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3.遊泳飛行

 姫アイレスの部屋はドラゴスール城西塔の最上階にある。

 侍女に案内されワタルはアイレスの部屋の前まで来ていた。部屋の中まで案内してくれることを期待していたが、侍女はそこまでで一礼して階段の方へと戻っていった。


 仕方なく、ワタルは意を決し部屋の扉をノックした。部屋の中から返事はなく代わりに廊下の奥にあるバルコニーから「キュルル」と返事があった。


「そっちか」

 呼び出しておいてなぜ部屋で待っていないのであろうか、という疑問は置いておきワタルはバルコニーへ向かった。


 バルコニーの扉を開けると、傾き始めた太陽を背に姫アイレスと姫の護衛竜である銀音竜ソニンが立っていた。


 アイレスはいるも纏っているような姫らしい高貴なドレスではなく、ピチピチの黒いパンツにライダースーツを着ていた。そして神は一つにまとめゴーグルを首にかけていた。


「ワタル……ごめんね」

 アイレスは全てをすっ飛ばして謝った。ワタルは困ったように頭を掻いた。


「急に謝られても困る。話があるんだろ? 聞くよ。ソニンの上で。そのためにここで待ってたんだろ?」

 アイレスはコクリと頷いた。


 ワタルとアイレスは何か大事な話をする時は竜に乗り、空を飛び、誰にも邪魔されないなか話すのが常になっていた。


「ソニン、頼む」

 ワタルの掛け声でソニンは「キュルル」と鳴きながら二人が背中に乗りやすいようにかがんだ。


 ソニンは小型竜に分類される。小型竜には人間が背中に乗りやすくなるように、馬と同様に鞍と鐙、手綱が取り付けられている。だが、竜にはそれだけでは乗れない。正確には乗れても飛ぶ竜の上に乗り続けることは不可能だ。


 竜に乗るために乗り手は風魔法に属する空気を操り固める魔法を覚える必要がある。空気魔法を覚えることで竜から振り落とされにくくなり、風の抵抗も受けない。そして、最も大事なのは万が一竜から落ちても、落下途中に空気の足場を造ることで、地面に叩きつけられ命を落とすという事故を防ぐことができる。


 ドラゴスール王国の兵士は全員空気魔法の習得するように指導されているが、残念なことに習得できているのは3割に満たない。


 上級者になれば空気の足場を造り続けることで空中を闊歩でき、そのまま竜の背中に戻ることも可能だ。因みに、ドラゴスール王国で空中闊歩をできるのはワタルと四騎将の5人だけであるが、飛んでいる竜の背中に再び跳び乗ることができるのはワタルだけである。


「よっと」

 ワタルはせっかくかがんでくれたソニンを無視して高々とジャンプしてソニンに飛び乗った。


「ほら、アイレス」

 ワタルはアイレスに手を差し伸べた。アイレスはその手をしっかりと握りソニンの背中に乗り移った。

 ワタルはアイレスがしっかりと自分の腰に手を回したのを確認すると、


「行くぞ、ソニン」

 と合図を出す。ソニンは翼を広げ一気に飛び立った。


 僅か数秒で雲が手に届きそうなところまで飛び上がった。その高度を保ったままワタルたちは空中遊泳を開始した。


 飛び始めて数分、なかなか話を切り出さないアイレスに痺れを切らしたワタルの方から切り出した。

「それで何がどうなってんだよ? 事情は何となく分かったけど、正直あまりに急すぎてついていけねえよ。とりあえず……俺、本当にクビなの?」


「……うん。そもそもね、おじ様はワタルを追い出すためにスカイさんを連れてきた、ううん、探してきたみたいなの」

「は? どういうこと?」


「あのね、おじ様は1年以上前からワタルの代わりに竜たちを扱える人を探してたみたいなの」

「はあ? そんな前から? 国王代理そんなに俺のこと嫌いだったのかよ?」


「嫌いとかじゃなくて……いや、嫌いなのも事実だと思うけど、そうじゃなくてワタルが城勤めになるとき取り決めたでしょ? ワタルと竜たちは防衛戦には協力するが侵攻戦には決して参加しないって」

 ワタルは言われて思い出す。それには理由がある。ワタルがドラゴスール王国に来てから一度も戦争が起きていないからだ。


 それまでは南方諸国が絶えず戦争を仕掛けてきていた。しかし、竜たちがドラゴスール王国に仕えているという話が広まるとすぐに攻撃は止み、次々と停戦が申し込まれた。当時、国王代理に就任したばかりのカミゼーロは厄介ごとは少しでも避けたいと全て快諾した。そして現在に至るまで停戦は続いているのだ。


「あったな、そんな約束。そのことが関係するってことは……」

「そう、おじ様は他国に攻撃を仕掛けたがってるのよ。きっと、去年から兵の数も増やしてたのもそのせい」


「ふーん、それでその戦争に竜たちを使いたい。それに反対するであろう俺は邪魔だけど、俺がいなかったら竜たちは動かない。それで俺の代わりを探してたってことか」

「そういうことよ」


「しかし、せっかく停戦状態で平和なのになんでわざわざ戦争なんか起こそうとしてるんだよ国王代理は」

 アイレスのワタルを掴む腕にぎゅっとより一層力が入った。


「……おじ様は大陸全土をドラゴスール王国の支配下に置きたいって考えてるのよ」

「は? 大陸全土を? 無理だろそんな」

 ノルーテ大陸は現存する資料で300年の歴史が確認されている。その間、多くの国が興り、大陸制覇を目指し戦争を繰り広げたがどの国もその夢を叶えることはなかった。


「私も最初は冗談かとも思った。でも、おじ様は本気だった」

「ふーん、でも意外だな。あの国王代理にそんな野心があるとは」


「うん、私もそう思う。昔はそんな人じゃなかったのに。お父様と同じで全ての国と平和条約を結びたいという考えだったのに……」

 ワタルからはアイレスの顔は見えないが、今アイレスは悲痛に満ちた顔をしているのだろうというのが手に取るように分かった。


「国王っていう地位が考えを変えたのかもな。経緯はわかったよ。それで、あのスカイっていうのは何者なんだ?」

「スカイさんはおじ様の近衛兵が見つけてきた魔獣テイマーよ」


 近衛兵とは国王代理直属の兵である。他の兵とは異なり総隊長であるゲルニカや他の将軍を介さず国王代理だけの指示で動く特別な兵である。そのため、誰にも知られずワタルの代わりを探すという任務を秘密裏にこなすことができたのである。


 因みにアイレスには近衛兵はいない。最も似た存在は姫専属侍女と護衛竜のソニン、そしてワタルである。


 尤もワタルは他の任務が多く姫の近くに常にいるというわけではない。しかし、姫からの指示……というよりは頼みを直接受け勝手に動くという意味で似た存在ということである。


「そうじゃなくて、もっと素性を知りたいんだよ。特にどうやって竜たちに認められたかが気になるんだよ」

「順を追って話すね。スカイさんを見つけたのは北東のドラゴノルテ国境付近の村。近衛兵独自の情報網で村に大型魔獣を従えるテイマーが滞在中という情報を聞いて向かったみたい」


「大型魔獣って、あの鳥とか猫か?」

「鳥と猫って……正式名は『メラコンドル』と『スノーホワイトタイガー』、それに『オオバサミガニ』ね。どれも魔獣危険度2級に指定されてる魔獣よ」

 魔獣の危険度は1から7の数字で示され数字が低いほど危険度が高い。この危険度は示し合わしたわけではないが大陸内の国でほぼ共通である。


「そうそう蟹ね、俺は見てないけど」

 魔獣の種類もいまだに碌に覚えていないワタルに呆れアイレスは思わずため息を吐いた。


「それでスカイさんと接触できた近衛兵がスカイさんのテイマーとしての能力、身辺を調査。先に身辺について話すね。フルネームはスカイ・ハイヤー、26歳独身。出身は大陸最北の国『エドラ』」

「エドラ? 名前は聞いたことあるけど詳細は知らないな」


「常に雪が降り注ぐ山脈で閉ざされた陸の孤島みたいな国だからね。私たちもよくわかってないの」

「そんなところの出身なのに入城を許可したのかよ?」


「おじ様の独断よ、何も問題ないって。それで元々テイマーの家計だったみたいでスカイさんもテイマーの道に」


「ストップ!」

 ワタルがアイレスの話に待ったをかけたが、ソニンが勘違いしたらしく、空中で急停止した。竜の飛行は一見翼を使って飛んでいるように見えるが、翼は加速や急な進路変更の補助であり、メインは魔法の力である。そのため。空中で停止することも可能なのだ。


「悪いソニン。ソニンに言ったわけじゃないんだ、そのまま飛んでくれ」

 ソニンは「キュルル」と鳴いて再び飛び始める。


「それでアイレス、そのテイマーってなんなの? ゲルニカのおっちゃんにも聞いたけどピンとこないんだよ」

「そうね、テイマーっていうのは……特定の生き物を飼いならして、その生き物を使って仕事する人のことよ。スカイさんは魔獣全てを飼いならせるから魔獣テイマー」


「ふーん……じゃあなんで俺はドラゴンテイマーじゃなくてドラゴンマスターなんだ?」

 ワタル自身は知らなかったがワタルの役職名はドラゴンマスターでありドラゴンテイマーではなかった。そしてその役職名を決めたのはアイレスであった。


「うーん、個人的にテイマーって好きじゃないのよ」

「なんで?」


「ワタルのことだからテイムっていう魔法も知らないんでしょ?」

「テイム? 知らんなー、どういう魔法なの?」


「テイムっていうのは魔力の低い下級の魔獣にだけ通用する魔法で、魔獣に使用者を主人と思い込ませる魔法……あまりはっきり言う人は言わないけど、洗脳魔法よ」

「洗脳魔法……ちょっと待て、スカイの奴その魔法を竜たちにも!?」


「ううん、それはないはず。今言った通りテイムは魔力の弱い魔獣にしか効かないの。最上級である竜には効かないわ」

 ワタルはホッと胸を撫で下ろす。


「良かった、良かったけど、じゃあどうやってスカイは竜たちに認められたんだ? というか本当に認められてるのか?」

「……認めてるかどうかはわからないけど、彼の言うことを確かに聞いてるのを実際に見たわ」

「ふーん、嘘じゃなかったのか。俺は国王代理が騙されてるのかと思ったけど。それで、結局どうやって竜たちに認められたんだ?」


「魔法よ」

「結局魔法かよ」


「あっ、そうだ気になってたこと思い出した。ワタル、スカイさんの杖見た?」

「杖?」

 ワタルは謁見の間で見たスカイの姿かたちを思い返す。杖は持っていなかった。


「見てない……あっ、だからあいつあの時あんな不満そうだったのか」

「なんの話?」


「いや、あいつ帰り際に俺を呼び止めてまで、俺が剣を持ったまま国王代理に会えるのはおかしいって言い始めてさ。もう話が終りって時にわざわざ言うことかと思ったけど……そうか、あいつも武器の帯同許可されてなかったからあんなこと言いだしたのか」

「『も』っことはやっぱワタルも?」


「普通の剣の方は入る直前に没収されたよ。それで、その杖がどうしたんだ?」

 アイレスはワタルの背中の大剣の持ち手部分を指でトントンと叩いた。そこには、簡素化された火を吐く竜の絵。竜の上には人と思われる絵も描かれていた。


「チラッとしか見えなかったんだけど、この模様と似た模様がスカイさんの杖にもあったの。竜の模様だし、竜の谷で造られた武器の証とかなのかなと思ってたけど……なんなのこれ?」

 ワタルは神妙な顔をして暫し黙った後、ゆっくりと口を開いた。


「……し、知らん」

 アイレスは思わず真顔になった。


「知らないならそんな顔して引っぱらないでよ!」

「べ、別に引っぱったわけじゃねえよ。ただ、サウ爺が何か言ってたような気もしたからちょっと思い出そうとしていただけだよ」


 サウ爺とは竜の谷に住む長老的存在である千年竜のことでありワタルの育ての親とも呼べる存在である。他の竜と違い名前はない。そのためワタルは勝手にサウ爺と呼んでいる。


「それで特に何も思い出せなかったの?」

「うーん、小っちゃい頃に聞いたような気もするんだけど……うん、思い出せない」


「そっか……似たような模様のある杖持ってるし、凄い魔法を使えるし、もしかしたらスカイさんも竜の谷、あるいは竜と何か関係のある人かと思ったんだけど……まあ思い出せないなら仕方ないわね、帰ったらお爺様に確認してみて」

 アイレスはサウ爺のことをお爺様と呼ぶ。それはちょっと変じゃないかと内心思うワタルであったが、結局言い出せぬままである。


「わかった、帰ったら聞いとくよ。それでその凄い魔法とやらはいったいどんな魔法なんだ? テイムみたいな洗脳魔法ってわけではないんだろ?」

「うん、そういう類の魔法ではないってスカイさんは言ってた。魔法はスカイさんが開発したオリジナル魔法みたいで名前は『対話』」


「『対話』? 『対話』ってそのまま魔獣たちと話せる魔法ってことか?」

「そういうことみたい」


「その魔法を使ったらどうなるんだ? 互いの言葉を理解できるってこと? それともどっちかが急に人の言葉を喋るか、魔獣の言葉を喋るってこと?」

「ううん、そういうのじゃなくて心と心で会話してるって言ってた」


「心と心? なんだそりゃ? ……待てよ、こういうことか? おい、ソニン」

 ワタルがソニンの名を呼び頭をポンと叩くと、ソニンは嬉しそうに鳴いてから急加速し一気に上昇した。


「ひゃっほー」「きゃー」

 3人は雲へと突っ込みそのまま一気に雲の上まで飛び上がった。


「ぶはっ! ちょっと急に何するの!?」

 雲の中では思わず息を止めていたようで、アイレスは大きく息を吐きだして叫ぶ。


「ふふふ、見たかアイレス? 俺とソニンも心と心で会話ができたぜ! なあソニン」

「キューキュー」

 ワタルとソニンは得意げに笑う。


「ふたりの息がぴったりなのはわかったけど、事前に私にも言ってよ」

「声に出したら心と心の会話が証明できないじゃん。どうだ俺にもできただろ?」

 アイレスは呆れたようにため息を吐く。


「ワタルとソニンのは単なる阿吽の呼吸。スカイさんのは魔法なんだから全然違うじゃない」

「そうか? そうなのか? どうなんだ、ソニン?」

「キュ?」

 ソニンは曖昧に鳴いた。


「ソニンに聞いてもわからないわよ。ソニンはスカイさんの魔法を受けていないの」

「あー、なんかそんな感じの事言ってたな? なんで?」


「スカイさん曰くなんだけど、魔獣は必ず……従うべき主人に序列をつけてしまうらしいの。そして、スカイさんの魔法を使えば必ずスカイさんがその序列の一位になってしまうみたい」

「序列? 従うべき主人? なんだそれ?」


「……昔から犬や猫は飼い主たちに序列を付けるっていうじゃない? 魔獣も同じで序列をどうしても付けてしまうってスカイさんは言ってたわ。だから、私の護衛を最優先としているソニンには魔法を使わないことにしたの」

「……そういえば、そんな感じのことも確かに言ってたな。スカイを主人と認識したら俺のことはもうどうでもいい的なことを」


「そういうことよ。ソニンに魔法を使ったらソニンは私よりもスカイさんを優先する、そうなったら護衛竜の仕事に支障を来たすだろうからって、ソニンには魔法を使わないことになったの」

「ふーん……序列ねー。本当にそんなのあるのかね? それじゃあ、ソニン。俺とアイレス、どっちの方が序列上なんだ?」

 ワタルの問いにソニンは「キュルルー?」と困ったように鳴いた。


「……だ、そうだ」

 ワタルはただそれだけ言った。それだけでアイレスも静かに頷いた。


「そうよね」

 この時、二人には魔法などなかったが確かにソニンの思いが聞こえた。序列なんて付けられない、と。


「だいたいよ、会話ができるくらいでそんなあっさり仲良くできるか? 現にお喋りできてるティアとキョウヤはあいつのこと相当嫌ってたぞ」

 その瞬間、アイレスは声を出して笑った。


「あの二人そんなこと言ってたの?」

「ティアとキョウヤだけじゃねえよ。ゲルニカのおっちゃんもフレイドも口には出さないだけで明らかに嫌ってたぜ。アイレスはどうなんだよ?」

 暫しの沈黙の後、アイレスはボソッと


「ノーコメント」

 と、だけ呟いた。


 2秒後、2人は合わせたように「ハハハッ」と笑い出した。


「こんな俺たち以外誰もいない自由な空でノーコメントにする意味は?」

「こんな広い空の上でも私は一国の姫、次期国王なのよ。隠したいこともあるでしょ?」


「はいはい、そうですか、全く隠せてませんけどね……それで、次期国王様は俺にこれからどう動いてほしいんだ?」

 アイレスの顔は真剣なものに戻る。


「……うん、色々考えたんだけどね……どうしよう?」

 まさかの答えにワタルはガクッと項垂れ、ソニンの首にヘッドバットをかました。ソニンは「ギュェェ」っと呻き声を上げて一瞬急降下するも、すぐに立て直した。


「いや、どうしようって、言われても……とりあえずその色々とやら教えてくれよ」

「うん、ちょっと待ってね整理するから…………最初はね、ワタルが竜の谷に帰るなら竜たちも一緒に帰っていいと思ってたの」


「……最初はってことは今は違うってことだな?」

「……うん。最初はそれでいいと思った。でもおじ様の考えに気づいた時、それじゃダメだとわかったの」

 アイレスの言葉の意味をワタルも暫し考えた。


「南の敵国が竜たちがいなくなったチャンスを逃さないってことか」

「そう。南方諸国との戦争が停戦した要因は全て竜の出現。その竜がいなくなれば南方諸国は必ず再び戦争を仕掛けてくるわ」


「つまり、竜たちを連れて帰っても、ここに残しても戦争が起きるってことか……」

 いつの間にかワタルを抱きしめるアイレスの腕は震えていた。


「そう。きっとそうなったら今まで我慢していた分、それだけ大きな……取り返しのつかない……戦争になる」

「…………勝敗に関係なく……か」

 アイレスはコクリと頷いた。


 アイレスの願いは大陸全土の国との平和条約である。しかし、その願いは死者を多数出すような戦争が起きれば、少なくてもアイレスが王の座についてる間に叶えることは不可能であるということは容易く想像できる。


「それじゃあゲルニカのおっちゃんたちの頼み通り竜たちは残して俺だけ谷へ帰ればいいんだな? その上で、竜たちに侵略には絶対に加担するなって言って」

 アイレスは首を縦にも横にも降らず、コツンとワタルの背中に額を当てた。


「……私もそれでいいと思った。でも……」

 アイレスがなぜ言葉を濁すのか、ワタルも測りかねていた。だからアイレスの続く言葉を待った。だが

アイレスは一向に口を開かなかった。ワタルはだから察した。


「でも、俺の言うことを無視して、スカイの指示に従って攻撃を開始するかもってことか?」

 アイレスは空の彼方に置いて行かれそうな微かな声で「うん」と言った。その声は音を司る竜のソニンとその竜に乗ったワタルに絶対に聞こえていることはアイレスも承知していた。それでもアイレスは消え入るような声で零した。


「……それで、どうしよう? なのか。俺の言うことを聞かないかもしれない……アイレスから見ても竜たちの様子はそんなに変なのか?」

「も、ってことはやっぱりゲルニカたちも?」

 竜たちの様子がおかしいことは四騎将から確かに聞いていた。しかし、ゲルニカだけはあまり変化について変化について言及していなかった。そのため、ワタルは何とも言えない顔をした。


「いや、おっちゃんん以外の3人がそんな感じのことを言ってた」

 これまた、アイレスもなんとも言えない顔をした。


「じゃ、じゃあ、ゲルニカは置いといて、ティアさんたち3人はやっぱ違和感を?」

「ああ、やたらとぼーっとしているだの、話を聞いているのかよくわからないだの言ってたぜ」


「ぼーっとか……私にはそうじゃなくて、極力動かないようにして見えたわ。でもスカイさんが話しかけると逆にきびきびと動くの。そう、あの感じはまるで初めてお父様やおじ様の視界に入る任務をこなす新兵、そんな感じよ」

 アイレスの例えはワタルには全くピンと来ていなかった。


「スカイが王ってことか?」

「そうじゃなくて……まあ、いいや。会ってみればわかるわよ」


「まあそういうことだな。国王代理には今日中に出て行け言われてるし、そろそろあいつらの話を聞きに行くか」

「今日中? 私はてっきり明日までかと……」


「明日なら楽なんだけどな。ソニン、竜の庭まで」

 ソニンはワタルの声に呼応するように大きく旋回すると、ワタルと竜たちの寝床である竜の庭へと一直線に向かった。


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