16.ドラゴノルテ王国の事件
ワタルたちが飛び立ってからというのも、フブキの部下の3人は各々好き勝手に竜に話しかけていた。
「凄いな、あいつら。四騎将もアイレスも竜たちに好き勝手話しかける方だと思うけど、初対面でこれならあいつらはその上をいくかも」
「土地柄かもね。ドラゴノルテというよりは、大陸の北側って特定の魔獣と共生って地域が多いのよ。だからか会話が成立とか関係なく話しかけまくる人が多いのよね」
「へー、いいね、そういうの」
「そういえば紹介がまだだったわね。改めて紹介するわ。金髪の軽薄そうな男がマンダム。赤髪の悪そうなのがサーザ、全身真っ黒の女性がチュズス、皆一応賢者よ」
「いやー、やっぱ賢者って言われてもピンと来ないわ」
「まあそうよね、気持ちはわかるわ。とりあえず、ドラゴノルテにおける最高戦力のひとりって理解してくれればいいわ」
「最高戦力か」
フブキはワタルの3人を見る目が鋭くなるのを感じ取った。
「今、ドラゴノルテには賢者が7人いるわ」
「こっちの将軍格が7人? じゃあドラゴノルテの方がドラゴスールより強いんだな」
ワタルの言葉にフブキは心底呆れた。
「そんなわけないでしょ。そっちには竜がいるのよ。それも11頭も」
「ああ、そうかあいつらも戦力に数えるのか。じゃあ、ドラゴスールの方が上か」
フブキは呑気にそう言うワタルに少しイラっとした。
「ワタル、はっきり言うわ。あなたの登場がこの大陸における力関係に大きな影響を及ぼしたということ自覚して」
「俺の登場が?」
ワタルは戸惑っていた。
「そうよ。正確にはあなたじゃなくて11頭の竜の方だけど。わかるでしょ? 11頭の竜がどれだけの戦力か」
ワタルは少し考えた。
「まあ、そうだな……さすがに11頭同時と考えたら強いよな」
ワタルの顔は至って本気であった。
「あんた、どういう感覚してるのよ。11頭の竜と戦える国なんてどこにもないわよ」
「……そ、そうなのか」
「そうよ!!」
フブキは自分を落ち着かせようと大きく深呼吸をした。
「11頭の竜を従えるドラゴスール王国、他国にとってそれは脅威でしかなかったわ。それはうちも……私のお父様も同じだった。それでお父様は8人目の賢者を育てようと、そして竜にも対抗できる部隊を育てようとしたわ。そうしてうちの軍に来たのがスカイだったのよ」
「スカイ……なあ、そっちのスカイとこっちのスカイは本当に同一人物なのか?」
「マンダム、ワタルに写真を見せてあげて」
フブキの命でマンダムはワタルに近づき懐から取り出した白黒の写真を手渡した。ワタルは初めてなのにうまいこと竜に乗れているなと感心した。
ワタルは写真に目を落とし、少し驚いた。
「こいつで間違いないよ……でも印象が全然違う。まるで別人だ」
写真のスカイは笑っていた。張り付いた儀礼的な笑顔でも、人を小馬鹿にした笑顔でもなく、純粋に楽しそうに笑っていた。
「それは2年前の写真だからね」
寂しそうに笑った。
「……スカイに、ドラゴノルテに何があったんだ? 教えてくれ」
フブキは一度コクリと頷くと、ゆっくりと語り始めた。
スカイはドラゴノルテ王国東にある高山バルベルデにある小さな村で生まれた。その村は一族だけで構成される村で、言うならば村人全員が家族だった。
その一族は代々バザンという魔獣危険度1級に指定されている鳥型の魔獣を使い魔とする一族であった。バザンは天空の支配者とも呼ばれ、空中戦では竜にも劣らないと称されるほどの強大な魔獣である。
それ故に、村はバザンの村と人々は呼んでいた。
一族はバザンを使い魔にするのに魔法などは使用せず一族独自の方法で使い魔にすることに成功していた。その方法というのが次の通りである。
村の子供が6歳の誕生日を迎えると、一族総出で掠め取ってきたバザンの卵が与えられる。子供は自力で卵を孵し、生まれてきた雛を生涯育てる。生まれた時から信頼関係を築くことでバザンを使い魔に育て上げるのであった。
バザンの村で生まれた者の多くが生涯バルベルデ山から出ることなく終える。スカイもそのひとりになると思われていた。
そんなスカイに転機が訪れたのは2年半前。バザンの村にドラゴノルテ王国から使者が参った。内容はドラゴノルテ王国軍にバザンの部隊を創設したいので協力、具体的には5羽のバザンと共にその主である5人の若者に軍に入隊してほしいという旨のものであった。
バザンの村は外界との交流がほぼ遮断された特殊な村ではあったが、ドラゴノルテ王国との関係は決して悪いものではなかった。むしろ良好だったとも言える。バザンの村はこの要望を快諾したかったが、若者が一度に5人も村を離れるというのは小さな村にとって死活問題であった。
そこで互いに議論し、出た折衷案というのが、村からバザン使いひとりと、バザン5羽を派遣。軍内部から4人を選出し、バザン使いに育てげるというものであった。
この案にドラゴノルテ王国軍、バザンの村は互いに了承。こうしてドラゴノルテ王国バザン部隊創設計画が始動した。
この時バザンの村から軍に派遣されたのがスカイである。スカイと共に派遣されたバザンは、スカイの使い魔とその子供4羽であった。
子供バザンたちは村の誰の使い魔でもなかった。バザンは使い魔になっても人がいるところで卵を決して産まない。その卵が人に見つかることなく孵れば、親は使い魔、子は野良のバザン親子が誕生する。子供バザンは誰の使い魔ではないが、親にくっついて村を行き来するため自然と人間に懐くようになる。以前から、このような子供バザンも使い魔にできるのではという考えはあったが、村人が全て、既に特定のバザン使いであったため実行に移せなかった。
そういった意味でもこの計画はバザンの村にとっても喜ばしいものであった。
軍からは希望者だけで行った試験を突破した4人が選ばれ、間もなくスカイ指導の下、訓練が開始された。
最初はバザンにビビっていた4人であったが月日と共にバザンとの信頼関係が生まれ始め、半年後に各自の使い魔となるバザンが決まった。その一月後には、バザンの背中に乗り空を飛ぶ者も現れた。
全てが順調に見えた。スカイもそう思ってたはずだ。
しかし、悲劇が訪れる。創設から約1年、本格的な運用の話が出始めていた時にそれは起きた。
バザンを用いた防衛訓練の最中、1羽のバザンが突然、主の兵を蹄で切り裂き深手を負わせた。すぐにスカイの使い魔である親バザンが止めに入ったため、一命は取りとめたもののその兵は目が傷つけられ視力を失った。
この事件に恐怖を覚えた残りの3人も計画を辞退。さらにこの事故を知った民衆からバザン部隊そしてその上官であるスカイにも批判が集まり、バザン部隊の創設計画は白紙となった。
スカイには計画は中止なったがバザンを使役する魔獣テイマーとして王国軍に残ってくれないかと頼んだが、スカイはこれを拒否、村に帰ることを希望した。王国軍はスカイを説得することはできず、スカイの辞職を承認。こうして失意の中、スカイは村へと帰っていた。
去り際にスカイが
「こんな計画最初から無理だったんだ」
と零していたのを複数の兵が聞いていた。
王国軍上層部は批判が落ち着いたころ再度バザン部隊の創設をと考えていたが、スカイが城を出た後、間もなく実家で養生していたはずの、バザンの攻撃で失明した兵が失踪、行方不明となった。これを受けバザン部隊創設計画への批判が更に強まり、バザンだけではなくあらゆる魔獣を用いた部隊の編成に反対する団体が結成された。その結果、王国軍はバザン部隊創設計画を完全に中止するしかなくなった。
それからすぐにバザンの村へバザン部隊創設の失敗と廃止のお詫びに使者が向かってわかったことであったが、スカイは村に帰っていなかった。スカイも失踪していたのだ。
それから月日が流れ、2か月前のことである。
スカイが突然ドラゴノルテ城に現れ入隊を希望した。しかも、バザンを4羽を含めた16体の魔獣を引き連れて。
国内ではまだ王国軍が魔獣を使役することに反対が多かったため王国軍は当初迷ったが、魔獣たちのスカイに対する従順ぶりに感心し入隊を歓迎した。王国軍が魔獣たちを含めた新たな編成を考え始め3週間後、事件は起きた……。
「その事件っていうのが国王様が殺された反乱になるのか?」
「そうよ。事件が起きた、いえ、正しくは事件発覚のきっかけは私の直近の侍女の告発文よ。彼女の告発文を受け私たちはスカイを捕まえようとした。でもそのことに気が付いた、スカイの命で反乱を起こしたへ者たちによって城内は混乱、そのどさくさで父は殺され、スカイは逃亡。最悪の結末よ」
「スカイの命で反乱ってどういうことだ? それに侍女がわざわざ告発文っていうのもよくわからない、普通に口頭でフブキに教えればよかったんじゃないのか?」
フブキの手が震えていた。
「それはどっちもあいつの魔法のせいよ。あいつの魔法はテイムなんかじゃない、『飴と鞭』とかいう糞みたいな魔法よ」
「飴と鞭?」
ワタルは聞いたこともない魔法に首を傾げた。
「なるほどそういうことであったか」
サウ爺の声が脳内で響いた。
「サウ爺、聞いてたのかよ」
「当たり前じゃろ、なんのために交信の魔法をかけたと思ってるんじゃ」
フブキもすっかり忘れていたという表情をしていた。
「竜神様はご存じなのですね?」
「ああ、よく知っている」
「なあ、その前にその竜神様ってやめろよなんかきいてるこっちがむずかゆくなるんだよ」
「なっ、竜神様に失礼よ」
「……わしも正直ちょっとやめてほしい」
「なっ……」
フブキは言葉を失った。
「気軽にサウ爺でいいんだよ」
「そんなわけにはいかないでしょ」
「わしはそれで構わん」
フブキは戸惑っていたが腹を決めたように言う。
「で、ではサウ爺様と呼ばせてもらいます」
ワタルはそれもどうかなと思ったが、サウ爺が「うむ」とか言うのでそれが通ってしまった。
「サウ爺、それで、その飴と鞭ってどういう魔法なんだ?」
「……かつての魔法と現代では異なるかもしれない。フブキ姫から説明を願おう」
「は、はい、わかりました。私が知っているのは、その侍女が書いてくれた告発文の内容だけだからもしかしたら間違いや足りない点があるかもしれないってことは留意しておいてね。わかりやすい無知の方から説明するわよ。術に掛けられたものはスカイに対してあらゆる攻撃をしようとしたら頭に激痛が襲い動けなくなる。また、スカイになにか指示された場合それを拒否しようとしても同様に激痛が襲う、指示は遠くからでも、そうね今のこのサウ爺様みたいに脳内に直接することができるみたい」
「ちょっと待って、言い方的にその侍女が魔法に掛かってたってことだよな? その魔法は魔獣限定じゃないのか?」
「違うわ。恐らく魔獣にはほぼ無条件で書けることができる。そして人間には魔力が弱い人間限定でかけることができる」
「魔力が弱い……そうかだからあの時……」
ワタルはミラの能力について話した時、フブキが神妙な顔をしていたこと思い出す。
フブキも察したようであった。
「そうよ。だからミラの話を聞いた時嫌な気持ちになったわ。でも、ミラの能力は自分の意思じゃないものね。ごめんなさい、ミラ」
「……ミラは気にしてないよ」
ワタルはミラの代わりに答えた。
「本当?」
「ああ」
「良かった」
フブキは微かに笑い、なんとなく今自分が乗っているサウンの頭を撫でた。
「スカイはそうやって魔獣たちはおろか人間も従わせてたってことか」
「そうよ、でも痛みを与え従わせる、それはこの魔法の本質の半分よ」
「半分……残る半分が飴か」
「そう、個人的に恐ろしいと思ったのはここから。スカイの指示に逆らえば激痛が、逆に素直に従えば幸福感が得られるの」
「幸福感? 幸福感ってどんなだ?」
「それは……」
フブキは口ごもった。
「フブキ姫、大事な話なのでわかりにくい表現は避けるべきだと思いますよ」
マンダムがフブキとワタルの間に割り込んできた。
「なっ、そんなことないわよ」
「では、フブキ姫に代わりこの僕が説明してあげよう、竜使いの少年」
「……ああ、ありがとう」
マンダムはサラサラの髪をかき上げた。ワタルは今までに出会ったことのないタイプに戸惑った。
「まず初めに言っておくと実際に今言ったフブキ姫が仰った幸福感というものがどういうものだったか、我々は事件のあと300名を超える被害者たちから聴取した。まず、この恐ろしさがわかるかな」
「被害者が300名? そんなにいたのか」
「その通りだ。まず被害者の数に驚き給え、そして次にそれほどまでの被害者が出ながら、誰も助けを求められなかったことに驚け」
マンダムの言う通りであった。被害者が増えれば増えるほどその悪事は露呈されやすくなる。しかし、それすらをも防ぐ恐ろしい魔法、そう認識せざるを得なかった。
「その理由のひとつが、今フブキ姫が話した、幸福感。実際の聴取では快感、気持ちよさと答えた者が多かった。一部の人間は性的快感それよりも気持ちよかったとも答えている」
「……拒めば激痛、従えば快感。そうなると、時間が経てば経つほどスカイに逆らう気は起きなくなるってことか」
「そういうことさ。その上、おそろしいことにこの魔法には後遺症がついて来る」
「後遺症?」
フブキは視線を下げ悲しそうな顔をしていた。
「今も一部の人間がスカイに従った時に得られた快感を忘れられず、求め苦しんでいる」
「……中毒性か」
「そういうことさ。だが、それすらまだましな方と思える。スカイはこの魔法を使ってセックスを強要していた。麻薬のような快楽とセックスを組み合わせた最悪の行いさ。スカイにセックスを強要された女性たちは、その時のことが忘れられないらしく、今でもスカイとのセックスを求めている。スカイがいないとわかった今は、相手など関係なくセックスを求める始末だ」
「………………」
16歳になったばかりのワタルには何も言えなかった。
「これは失敬。どうやら君もフブキ姫同様うぶなようだったね。しかし、それでもスカイがどれだけ非道なことをしたかわかるだろ」
「……ああ」
ワタルは短く答えた。
「それではフブキ姫と交代しよう。ところでひとついいかな?」
「なんだ?」
「ティアは元気かな?」
唐突な質問にワタルは少し驚いた。
「ティア? 知り合いなのか?」
「心の恋人さ」
「……それは両者の間で?」
「勿論」
ワタルは知っている、ティアがよく良い男がいないと嘆いていたことを。
「1週間前の話になるけど元気だったよ」
「そうか、それは良かった。それでティアにこの4年間彼氏とかできたりはしなかったかい?」
「……俺の知るかぎりはないかな」
「そうか、それは良かった」
満面の笑みでマンダムは下がっていった。ワタルは思う、絶対に両者の心の恋人ではないと。
「あいつ、ティアのことが好きなの?」
「どうだろ? マンダム、女の子を見かけたら全員口説いてるから」
最低なやろうじゃないかとワタルは思う。
「私からもいいかしら?」
下から黒い物体がぬっと現れた。黒い物体はチュズスであった。
「あ、ああ、いいけど」
「じゃあ、お兄様は元気?」
お兄様? ワタルは混乱した。
「チュズスはフレイド将軍の妹なのよ」
「フレイドの?」
一瞬驚いたワタルではあったが、言われてみれば似ているところがあると感心した。根暗そうなところとか、陰険そうなところとか、黒が好きなところとか。
「フレイドも元気だったよ。1週間前最後に会った時は」
「そう、それはよかったわ。それでお兄様に今彼女はいますか?」
なぜ、妹であるチュズスがマンダムと同じ気迫で聞いて来るのだろう?
そう思ってもワタルは口に出さない。
「い、いなかったと思うけど」
「そうですか、うふふふふ」
とチュズスは下がっていった。
この流れなら、とワタルはサーザの走行を警戒したが特に近づいてくる気配はなかった。
「大丈夫よ、サーザはキョウヤ将軍と元族仲間だけど、わざわざ近況を聞きに来たりはしないわ」
「そうか、それは良かった……。元族仲間? サーザも山賊だったのか?」
「いえ、サーザは元海賊よ」
「海賊……そんなのもいるのか。……あいつも義賊なのか?」
フブキはぷっと吹き出して笑った。
「なんでそう思ったの?」
「なんでって……キョウヤをアイレスは山賊じゃなく義賊だっていつも言うから、じゃあそっちの元族も結局は義賊なのかなって」
「そうね、なにを持って海賊と義賊を分けるかは知らないけど、お父様はサーザを賢者にしたわ」
「そうか、じゃあやっぱキョウヤと一緒だな」
「そうね」
その言葉を最後に、微妙な沈黙訪れた。二人とも重い話に戻すのを少しためらったのだ。
「こいつら強いよな?」
ワタルが口を開いた。
「ええ。うちの最高戦力だもの」
「こいつらがいてもスカイの反乱に気づけなかった、そういうことだな?」
フブキは険しい顔をした。
「そうよ。それほどまでにスカイの魔法は完璧なのよ」
「やっぱその魔法竜たちにも効くのかな?」
「それは間違いない」
答えたのはサウ爺であった。
「フブキの話は十分だろ? サウ爺が知ってることも教えてくれよ」
「そうじゃな。……この魔法はかつて対竜のために生み出された魔法じゃ」
「対竜? じゃあ……あいつも?」
「ワタルよ、それはない」
フブキには二人の会話の意味がわからなく、明らかに困惑していた。
「ワタル、どういう意味?」
「気にするな」
フブキは何か言い返そうとしたが、やめた。フブキはワタルに会って数時間。アイレスとの手紙でワタルを知った気になっても、実際は出会ったばかりなのだ。
「じゃあ、サウ爺、あいつらも魔法に掛けられてると思って間違いないんだな?」
「十中八九間違いないじゃろ」
「じゃあ、このまま向かっても竜たちと戦うことになるの?」
フブキが不安そうな顔を見せた。
「魔法を解く方法はないのか?」
「一時的ではあるが有効的な方法がある」
フブキの顔がパッと明るくなる。
「意識が飛ぶまで殴り飛ばすことじゃ」
フブキの顔が一瞬で暗く沈む。
「なんだ、そんなんでいいのか?」
軽口を叩くワタルにフブキは唖然とした。
「ワタル、意味わかってる? 意識が飛ぶまでって結局は竜と戦うと同義なのよ」
「わかってる。何も問題ない」
フブキはワタルの意見を聞くのをやめた。
「サウ爺様、完全に魔法を解く方法はないのですか? 現に今、ドラゴノルテの被害者たちはスカイの魔法から解放されています」
「この魔法には術者の明確な意思が必要だ。故にある程度の距離と時間があれば術者の意思が途絶え、術は勝手に解ける、ドラゴノルテ王国の被害者たちは今その状態だ。しかし、今術者が有効範囲を出ているというだけで魔法に掛かっているのは変わらない。もしスカイがまたドラゴノルテ王国内に戻れば、またスカイの支配下に置かれるだろう」
「そ、そんな……」
フブキは絶句した。
「完全に解く方法は2つ、術種自身が自らの意思で魔法を解くか、術者が死ぬか、それだけじゃ」
「でも魔法の性質上、スカイが本当に魔法を解いたか見極めるのは不可能……」
フブキの言う通りスカイが魔法が解けたふりをしろと命じれば、魔法から解放されたように見える。本当に魔法が解かれたものと、そうでないもの、その違いを見極める術は誰にもない。
「結局はスカイを殺すしかないってことか……」
フブキはスカイを強く憎んでいた、それでも死で罪を償わせたいと思っていなかった。
ワタルにもスカイがどれだけ酷い男なのか理解できた。それでも殺していいとは思えなかった。
「それがそうとも限らん」
ワタルとフブキにはサウ爺の言っている意味がわからなかった。
「わしの予想ではあるが、恐らくそのスカイという男を殺さずとも魔法は解除できる」
「サウ爺さっきまでと言ってることが違うぞ」
「これは飽くまでわしの予想じゃ、それが正しいかどうかスカイを見ておらぬわしにはわからぬ。だからワタル、お前が判断しろ。さすれば、もしかしたらそのスカイという男も救えるかもしれぬ、あるいは変わらぬかもしれぬ、しかし、お前が決めろ」
ワタルもフブキも眉をしかめた。
「サウ爺、こんな時になぞなぞかよ」
「その時が来ればわかる」
それ以上サウ爺は何も言おうとしなった。
「ちょっとワタル、大丈夫なの?」
「うーん、正直サウ爺の言ってる意味はさっぱりだ。やっぱ1000年も生きてるからボケたのかな」
「ボケたとは言わないけど曖昧なこと多くない」
「それは俺が会った時からかな」
と小声で話した。
「お主ら、わしに小声などなんの意味もないからな」
フブキは慌てた様子で竜のうえでありながら身を正した。
「すみませんでした」
「サウ爺、解き方はわかったけどよ、その魔法を防ぐ方法はないのか? それがわからなきゃここにいる奴らも着いた瞬間魔法にかけられちゃうぜ」
「簡単な方法がある。あの魔法は発動時の光を見ることで脳神経に介入し効果を発揮する。だから魔法発動の光を見なければいいのじゃよ」
「やっぱり簡単じゃないじゃない」
フブキが呟いた。
「まあ、今回はミラがいる。各自ミラの羽を持てばなんとかなるじゃろ」
「あーそうか、じゃあ」
そう言うと、ワタルはカーから飛び上がり空気魔法を使ってそのままミラへと飛び乗った。
「嘘でしょ?」
フブキだけではなく、賢者の3人も目を丸くしていた。
すぐにワタルはミラから一度ヒドゥンに飛び乗ってから、飛び降りてカーの背中に戻ってきた。
「竜から竜の移動とか信じられない」
「そうか? 慣れれば案外簡単だぞ。竜の方も合わせてくれるわけだし」
それでもフブキは納得のいかないという表情であった。
竜の飛行速度は時速100キロを超える。その間を飛んで移動するなど常人のすることではない。
「はい、これ。サウンにも」
ワタルはダイヤのように固く、鏡同様に反射するミラの羽を2枚フブキに渡した。
「はい、お前らにも」
と下がって、賢者3人にも配って回った。
「これってミラの羽よね」
「ああ、持っててくれ。それと竜たちにも落ちないように差し込んでくれ?」
受け取ったミラの羽をまじまじと見た。
「なんの意味があるの?」
「ミラは最も硬い竜なんだ。ミラの体はダイヤモンド並みに硬い、その上、鏡つまりは反射の力を持っていて、あらゆる魔法をはじき返す」
フブキは少しの間言葉のの意味を少し考える。
「それって……もう最強じゃない?」
ワタルは小声になる。
「そのうえ、見ただけで魔力弱い相手は一瞬で魅了してしまうから間違いなく現竜たちでは最強候補なんだよ。俺でもガチでやって勝てるかどうかわからない。でもあんまり言うと調子に乗るから口に出さないで」
「……わかったけど、その言い草ワタルは本気でミラに勝てる可能性があると思ってるように聞こえるんだけど……?」
「ミラは守備は固いけど決定力に欠けるからな、長期戦にもつれるのは確実だから、体力勝負になるはず。そこをうまいことつけば俺が勝つ」
フブキは最早ワタルがどこまで本気なのかわからなくなっているようであった。
「もういいわ」
フブキはそう言い、サウンの肩をトントンと叩きワタルから距離を置いた。
それを無視してワタルはカーに合図を送り、フブキの横につけた。
「なあ、ひとついいか?」
「なによ?」
「スカイの魔法の正体を聞いて思ったんだけどよ、そのフブキの侍女はどうやってその告発文を書いたんだ」
その瞬間、フブキが怒りで震えているのがワタルにもわかった。
「魔法を掛けられても痛みを我慢すれば動けるのよ、ほんの一瞬わずか数ミリだけどね。彼女はその一瞬を利用して点を描き、その点で文字を作ったの」
「点で文字って……」
ワタルもその過酷さを理解した。
告発文の点の数は言うならばその侍女が壁痛に襲われた数だ。そして、1文字を書くのに必要な点の数は確実に10は超える。それで文章を書くとなると、彼女が激痛に襲われた回数は……。
「さっきマンダムが後遺症の話をしてたでしょ? 飴による効果の後遺症の話ばかりしたけど鞭の方にも後遺症はあるの。個人差はあるけれど、術が解けた直後みんな体をうまく動かせなかったわ。でも、みんな一時的なもので徐々にだけど動かせるようになっていったわ。でも……彼女だけは…………アメリアだけは、今も全く体を動かせないのよ。医者が言うには激痛に耐え続けたせいで、体中の神経がおかしくなったっていうの」
フブキの目から涙がこぼれ落ちていた。
出会ってからフブキはずっと無理に明るく振舞っていた、嫌なことを忘れようとしていた。ワタルはようやくそのことに気が付いた。
ほんの1か月前だ。国がボロボロにされ、父親が殺されれ、ずっとそばにいた侍女が動けぬ体にされた。笑っていられるはずなどなかったのだ。それでもフブキはワタルの前ではそんな素振りを見せぬように努めていたのだ。きっとワタルに心配を掛けないように。そして、自分よりもアイレスのことを心配してほしいがために。
ワタルは少し迷ってからサウンに飛び乗り後ろからフブキを優しく抱きしめた。
「ワ、ワタル……?」
「勝手なこと言っていいか?」
「な、なによ?」
「スカイを捕まえて魔法を解かせた後にさ、俺探しにいくよ、アメリアさんが元気になる方法を。その後さ、フブキとアイレスと俺の3人で遊覧飛行しよう。サウンと、ソニンとカーに乗ってさ」
「……いいの?」
「当たり前だ」
「……や、約束よ」
「ああ、約束する」
「わかってるの? その約束果たすためにはまずアイレスを守らなきゃいけないのよ?」
「大丈夫、アイレスにはソニンがついている、俺が行くまでソニンがなんとかしてくれる」
「なにそれ、竜任せじゃない」
「違う、友任せだ」
「なにそれ」
フブキは泣きながら笑った。
「それにソニンだけじゃないアイレスにはあいつらがついている」
「あいつら……?」
フブキの問いに、ワタルが答えようとした瞬間
「盛り上がってるところ悪いな、ワタル、フブキ姫」
とサウ爺の魔法による交信が入った。
「別に盛り上がってねえよ」
フブキの顔は真っ赤であった。
「それでなんだよ?」
「間もなく魔法の効果の範囲外になる」
「そうか、わかった」
「ワタル、さっきも言ったが何を倒すかはお前が判断しろ」
「サウ爺だからそれの意味がわかんないんだよ」
「わしにもわからぬ。それでは健闘を祈る」
サウ爺との交信魔法が途絶えた。
時刻は午後8時。ワタルたちはようやくサウ爺の魔法の範囲外に出た。つまりはドラゴスール王国城の遥か西にいた。
※バザンという鳥型の聞きなれない魔獣が登場しますが鳳凰とほぼ同じと思ってください。
鳳凰をカタカナにそのまま用いるのは気が引け、他に呼び名はないかと調べた結果、波山という妖怪に辿り着き、違いは多いけどそこから命名しました。詳細は、私も正直よくわかっていません。興味がある方は検索してください。
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