雄であり、カミゼーロにとっても恩人であった。
そんなワタルをどんなに嫌っていても切ることはないと誰もが思っていたため大きな話題となった。
2つ目は先日宮廷テイマーとして雇われ、ワタルに代わり竜たちの司令官となったスカイが一週間後に将軍の位に就くのが正式に決まったということである。
この決定には兵を中心に不満の声がかなり上がっていた。将軍はドラゴスール王国軍で本来ならば二番目の地位であるが、現在は最高地位である大将軍の地位にカミゼーロの意向というよりは我がままで誰も就いていない。そのため将軍は同じ地位の者がいるものの最高地位となる。
新参者にその地位が与えられるのは幾年国に仕えた兵から不満が出るのは当たり前であった。また、同様の仕事、つまりは竜たちの司令官として3年も務めていていたワタルにはその地位が与えられていなかったことで、より一層不満が増幅していた。
しかし、スカイの人柄なのか、就任式の前日にはその声も半分以下になり、それどころがスカイを支持する兵も増えていた。
3つ目はこのワタルの解雇、新入りスカイの将軍就任にも無関係の話であった。
大陸最大の湖『竜の涙』の北側に位置し、アイレスの父親が亡くなるまでドラゴスール王国の同盟国であった大国ドラゴノルテ王国内部でなんらかの争いが起きたという情報がもたらされた。詳細は不明ではあったがドラゴノルテ王国内に潜り込ませてる複数の内偵からドラゴノルテの軍事力が弱まっているのは確実という情報がもたらされた。
この情報を受け城内では議論が交わされた。そして、二つの派閥に分かれた。
再び同盟を結ぶべき派と、今こそドラゴノルテに攻め込む派のふたつの派閥に。
この議論は軍事議会(国王カミゼーロ、姫アイレス、十老会、四騎将による会議)でも行われたが詳細は不明なため保留とされた。それでも兵たちの間ではどうすべきか盛んに議論された。そんな兵たちの声に上層部は沈黙を貫いた。
沈黙を貫いたのはドラゴノルテへの対応だけではない。ワタルの解雇、スカイのスピード出世、そのどちらに関しても兵たちの意見が聞き入られることはなかった。
そして、ワタルが城から去り一週間後、スカイの将軍就任式が開かれた。
式典の場は城下町にある国内最大の広場。広場には実にドラゴスール王国兵の6割の兵と城下町の民の半分以上が集った。
広場の壇上には国王カミゼーロ、その妻フローゼ、二人の娘フランソワ、姫アイレス、姫の護衛竜であるソニン、四騎将のゲルニカ、フレイド、ティア、キョウヤ、十老長のうち城下町近辺の6の老長が座していた。しかし、肝心のスカイの姿はなかった。
「御来場の皆様、長らくお待たせいたしました。これよりスカイ・ハイヤー氏の将軍就任式を執り行います」
進行役の式の司会者であるカミゼーロの直属兵の女の声が響き渡ると集められた兵たちと民衆は拍手で応えた。拍手が止むのを待って進行役は口を開く。
「では始めに国王カミゼーロ様から挨拶を頂戴いたします」
司会者が一歩下がり深々とお辞儀すると同時にカミゼーロは立ち上がる。その瞬間、先ほどよりも大きな拍手が沸き起こった。
カミゼーロは少し誇らしげに笑ってから観衆の拍手を手で制止した。
「皆の衆、本日は新たな将軍の誕生の場によくぞ集まった。今日新たに将軍となる男の名はスカイ・ハイヤー。我が国に仕えたのはつい最近のことではあるが、竜を始めとした魔獣たちを操れる能力は勿論、優れた人格も含めて我は奴を将軍とすることに決めた。どうか、お前らも奴を温かい拍手で迎えてやってくれ」
演説を終えるとカミゼーロは遥か上空を指差した。その先には赤い竜、ヴォルカオがいた。その姿を視認できた観衆から歓声が沸き上がる。
ヴォルカオは急降下し壇上へと降り立った。その背中には本日の主役スカイが立っていた。
壇上に着地したヴォルカオの背中から頭上へと移動し、スカイはゆっくりと壇上へと降り立った。その瞬間拍手は起きたが喝采と呼ぶにはやや物足りなかった。スカイの将軍就任に対して不満のある兵たちが拍手を拒否したのだ。
それでもスカイは顔色を変えず、それどころが不敵な笑みを浮かべてから就任挨拶を始めた。
「この度将軍に任命されましたスカイ・ハイヤーです。このような名誉ある役職に就くことができ光栄です。また、入隊どころが、この国に入国した真もない私を信頼し将軍に任命してくれたカミゼーロ国王に深く感謝いたします。これからは将軍の名に恥じない働きをすると共に、この身尽き果てるまでこの国のために尽力することを誓います」
拍手が沸き起こった。先ほどの拍手よりも熱を帯びていたのはスカイの演説を認めた者がいるという証でもあった。
スカイは一礼すると壇上に用意されていた自分の席に座った。
「続きまして、スカイ様の将軍就任の儀を執り行います」
女性兵が台車を押して壇上に上がると、壇上中央に台車だけを残し下がっていった。
台車の上には金色の腕輪が乗せられていた。
将軍は代々国王から将軍の証としてドラゴスール王国の国章が刻まれた装飾品が手渡される。この行為がすなわち将軍就任の儀である。
殆どの場合は男性には腕輪、女性にはネックレスが授けられる。他にピアスを授ける場合もあるがこれまでピアスを授かった将軍の伝記から、問題児に授けられるものと噂されているが真偽ははっきりしていない。
因みにではあるがゲルニカとフレイドは腕輪、ティアはネックレス、キョウヤはピアスが授けられている。
授けられる装飾品にはもうひとつ指輪がある。指輪にもピアス同様にとある噂がある。それは指輪を授けられる将軍は国王から最上の信頼を受けた者だけというものである。指輪を授かった将軍は歴史上3人だけであり、うち二人は将軍就任後、途中でわざわざ改めて指輪を授かったためこの説は真実であるというのが一般認識である。
先にカミゼーロが立ち上がり壇上ほぼ中央に直立した。そして今度はスカイが立ち上がり、カミゼーロの前に行き膝間づいた。
カミゼーロが台車上の腕輪を手に取るとスカイは左腕を差し出した。カミゼーロはスカイの腕に腕輪をはめた。
その瞬間、観衆たちは立ち上がり盛大な拍手を送った。壇上の四騎将改め五騎将となったゲルニカたちも立ち上がり拍手を送った。
こうしてスカイの将軍就任式は閉会した。
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