22.就任式
事件から二日後、兵や侍女たちの負傷者は多数いたが、致命的なダメージを負ったものは誰一人いないことがわかった。
竜たちもすぐに全員回復した。特に心配されていたソニンも元気に飛び回り、何度もアイレスにすり寄っていた。ゴーロたちもゲルニカたちに何度も頭ををこすりつけた。ワタルに関しては、死ぬのでは? と思うほどもみくちゃにされた。
そして、カミゼーロとフローゼの葬儀が行われた。葬儀は一国の王と王妃が死んだものとは思えないくらい質素に行われた。全てはアイレスの判断である。
葬儀の場に参列を許されたのはアイレスと四騎将、ワタル、カミゼーロの近衛兵、フローゼの直近侍女、ドラゴノルテ王国からフブキ姫と3人の賢者そして……カミゼーロとフローゼの娘フランソワだけであった。
フランソワはずっと泣いていた。アイレスはその隣でフランソワの手をずっと握っていた。
フブキはフランソワに聞こえないよう精一杯の小声で言う。
「アイレス、カミゼーロ様は騙されてただけ、ここまでする必要はないんじゃないの?」
フブキの言ううここまでとはこんなに規模を小さくしなくても、という意味だ。アイレスは泣きながら首を横に振った。
「いえ、今回の事件の原因はおじ様にあります。おじ様は国王でありながら明確に国を窮地にさらしました。それも、己の私情で。そのような国王を大々的に見送ることは許されません」
「……そうね」
フブキは思う、自分の父はどうであったか、と。
火葬が始まるとフランソワとアイレスだけでなくゲルニカとティアも涙を流した。カミゼーロの近衛兵とフローゼの直近の侍女たちも声を出し泣いた。キョウヤとフレイドも涙を流すことはなかったが悲しそうであった。
ワタルは少しも悲しくなかった。
「なあ、フレイド」
「なんだ?」
「国王代理と王妃ってそんなにいい奴だったか?」
無神経な発言であった。しかし、フレイドはワタルを咎めなかった。
「ワタル、お主は国王になってからのカミゼーロ殿しか知らない……だからそう感じるのも仕方ない、特にお前には当りがきつかったしな」
「……俺が会う前のカミゼーロってどんなんだったんだ?」
「……前国王クローセ殿を慕う、優しい御方であった。クローセ殿と共にどうすれば大陸全土から戦争がなくなり平和が訪れるか、そればかり考えていた」
「ふーん……」
ワタルの脳内にスカイの杖に描かれていた自身の持つ大剣と似てはいるが、はっきりとことなる中の絵が頭によぎった。
「フレイド、カミゼーロの遺品を調べたいんだけど、いいか?」
「……必要なことか?」
「多分」
「……わかった。姫に打診しておこう」
それっきり、ワタルは黙って揺らめく火を眺めていた。
火葬が終るとフブキたちドラゴノルテ王国の4人が帰国することを告げた。スカイの遺体はバザンの村に届けたいからとフブキたちが預かっていた。
フブキたちと共にドラゴスールに来た竜たちは、サウンはフブキから離れる気がないようで共にドラゴノルテに行くこととなった。3賢者を運んだ竜たちは少し迷っていたが両親であるミラとヒドゥンと共に竜の谷へと帰っていった。
フブキは去り際にワタルに言う。
「約束……忘れても大丈夫だからね」
約束とは、フブキの侍女であるアメリアの体が良くなる方法を探し出すというものだ。
「何言ってんだ? 約束は守る。大丈夫、俺たちには知識豊富なサウ爺がいるからなんとかなる」
フブキは笑った。
「また、竜任せ。……3人で遊覧飛行絶対にしようね」
フブキが拳を突き出す。
「ああ」
ワタルも拳を突き出した。そこにもうひとつ拳が加わる。それはアイレスのものであった。
「3人って私じゃないの?」
ワタルとフブキはくすっと笑い、もう一度3人で拳を合わせた。
この葬儀の場で口頭ではあるが、共にまだ正式ではなかったがドラゴスールの王アイレスとドラゴンノルテの王フブキが両国の同盟関係を再締結した。
葬儀から三日後、ワタルはアイレスとフレイド監視のもと前国王カミゼーロの部屋に入った。
「ワタル、なぜカミゼーロ殿の遺品が気になる?」
「まあ、ちょっとな……」
ワタルはそう言いながら部屋の物を物色し始めた。
「ワタル、おじ様の遺品に何があるというの?」
「俺が知る国王代理と、アイレスたちが知る国王代理が違いすぎる……フブキからスカイの話を聞いた時も同じことを感じた、だから……」
ワタルは鏡の前で立ち止まった。そして、自身と睨めっこでも始めるかのようにまじまじと見た。
「ワタル……?」
次の瞬間、ワタルは鏡をたたき割った。
「ワタル、何してるの?」
「ワタル、カミゼーロ殿の遺品は傷つけるな、ここにある物は全てアイレス殿とフランソワ殿の物だ」
ワタルは何も言わず、割れた鏡の中を見回した。
「聞いているのか? ワタル!!」
ワタルは割れた鏡の中の右上を指さしながら、アイレスとフレイドに見せた。
「やっぱあった」
ワタルが指さす先に火を吐く竜の絵。そしてその下には首と胴体が離れた人間……。
「これって……」
「スカイの杖にあったものと同じものか」
スカイの杖に描かれている紋章の話は四騎将はもちろん、フブキたちにも話していた。
「ああ、俺はいま確信した、今この国はこいつらに攻撃されている」
アイレスとフレイドは息を呑み、竜が人間を殺しているその紋章を睨みつけた。
事件から10日後、国民に城内で何が起きていたかが説明された。今回の事件は飴と鞭事件として広まった。
飴と鞭事件はドラゴスールの反逆事件だけではなく、ドラゴノルテの反逆事件も含めた呼称である。
ドラゴスールの王とドラゴノルテ王の両方が殺された最悪の事件として広まったが、首謀者であるスカイの名は広まることはなかった。スカイの杖と同様の紋章がカミゼーロの部屋から出てきたことにより、他の何かがスカイを利用し攻撃を仕掛けて来た可能性があるという、アイレスとフブキの判断であった。
飴と鞭事件終結から一か月後、アイレスの国王就任式が執り行われていた。
式典の場には城下町以外の人間も押し寄せたため、スカイの就任式の時の約3倍の人間が集まっていた。その数はアイレスが地道に王国全土を回った成果と言ってよかった。
壇上にはアイレスと四騎将、十老会、そしてワタル。そして、同盟関係を回復したドラゴノルテからフブキ、マンダム、サーザ、チュズスが来席していた。
「それでは、まず新国王アイレス様の戴冠式を執り行います。アイレス様お願いいたします」
戴冠式。新国王が王の証である冠を被る儀式だ。
他国の戴冠式は不明ではあるがドラゴスールの戴冠式は他の誰かが新王に冠をかぶせると言いうものではなく、壇上に置かれた冠を新王自らが手に取り被るというものである。その姿は少々滑稽であった。
アイレスは顔を赤くしながら冠を被った。
その瞬間、盛大な拍手と大歓声が起こった。その拍手が更にアイレスの顔を赤くさせた。
拍手が静まったころ司会が言う。
「それでは、新国王アイレス様の挨拶です」
アイレスはソニンと共にゆっくりと歩き、壇上の前方に進む。
「み、皆様、聞こえますでしょうか?」
ソニンに触れることでアイレスの声は広場の最後尾まで響き渡っていた。それだけで拍手が起きた。
「この度、ドラゴスール王国、国王に就任いたしましたドラゴ・アイレスです。若輩物ではありますがドラゴスール王国をより良いものにしたいと思っています。どうか皆さま、よろしくお願いいたします」
国王としてはつたないが、15歳の少女としては十分な挨拶に温かい拍手が送られた。
挨拶を終えるとアイレスは壇上中央に用意された王の椅子に照れ臭そうに座った。
「続きまして、アイレス王による将軍の任命式を行います」
王が代われば将軍が代わっても代わらなくても任命式が行われる。そして、将軍の証として新国王から新たな装飾品が授与される。国民から見たら意味のない作業だが、竜の谷の儀式の意味を知っているアイレスたちにとっては違う。己が授かった竜の魔力を込めた装飾品を信頼する将軍に渡す。ドラゴの王として必須の式であった。
「ではまず、将軍から大将軍に新たに任命されました、大将軍ゲルニカ様」
大将軍、それはドラゴスール王国軍トップに与えられる称号である。かつての大将軍がアイレスの父と共に命を落として以来、空白の地位となっていた。前王カミゼーロはふさわしい人間がいないと考えていたからである。
しかし、アイレスは国王就任後、迷いもなくゲルニカを大将軍にすることを公言した。
ゲルニカはアイレスの前に行き跪くと右腕を差し出した。その腕にアイレスは腕輪をはめた。
「ゲルニカ、大将軍としてこれからもよろしくお願いします」
「必ずやアイレス様のご期待に応えます」
ゲルニカが席に下がる。
「続きまして智将フレイド様」
フレイドがアイレスの前に行くと跪き、左腕を差し出す。アイレスはフレイドの左腕に腕輪をはめた。
「フレイドさん、祝福の場ですよ。もっと笑ってください」
「アイレス殿、クローセ様にも言ったことありますがこれが私の精一杯の笑顔です」
アイレスがおかしそうに笑った。それでもフレイドの顔は変わらない。
フレイドが席に下がる。
「続きまして、大魔導士ティア様」
ティアがアイレスの前に行き跪く。アイレスはティアの左耳にピアスをつけた。
「姫、ずっとずーーーーっと大事にします。あっ、もう女王か」
そう言うティアの首にはカミゼーロから授かったネックレスが掛けられていた。
「ティアさん、姫でいいですよ。女王とと呼ばれるにはわたしはまだ未熟すぎます」
ティアが席に下がる。
「続きまして、山賊キョウヤ様」
キョウヤがアイレスの前に行き跪く。アイレスはキョウヤの右耳にピアスをつけた。
「姫様、俺はいつまで山賊なんですか? これでも将軍なんですよ」
「そうですね……ずっとです」
キョウヤは鼻で笑う。
キョウヤは席に下がっていく。
司会はこれまでと違い観衆が完全に静まるのを待った。
「最後に新たに将軍に任命されました、竜騎士ワタル様」
その瞬間わっと歓声が上がった。
この式典でほとんどの民衆が見たかったのは2つ。アイレスの戴冠の瞬間とわたるの将軍就任の瞬間であった。
「盛り上がりすぎだろ」
ワタルはそう零しながら、壇上に上がりアイレスの前に跪いた。そしてワタルとアイレスは数秒硬直した。
「ワ、ワタル、手を出してよ?」
アイレスが小声で言う。
「手? 俺、ピアスじゃないの?」
「ワタル、耳に穴空いてないじゃない」
「穴? そんなのなくてもいけるんじゃないの?」
「それはイヤリングよ」
「ふーん」
「ふーん、じゃなくて、ワタルに渡すのは指輪なのよ。右手を出して」
「指輪? うーんあれなんか邪魔そうだよな。左手でもいいか?」
「いいから、早く出して」
ワタルは左手を差し出した。その瞬間観衆が更に湧いた。
国民の多くは知っていた。将軍に指輪を渡す、それは国王が最も信頼している将軍に渡すものであることを。そして、異性が異性に指輪を渡す際、渡す側が受けとる方のの手を取り、直接指輪を左手の指にはめるその意味を。
「えっ? えっ? ふたりともまだ16歳と15歳でしょ? 早すぎるよ」
ティアが顔を真っ赤にして喚く。
「いや、あれは二人とも意味を知らないだけだろ」
「国の王と将軍が国の文化を知らないとなると大問題です。ゲルニカ殿教えた方がよいのでは?」
「うーん。まあ、いいか」
ドラゴスールにおいて、ついでにドラゴノースでも相手の手を取り直接左手に指輪をはめる。その行為は求婚、そしてその承諾を意味する。
アイレスとワタルはそんなことも露知らずアイレスはワタルの左手人差し指に指輪をはめた。その瞬間、今日一の歓声が沸き上がった。あちこちから「おめでとー」という声も飛び交った。
「……なんか盛り上がりすぎじゃね?」
「確かにちょっと変ね。とりあえず応えときましょう」
アイレスとワタルは手を振って観衆に応えた。自分たちの結婚が祝福されていることも知らずに。
こうして竜騎士ワタルが誕生した。
この作品はどこかの新人賞に応募しようと考えながら書き始めた作品です。そのため完結しつつ、続きが書ける構成になっています。
第二章の構成はぼんやりとはありますが現状全く書いていません。続きが書けた場合はシリーズとして投稿します。
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