17.四騎将
時は戻り午前0時過ぎ。
竜の庭でひとりの少女が泣き叫んでいた。
「ソニン、ソニン」
アイレスは自分を窮地から脱出させてくれた竜の名を叫びながら意味がないと言われた回復魔法をかけ続けた。
「なぜ動けた? あの竜……」
アイレスの部屋に取り残され、窓からその光景を見ていたスカイはそう呟いた。隣にいたカミゼーロも信じられなとい言った表情で、しかしどこか嬉しそうな表情で眺めていた。
スカイは舌打ちすると
「追え、お前ら、アイレスのとどめはカミゼーロ、貴様が刺すのだ」
スカイの決して逆らえない指示を、カミゼーロとアイレスを殺すため念のために連れてきた兵二人に送った。
3人は躊躇なく、竜の庭へと向かった。
それからスカイは『飴と鞭』の力で手下にしたホワイトタイガーに魔法の効果で指示を送った。
ソニンが目を開けた。
「ソニン大丈夫?」
ソニンはかすれる声で「キュアー」と鳴いて、じっとアイレスを見た。
アイレスはその鳴き声の意味を理解していた。アイレスに危機が訪れた時に遠くの誰かに報せるために鳴く声だと。
そして、ソニンの目が逃げろと訴えていると。
「ごめんね、ソニン……置いていけないよ」
その間にも、四方から迫りくるなにかの気配を感じていた。それでもアイレスは覚悟を決めソニンを抱きしめた。
直後竜の庭に、4匹のホワイトタイガーが登ってきた。4匹はアイレスとソニンを見つけると一斉に飛び掛かった。
「聖なる壁!!」
どこからか響く女の声と同時に、アイレスとソニンが光の壁に包まれた。
そして一匹のホワイトタイガーがその壁にぶつかる前に、髭もじゃの男が大剣で薙ぎ払われた。残りの3匹は光の壁にぶつかった直後に、二人の男と一人の女にそれぞれ吹き飛ばされた。
「よくやったソニン、ここからは我々に任せろ」
四騎将のひとり大戦士ゲルニカ。
「そういうことだソニン、安心して寝てな」
四騎将のひとり山賊キョウヤ。
「何よ、偉そうに。私のバリアがなければあんた間に合ってないじゃない」
四騎将のひとり大魔導士ティア。
「そういう意味では全員遅刻だろ、姫をこのような窮地に立たせてしまったのだから」
四騎将のひとりフレイド。
「ゲルニカ、キョウヤ、ティア、フレイド……来てくれたのですね」
アイレスは涙ながらに言った。
「当たり前じゃないですかアイレス姫、それが我々の仕事です」
「ソニンの鳴き声が聞こえた時はさすがに焦ったけどな」
「ありがとうね、ソニン」
「お陰でこうして間に合った」
四騎将の言葉に返事するようにソニンは「キュル」と鳴いた。
「なぜ奴らがここにいる……」
スカイは呟いた。
それから一度深呼吸をして歩き出す。そして城内にいる『飴と鞭』の力で手に入れた、全てのしもべに命令を下す。
(竜の庭に向かい四騎将を殺せ)
と。
「それでアイレス様、今の状況を説明願えますか?」
アイレスが答えようとした瞬間4羽のメラコンドルが突っ込んできた。四騎将はそれらを一撃で吹っ飛ばした次いで現れた4匹のオオバサミガニも同様、一撃で沈めてしまった。
アイレスは改めて自分を守ってくれ者の強さを実感した。
「それで姫様、この状況はなんなんだ? 大方、察しはつくが」
「は、はい。新将軍スカイによる反逆です、城内に残った兵、スカイが連れてきた魔獣、竜たち、それから……おじ様、国王カミゼーロ、全てがスカイの命令に逆らえない状態にあります」
アイレスの言葉に4人は少なからず驚いた。
「姫、それはどういう魔法なの? そんな魔法聞いたことない」
「スカイが言ってました。魔法の名は『飴と鞭』。スカイの指示に従わなければ痛みを、従えば褒美として快楽を、それを繰り返しスカイに従順にさせる魔法のようです。本来は竜を含めた魔獣に対抗するための魔法みたいですが、魔力が弱い人にも有効みたいです」
「痛みだ? じゃあこいつらはその痛みに屈した奴らってことか?」
「残念ではあるが、そういうことになるな」
キョウヤは日本の円月刀を抜き、フレイドは長い槍を構えた。直後、竜の庭の外周階段、別名太腿殺しの階段を駆け上がってきスカイの魔法に掛かった兵たちが駆け上ってきた。
4人は臨戦態勢を取りながらも決して動かず、全ての兵が来るのを黙って待った。
こうして竜の庭に総勢およそ200の兵、各将軍の50ほどの部下が集結した。
「ぶはははは」とキョウヤが声に出して笑った。
「そうかそうか、その痛みとやらと戦うよりも俺と戦う方を望むってことか? そういうことだよな? カズナ、ショウガ」
先頭に立っていた二人の男がビクッと震えた。
アイレスは覚えている、城に残る部下の名簿を見て知らない奴ばかりだ、と言い放ったことを。しかし、それは嘘であった、キョウヤは弱かろうがしっかりと全ての部下の名前を覚えていた。
「そう怒らないでよ小悪党、これは私たちの責任でもあるのよ。そんなチンケな魔法に掛かる程度にしか鍛えなかった私たちの。いいわ今から鍛え直してあげる」
「ティア殿の言う通りだな。これは我々の責任だ。手ぬるい訓練をした我々の。お主ら、全力でかかってこい、いかに己らが未熟か教え直してやる」
「まあ、なんだ、こいつらの言い方は悪いが、とりあえず安心して掛かってこい。今その痛みとやらから解放する。そして、また国のために働いてくれ」
四騎将の言葉に兵たちの大半が泣いていた。四騎将の器の大きさに、そして己の情けなさ、ふがいなさに。
「泣いてないでさっさと掛かってこいや!!!!!」
キョウヤの怒号と同時に4VS200の戦いが始まった。しかし、その力の差は歴然であった。
ゲルニカは大剣を振るい、ティアは杖から魔法を放ち、キョウヤは二本の円月刀を躍らせ、フレイドは槍で突き、己の部下たちを殺さないように優しく薙ぎ払っていった。
その光景をアイレスはただ茫然と眺めていた。
およそ10分後決着は着いた。たった4人の将軍が200人の兵をのしてしまった。
そこに拍手をしながらひとりの男が現れた。
「正直見くびっていましたよ、四騎将」
スカイだ。
「ようやく黒幕のおでましか」
「今すぐみんなに掛けたその糞みたいな魔法を解きなさい。そうすれば命だけは助けてあげるわ」
「素直に従えスカイ」
絶体絶命のように見えたスカイは笑っていた。
「国王感謝しますよ」
スカイの後ろからカミゼーロが姿を見せた。
「あなたの忠告のお陰です」
次の瞬間、竜の庭上空に4頭の竜が現れた。
「うむ、やはり来ていたか、ゴーロ」
「なんとなくわかっていたよ、マール」
「いいね、そうこなくっちゃ、ヴォルカオ」
「盤上外での戦いは久しぶりになるな、ヴィーネ」
現れたのはゲルニカの愛竜、灰岩竜のゴーロ。ティアの愛竜、青水竜のマール、キョウヤの愛竜、赤炎のヴォルカオ、フレイドの愛竜、白雪竜ヴィーネであった。
4人はそれぞれあの愛竜の前に立ちはだかると告げる。
「ゴーロ、今目を覚まさせてやる」
「マール、解放してあげるわ」
「ヴォルカオ、今日こそお前をぶちのめす」
「ヴィーネ、勝ちを譲ってもらうぞ」
死闘が始まる。そう感じたアイレスはゴクリと唾を飲みこんだ。
しかし、勝負は一瞬であった。直後、四騎将は竜たちの爪、あるいは尻尾で吹っ飛ばされ、竜の庭中央の大木にめり込んだ。
「ゲルニカ! ティアさん! キョウヤさん! フレイドさん!」
アイレスは叫んだ。
スカイは大声で笑った。
「馬鹿な奴らめ! 人間が竜に敵うはずなどないだろ」
スカイの隣でカミゼーロは怒りか、悔しさか、震えていた。
スカイの笑い声に重なるように大木から「ハハハハハッ」と笑い声が響いた。その瞬間スカイは笑うのをやめた。
笑い声の主はキョウヤであった。
笑う意味が理解できないスカイの顔は強張った。
直後ゲルニカ、ティア、フレイドも笑い始めた。
「そりゃそうだよな、ヴォルカオ、俺はお前に一度もガチ喧嘩で勝てたことがない」
「そうよね、そんな都合よく勝てるわけないわよね、マール」
「しかし、今日ばかりは負けるわけにはいかないのだよ、ヴィーネ」
「せめて、なんとか引き分けにはさせてもらうぞ、ゴーロ……そうすれば」
4人は立ち上がり、言う。
「「「「ワタルが来る!」」」」
ボロボロであるはずの4人の気迫にスカイは気圧された。
「なんなんだあいつらは?」
その横でカミゼーロが震える声で呟く。
「そ、そうだ。もうじきワタルが来る、来てくれる、そ、そうなれば貴様もおしまいだ」
カミゼーロが痛みに耐え、そう呟いた。
スカイはカミゼーロを殴り飛ばした。
「何がワタルだ! ふざけやがって! いいか、お前らあの小僧は絶対にここに来れない! 絶対にだ!! やってしまえ竜ども!!」
スカイの命を受け竜たちがゆっくりと動き出す。
「む? なんだその動き?」
「さてはワタル君にビビってるわね?」
「やれやれ、あんな少年ひとりにビビるとは情けない」
「仕方ねえな、あのアホが来るまで俺たちが遊んでやるよ」
四騎将Vs愛竜、その第二戦が始まった。
「ワタル、ワタル……」
アイレスが涙ながらにそう呟いた。
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