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10.出陣命令

 国王カミゼーロの妻フローゼは城下町から遥か南にある田舎町で生まれた。齢16を過ぎたころからフローゼは町一番の美女と呼ばれるようになり、17になったころには国一番の美女との噂が立ち始めた。


 その噂を聞きつけ町を訪れたのが当時副国王に就任したばかりのカミゼーロであった。フローゼを見たカミゼーロは一目惚れし、その場でカミゼーロはフローゼに求婚、フローゼはそれを快諾した。


 城に帰還後、カミゼーロはすぐにフフローゼを妻に迎え、挙式するつもりであった。しかし、フローゼが平民であったため、ほぼ全ての王族、貴族から反対にあった。


 そんな中、唯一カミゼーロたちの結婚に賛成してくれたのが国王であり兄でもあるクローセであった。クローセはひとり純粋に弟が婚約者を連れて帰ってきたことを喜び、茶化し、本当に嬉しそうに笑った。


 結局、クローセの後押しもあり、カミゼーロたちの結婚は認められ、国中から祝福された。そしてフローゼは国内一の美女のひとりと呼ばれるようになった。


 結婚してから2年後のある日の朝、昨夜から降り続けていた雨がぴたりと止み、城の庭の草木に残った雫たちが太陽光を反射し、庭が幻想的な光を放つ中、娘フランソワが生まれた。カミゼーロの人生史上最高の朝であった。

 そして今朝は、カミゼーロの人生史上、最悪の朝であった。


 昨夜の悪夢が頭から離れることはなく何度も何度も吐き気を催した。しかし、それさえもスカイの魔法『飴と鞭』の力で強制的に封じられる。


 本当なら今すぐ将軍の誰かに助けを求めたいのだが、起きてからというもの、昨夜決めた計画通りの動きしか許されず、カミゼーロは呑気に朝食を取っていた。既に朝食後に将軍たちに集まるように指示は出ている。そこで、なんとかスカイの正体、魔法の正体を伝えようと考えを巡らしていたが。何も妙案は浮かばず、ただ味のしない飯を掻っ込んでいた。


「カミゼーロ様、今日は随分と食べますね。さては昨夜ハッスルしすぎましたね? カミゼーロ様もまだまだ若いですね」

 カミゼーロにこんな軽口を叩けるのは数人といない。


 ドラゴスール王家に仕え40年、気が付けばドラゴスール史上初の女料理長にまで登りつめた女料理人、パンコッタである。


 パンコッタの顔は広い。昨夜フローゼを部屋に呼び出したことをフローゼの従者から聞いたということは容易く想像できた。


 カミゼーロは何も言わず曖昧に苦笑いを浮かべた。

 それに対し、パンコッタは茶化すような笑みを浮かべ、空いた食器を手にキッチンへと戻っていった。


 ――待ってくれ! 聞いてくれ! パンコッタ!!

 カミゼーロの心の叫びは届くわけはなかった。


 朝食を終えカミゼーロは将軍たちを待たせている謁見の間へと向かう。両脇には二人の直属兵が控えているが、どちらも既にスカイの術中である。


 謁見の間まで向かう間に、幾人の兵や従者がカミゼーロを見つけると立ち止まり礼をする。その度カミゼーロは異変に気が付いてくれと願うも誰も気づくことはなかった。


 その途中にスカイから渡された名簿、つまりはスカイの支配下にある兵とすれ違った。その兵はいつもと変わらぬ様子で敬礼してから去っていった。その動きは魔法に掛けられれていると知っているカミゼーロでさえ一切の変化を察知することはできなきなかった。その事実にカミゼーロは絶望した。


 魔法の存在を知っていても、変化を感じ取れない。それほどまでにスカイの魔法は完璧であった。何よりも恐ろしかったのが時間の経過と共にカミゼーロから抵抗する気力が失われていったということだ。もし、魔法に掛けられた直後であれば、助けを求めるためにもっと抵抗し、不自然な硬直を見せることができ、もしかしたら誰かがその異変に気付いたかもしれない。しかし、たった半日でその気力すら奪われ、カミゼーロ自身も気づいていなかったが、心で助けを願うだけで行動は何一つ起こそうともしていなかった。


 謁見の間には5人の将軍とアイレスが既に席に着いていた。ゲルニカ、フレイド、ティア、キョウヤ、そしてスカイ。


 スカイと目が合うとスカイは微笑んだ。その瞬間、カミゼーロに沸き起こった感情は怒りではなく安らぎであった。カミゼーロはやや遅れてそう感じる自分にゾッとした。


「国王様、昨日祭りだったっていうのに、今日からこんな大規模な防衛訓練をやるとかマジですか?」

 訓練の詳細は招集命令と同時に将軍たちには伝えられている。同時に、事実上スカイが造り上げた名簿、各軍から城に残すよう選ばれた兵の名簿も渡されていた。


「マジ、いや本当だ。私が敵国ならそういう日を狙う。幸運にも今日敵国が攻めてくることはなかったがな。まあ、他国には私のような賢い指導者はいなかったというだけだ」

 淀みなく言葉が出てくる自分にカミゼーロは内心驚いた。


「カミゼーロ様のお考えはわかりました。しかし、それでもやはり今回の訓練内容は急すぎるのではと考えます」

「急だと? お前らはもし本当に今日、今、敵国が攻撃を仕掛けてきても同じことを言うのか!? ……どうなんだ、ゲルニカ!?」

 ゲルニカは表情を曇らせた。


「カミゼーロ様の言うことは尤もです。しかし、今回想定している訓練内容は……あまり現実的とは言えません」

「……どういうことだ?」


「ゲルニカ様に代わりお答えします。私たちドラゴスールから見れば南にある4つの国、我が国から見て南にあるというだけで南方四国とまとめて呼ばれることが多いですが4国の仲は決して良くありません。また、4国の内、海に面している国、西のスネーカと東のトットとはそれぞれ西央のゼブラーール、東央のメリラムの二国よりも我が国の方が良好な関係と言えます。そのため、その4国が同盟を組み、同時に侵攻してくるという今回の訓練内容は実践的とは言えません」


 ――そうなのか。

 カミゼーロは素直に感心し、己の無知を恥じた。王になって以来、カミゼーロが素直に他者の意見を聞くのは心の中ですら初めてであった。そうできたのはスカイの魔法のせいであり、お陰である。


「そんなことは関係ない。訓練とは常に最悪の事態、すなわち我が国の隣国全てが手を組み我が国を滅ぼそうとするという事態を想定した訓練を行う必要がある。わかったか?」

 詭弁だ。他の誰よりもカミゼーロ自身がそう感じた。


「……国王の言う通りです、大変失礼なことを申し上げました。申し訳ありません」

 フレイドは深々と頭を下げ謝罪した。それに倣うようにゲルニカも頭を垂れた。


 ――なぜ、食い下がらない!?

 カミゼーロは歯がゆい思いをした。それでも己の口から意思とは真逆の言葉が出る。


「わかればよい。それでは早速準備に取り掛かれ。正午過ぎには出発しろ」

「あー、ちょっといいかな国王様」

 カミゼーロの出発号令に待ったを掛けたのはキョウヤであった。


「なんだ?」

「国王様の想定は理解できたが、だったらよ、最後の砦としてこのお城に残って、全指揮を執りながら、国王様を傍でお守りするのはゲルニカの旦那がふさわしいと思うのですが、国王様はその辺はどうお考えで?」

 キョウヤの苛立ちが見て取れた。


「失礼ながら、私もこの男と同じ考えです。少なくても、昨夜将軍に就任したばかりのスカイ将軍がその大役を受けるのは如何なものかと思います」

 ティアも明らかに不満そうであった。


「ふたりの言う通り本来ならばゲルニカを城に残す。しかし、これは訓練だ。さっきティアが言った通りスカイは昨日将軍になったばかりだ。故に、まだスカイの直属の部下は魔獣だけで、軍と呼べるものすらできていない。そんな状態で国境まで進軍させても訓練にすらならん」


 すらすらと出てくる言葉が自分の意思かどうかすらわからなくなっていた。言ってる己ですら、さっきまでの自分の発言とあまりにかけ離れたものだとわかる。こんな戯言を聞かされているゲルニカたちは怒っているのだろうか、それとも呆れているのだろうか。表情からなんとか読み取ろうとしたが4人とも一点を見つめたまま表情を変えなかったためわからなかった。


 己の意思とは思えぬ言葉はそのまま発され続けた。

「だったら、ここに残り軍の形を整えるべきだ。この話からもわかると思うが、この城に残る兵たちは今後、スカイの軍に編入されるものと思ってくれてよい。どうしても自軍に残したいという兵がいるなら1、2名くらいなら考慮してやる」

 ゲルニカたちは事前に受け取っていた名簿に目を通した。するとキョウヤが笑い出した。


「貰った時から思ってはいたのだが、この人選は誰がどういう基準で選んだものなのですか」

「我の近衛兵だが、なにか不満か?」


「いえいえ、不満なんてありません。ただ、ここに載ってる奴ら、正直俺は誰もわからないです。俺の軍の兵って言っても、軍はそこから3つの大隊に分けられ更にそこから中隊に分けられ、最後に小隊に分けられてます。詳しくは知りませんが他も似たようなもんだろ? 俺が名前を覚えてるのは俺と共に動く数名の直近と中隊以上の隊長、あとは特殊任務を受け持つ兵と、個人的に気に入った兵くらい。つまりは、国王様の近衛兵が城に残れと指名した兵たちは全員雑魚ってことです」


「おいキョウヤ、口を慎め! 自身を慕い仕える部下にその言い方はないぞ!」

 ゲルニカは激昂した。


「いや、これは俺の言い方が悪かった、謝罪する、ゲルニカの旦那。ただ、俺が言いたいのは下級の兵の寄せ集めを新将軍さんの部下とはちょっと可哀そうじゃないかって話だ。どうなんだ? 旦那たちの方は頼れる部下が引き抜かれているのか?」

 ゲルニカたちは眉間にしわを寄せた。


「キョウヤ殿の言う通り、我が軍からも階級を持つ者はひとりも引き抜かれていない」

「私の所も同じよ」


「……カミゼーロ様、キョウヤの言い方は悪いですが、この指示通りにスカイ軍を結成した場合、他の軍と比べ兵力は明かに劣ります。どうでしょう、スカイの軍に編隊を前提とし、城に残る兵を我々と共に再考するというのは?」


 城に残る兵が選ばれた基準はスカイ支配下にあるかどうかそれだけである。そして、スカイの魔法にかかる条件は魔力の低さ、弱い兵だけが選ばれるのは必然であった。ゲルニカたちがそう思うのは当然のことであった。


 カミゼーロはどう弁解すべきか一瞬悩んだ。その間に口を開いたのはスカイであった。


「せっかくの提案ですが、私個人としては問題ありません。私の軍の主力は魔獣です。ですが、部下全員が魔獣というわけにもいかないのは事実、人間の部下も必要です。しかし、皆様の軍の有能な部下を引き抜くほどではありません。それに、ここに書かれている兵は若い者が多い。私の手で優秀な兵に育て上げてみますよ」

 険悪な空気が流れた。その空気をかき消すためにカミゼーロはわざとらしく咳払いをした。


「まあ、そういうことだ。これ以上の議論は時間の無駄だ。すぐに出撃の準備に取り掛かれ」

 カミゼーロの号令にわずかな沈黙の後、将軍たちは改めて片膝をつき「はっ」と指示を受諾した。


 直後会議中一言も発言しなかったアイレスが


「失礼します」

 とだけ告げ部屋をあとにした。


 続くように将軍5人も謁見の間から出て行き、言われた通り準備に取り掛かった。去り際、スカイは振り返り微笑みながらカミゼーロに小さく手を振った。カミゼーロは自然に手を振り返していた。


 カミゼーロは自覚する。己が飼いならされていることに。


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