死刑台のエスカレーター
彼はその朝も粛々と日常にまつわることを済ませた。
起きがけに看守が来て本日処刑が行われることが告げられても、彼は動じない。すでに覚悟は出来ていた。
行き違いの結果とはいえ、人を殺め彼はここに来た。
多くはない財産はすべて金に換え、被害者の家族への賠償に充てた。彼自身に家族はすでにいなかったが、代理人に亡き母親の墓参りを頼み、詫びをいれた。
裁判でも一切無駄な言い訳をせず、罪状を認めた。
牧師が必要か尋ねられたが、断った。
すべて粛々とオートマチックに刑が執行されることを彼は願った。
したがって最後の食事も刑務所の普段のものでよいと希望し、いつも通り部屋の掃除をして彼はその時を待った。
ついに看守が来て、彼を刑場に誘う。
丁寧にお礼を言って彼もヒタヒタと廊下を歩いた。
ドアを開けるとよく聞く13階段がそこにあった。
気持ちを整えて、彼は一歩を踏み出す。
粛々と刑が執行され、それに淡々と従うことが自らの贖罪であり、そして最後に残された自分なりの美学であると彼は信じて疑わない。
「いろいろあったが、厳粛な死を迎えることができそうだ」
…と階段は白く光って上昇を始め、彼を死刑台へと自動で登らせる。
賑やかなBGMとともに、両側の壁も天井も色とりどりのLEDで点滅を始めた。
彼は思わずよろめき、そして初めて情けない声を出した。
「思ってたんと違う~っ!」
しょうもない話でした。すいません。